桃李歌壇  目次

携帯電話

連作和歌 百首歌集

4801  地下鉄の地上の口でいっせいに携帯電話同じ仕草で  蘇生 74 1925
4802  アラディンのランプは今も休み無し人の物欲なほ限り無し ぽぽな 74 2226
4803  アラビアのどこかの国の道ばたに夢の詰まったランプはないか 海斗 75 0640
4804  真夜中に「千夜一夜」を一人観る私を包むあまやかな闇 たまこ 75 0712
4805  絹の路駱駝に揺られし文物の千年眠る大和うるわし  人真似 75 0841
4806  茅屋の吹き飛ばされし屋根を直す杜甫は囃やせる子ら払いつつ 海斗 75 0932
4807  人間が思いを吐露す文字列に生きて今日も我も連なる   蘇生 75 1916
4808  レオノーレ聴きつつPC打ちをれば落首となれり闇に声して 真奈 75 2009
4809  累々と芭蕉に群る人多きそういう我も群のしんがり  蘇生 75 2020
4810  古池は花も紅葉もなかりけりとの意を盛れる宣言かなあ 海斗 75 2325
4811  青き苔潤ふ前の消息を我も伝へむこの古き径  丹仙 76 1026
4812  きざはしのまろみをおびしかどかどのまろみにおもふたれがすぎしか 蘇生 76 1836
4813  一行が解せず膝を抱くわれ峨々たる嶺を照らせ望月 真奈 76 2039
4814  心をば揺さぶりかける君のことば比喩でなく直截に伝へよ 茉莉花 76 2154
4815  悲しみはただそこにある扇風機 比喩でなくただそこにあるのみ ぽぽな 77 0029
4816  「難解な西田哲学もてあまし」と付句されたるわが師にこにこ 真奈 77 0047
4817  思索する人にはあらず暖かく生きた心の師を慕う人  人真似 77 0827
4818  くちなしの花をひと枝瓶に差し明るむごとし梅雨冷えの部屋 たまこ 77 1358
4819  縦糸の流るる如く五月雨の小高き山を渡らひにけり 海斗 77 1830
4820  新しきは縦より横とつながりをけだし地球に経度もありぬ  蘇生 78 0830
4821  金鶏草が横に斜めに倒れつつ昨日も今日も終日の雨 たまこ 78 0929
4822  おもひ星へだつへだてし天の川いつもこの夜は梅雨の真っただ中  蘇生 78 1829
4823  陰暦の行事祭事を陽暦に むりやり嵌めた過ち多し   人真似 79 0029
4824  江ノ島の展望塔の新しき朴なる古き塔のゆかしき  蘇生 710 0936
4825  蒼天にあくがれあれど翼なき吾足掻くのみ昨日も今日も 人真似 710 1442
4826  漂泊のおもひ溢るる巻頭を朗吟けだしおくの細道  蘇生 711 0512
4827  何事もなければなくて漂白の思ひをさそふ遠き雷 いかづち たまこ
4828  遠近の小磯に集く竿の人ひねもす憩ふ釣果などなく  蘇生 711 0829
4829  街中の子らは毛虫を見つけたと嵐のごとく木に走り寄る ぽぽな 711 0833
4830  この夏は何種の蝉を聴けるやら樹木まばらな新興住宅   人真似 711 0930
4831  小鳥らは影絵のごとく生垣の小さき虫を啄ばみて去る  蘇生 712 0648
4832  街路樹の千羽の鳥のねぐらなる一本伐られて遠き雷の音 たまこ 712 0725
4833  くすのきの幹に頬あて気がつかば大樹の鼓動の中にひたれり 海斗 712 0909
4834  ルビー濃きワイングラスのボルドーが目覚めん今と語りかけたり  蘇生 712 1845
4835  西日さす高き小部屋に身を浸しとろりとろりと琥珀となりぬ ぽぽな 712 2329
4836  つぎつぎに女一人が来ては憩う舞台の如きスターバックス  蘇生 713 0701
4837  ネットカフェ窓辺に並びPCのモニター覗く都会の孤独  人真似 713 1647
4838  億千の言葉の網ですくへない尾鰭ふるわす深淵の魚 ぽぽな 714 0320
4839  岩牡蠣にレモン添ひたる磯の香にワインが添はば言葉はいらぬ  蘇生 714 0522
4840  双眼の色の深さよ語らざれば憂いなきにも似たるそのひと  人真似 714 0856
4841  思ひなど測り知れなき心奥を憂へ煩ふ性のつたなき  蘇生 714 0926
4842  憂いとか愛がはぐくむやさしさは癒しの淡き翳りともみゆ  人真似 714 2155
4843  やはらかき眺めの空の明けのころ寒さの梅雨も癒しとなりぬ  蘇生 715 0845
4844  夏なれど秋も静かに隠れゐてそれはたとへば透き通る雲 ぽぽな 715 1032
4845  延々と時紡ぎ出す宙ありて蒼き焔の闇にゆらめく   人真似 715 1626
4846  淋しさの果てなむくにへ分け入りてただ鉄線花宙に咲く見ゆ やんま 715 1641
4847  就中序文の筆の冴えたるは風狂けだしおくの細道  蘇生 715 2001
4848  恋の句を読むたびにまた恋をする不易流行説くその人に ぽぽな 716 0619
4849  若き日は才気縦横だて男 狂にも艶ある俳聖の旅   人真似 716 0829
4850  長雨の今朝に久しき光あり朧々として色即是空   蘇生 717 0850
4851  キジバトの鳴き声しきり誰を呼ぶ 万緑冴えて空即是色  人真似 717 0921
4852  信号の柱の端にスズメの巣吾も此岸に仮の宿とり ぽぽな 718 0559
4853  明日もまた思いがけない事起る愉しみゆえに今日の吾あり  人真似 718 0929
4854  常しへに嬉々たる心育みて老いゆくわれは日々を見ばやと  蘇生 718 1108
4855  日日草(にちにちさう)の花を咲かせて駅裏の宿屋「おたみ」は静まりてをり たまこ 718 1320
4856  デカンタのピノノワールは芳醇に今目覚めんと静まりてをり  蘇生 718 1457
4857  人生は一歳ごとに濃く深く味わい増すとワインのごとく ぽぽな 719 0958
4858  秒刻む音の速まる感じあり時計は午後の二時を過ぎつつ たまこ 719 2200
4859  偶然が生む絵模様に見惚れつつふと気が付けば最早たそがれ  人真似 719 2250
4860  ゆく旅の土産物屋の万華鏡全て覗いてなほ満たされず たまこ 720 0257
4861  仮枕暫く居ては打やぶり馳せる心を如何に留めん ぽぽな 720 0559
4862  短夜に月も急がず冴えわたり窓より入る風の涼しき  人真似 720 0929
4863  北の地は日毎に寒き夏という冷夏となるや清かなる梅雨  蘇生 720 1616
4864  梅雨雲の切れて清けき滝の音 長雨を憂う土地もあるよし  人真似 720 2330
4865  雲切れて朝日下りたる海面に鰯の群れが湧き上がりをり  蘇生 721 1103
4866  黄昏の沖より寄せる浪しろく網干す浜に船びとの声   人真似 721 1212
4867  釜茹での白きしらすを干しのべて梅雨の晴れ間の浜に憩へり  蘇生 721 1647
4868  霧雨に暮れの鐘の音やや遠く人も車も道いそぐなり  人真似 722 2234
4869  遠近の寺の六時の鐘の音が消えいるような梅雨寒の朝   蘇生 723 0612
4870  梅雨空へ登るガラスのエレベーター ラベンダーの香のほのかに匂ふ たまこ 723 0923
4871  紫に丘をうねりてラヴェンダー雪渓白き大雪山稜 蘇生 723 1052
4872  残り香のうねるごとくに漂えば恋しうなじのしろき面かげ  人真似 723 2217
4873  本をめくる君のうなじの曲線に声掛けること忘らえにけり 海斗 723 2249
4874  若母の胸を吸いをる乳飲み子にその眼差しの誇らしげなる  蘇生 724 0920
4875  フェルメールの水差しを持つ早乙女の眼差し静か世紀を超えて ぽぽな 724 1003
4876  北欧の大気と光の謎めいてその生涯も謎おおき人  人真似 724 2229
4877  オーロラに出合ってみたいいつの日か粒子またたく満天の下  蘇生 725 1149
4878  夏の夜は涼みがてらに浜に寝て空の不思議を聴きし想い出  人真似 725 2249
4879  細波の浜に寄せては泡となり白きが消ゆる音のかそけさ 海斗 726 1246
4880  大音の花火桟敷に脚線を持て余したる浴衣波打つ  蘇生 726 1454
4881  まだ青き乳房を持てる乙女らにセクスアリテを告げる点鐘 ぽぽな 728 0811
4882  カリヨンの奏でる曲のたどたどし街ゆく人はみんな旅人  人真似 729 0842
4883  幾人の兵士が発ちし 廃駅に夾竹桃の花がまた咲く たまこ 730 0006
4884  今朝もまた改札通る戦士たち見えざる獲物探し求めて  人真似 731 0843
4885  無機質に自動化されし改札をリズム打ちつつ人は過ぎ行く  蘇生 731 1846
4886  白昼の雑踏にふと立ち止まり余剰といふ名の己に出会ふ ぽぽな 82 2206
4887  感情を忘れるまでにぼろぼろになって帰って倒れて眠る 海斗 83 2156
4888  若き日は買いかぶりし己ゐて老いては程良き線に留まる  人真似 83 2236
4889  自らを恃み過ぎたる若き日の友垣今は託ち顔なる  蘇生 84 0502
4890  むかしより嘆く歌びと多々あれど廻る時節は風まかせとは  人真似 86 0920
4891  自転車は潮風に乗り一湾の遥かなるかな夾竹桃咲く 海斗 86 1200
4892  在りし日の法王庁の城門に夾竹桃は今を誇りぬ  蘇生 87 0953
4893  時ははや秋の支度を始めしか紫と白桔梗咲く庭  人真似 87 1003
4894  盛んなる夏の緑の目のあたり葉脈はすでに錆を兆せり  蘇生 88 0905
4895  乗換えを待つ間のベンチにご婦人のお裾分けなる秋扇かな 海斗 88 1552
4896  大風の来ぬ間の夜半の月眺めはるかに思う室戸の荒海   人真似 88 2210
4897  台風の予報リングを串刺しにわが列島は秋に入りたり  蘇生 89 1111
4898  秋立つも緑陰に寄り昼寝して凌ぐ人あり庭園の午後  人真似 811 0827
4899  午睡からはっと目覚めては夢うつつ何処にわれはなどと思いぬ  蘇生 811 1810
4900  海中に潜り潜りて手は背びれ足は尾びれとなりたる心地 ぽぽな 812 0303