桃李歌壇  目次

小夜ふけて

連作和歌 百首歌集

4901  秋風に水すさまじく小夜ふけて月も満ちたる想いこそすれ  人真似 812 0537
4902  中々な梅雨去りけるを喜びつ何故に冷たき今朝の八月  蘇生 812 0728
4903  夜となりて小雨の濡らす竹林 あと幾日の夏日なるらむ  人真似 814 0128
4904  嵐すぎて藻屑をぬらす浜の雨すでに夏日はすぎて人なく  蘇生 814 0550
4905  この冷夏電力危機をまぬがれて 思いもかけぬNY停電   人真似 815 0811
4906  八月の中の五の日の炎昼に家のラジオで玉音を聴いた  蘇生 815 1945
4907  宿題に茅の団扇を作ってたあの夏国民学校一年 茉莉花 816 1252
4908  夏物を十重に積みたる売場にはすでに秋なる色が過ぎゆく  蘇生 817 1837
4909  冷夏なる日本にありて気がかりはマンハッタンの冷蔵庫なり ぽぽな 819 1031
4910  エノラゲイ誇らに展示する今日の午後はいたみし牛乳を飲む  819 1224
4911  長梅雨の明けて間もなく戻り梅雨 熟れ切るまへにいたむ白桃 たまこ 820 0823
4912  ようやくに羽化せし蝉をヒヨドリが咥えて逃げる今朝の庭先  人真似 820 2236
4913  ホーシツクツクと鳴く蝉の音が吾が耳に「放心つくづく」と聞こえる夕べ たまこ 822 0649
4914  土地土地でミンミン蝉やクマ蝉の声抑揚に差ある可笑しさ  人真似 822 2308
4915  土地土地で呼び名の違う魚の名にルーツは北か南かわれは   蘇生 823 1820
4916  誰が見ても幸せさうな私ゆゑ魚のやうにポーカーフェイス たまこ 826 0109
4917  君が住む彼方の岸の家並ゆれ夏の終わりの花火があがる 826 2335
4918  遥かなる春に萌えたる山稜がとき過ぎゆくを錆びに知らさむ  蘇生 827 0844
4919  雪解けの水もほのかに温きものを君が心のなど冷たかる  冬扇 827 1129
4920  君とともに過ごしし記憶がこの後の日日を巡らむ むしろ喜び たまこ 829 0035
4921  思ひ出は糧となるべし亡き人の道定まりて去ぬる今日より 830 2226
4922  諍ひしきはの切なき言の葉をふと想ひては今は懐かし  蘇生 831 1552
4923  かなかなの声に憑かれて佇めば懐の深くを山霧這いて 92 1041
4924  やまと歌ことの葉連ね五千首を越ゆるその日のいや重け吉事 丹仙 92 1046
4925  ときうつり実りを兆す秋の風和歌連作を五千へ吹かな 蘇生 93 0817
4926  美しい便箋を買はむ 蝉の音のいつしか消えてもう秋ですね たまこ 93 1019
4927  連綿と胸に綴りしことのはを託さむ星の早も飛ばぬか 93 2030
4928  詠うには雅言が優ると思いつつ漢字多用のわが歌の跡   人真似 94 0159
4929  久々の日本で吾はなる浦島に 言葉は生きて変わりゆくなり ぽぽな 95 0154
4930  まち並みに馴染みなきもの見ゆれども風も匂ひもうまし古里  蘇生 95 0924
4931  単線に入れば列車の揺れやすく開発の手の及ばぬ功罪 97 0610
4932  減反の地の一面の朝顔の藍に目覚める故郷の秋 ぽぽな 98 0058
4933  物忘れの深まる母が誤たず歌ふは「古里の遠い夢の日」 たまこ 98 0932
4934  三代の孫子に守られゐる母のときをり開く亡夫の手紙 98 1335
4935  今は昔物語りには仮の世の深き縁(えにし)の綴じられて有り 海斗 98 1637
4936  今はしも小波たつや空澄むや絵島のあたり鎌倉人は 910 0156
4937  海よりの風は残暑を吹きつけて雲間に富士は黒々と見ゆ  蘇生 910 1954
4938  待宵の雲みなまろき虹生みて月読渡る空ぬぐひゆく 910 2141
4939  名月に添いたる大きな星見ては巡り合わせの幸い思う 人真似 912 1801
4940  火の星を東の窓にさぐりつつ地にありわれは生を享めむ  蘇生 913 1849
4941  蓮の葉の底の朝露星の露これさへあれば乗り越えられる たまこ 914 1338
4942  死線越え戻りしものの強さもて生涯漁師を貫きし父 916 0617
4943  父在らばなんと返すやなんと見る休耕田となりし里の田 917 0933
4944  思い出す父の笑顔の特上は運動会のゴールの前に  李花 917 1149
4945  若き日の母の笑顔を思いては介護に伏せし今は悲しき  蘇生 917 2038
4946  若き日の父の頬っぺを突くたびに煙草の輪っかぽつぽつと出る やんま 917 2057
4947  二箱で足らぬHopeを喫してはつとめの日々を越えきたりけり  蘇生 918 0722
4948  素のままに風行く方佳とする佳き人吾に置きし御言葉 919 2308
4949  佳き人のよしと告りたる秋山の真木の下草色づきにけむ 921 0616
4950  言葉にはできぬ思ひよ底紅(そこべに)の木槿の花に霧雨が降り たまこ 921 0727
4951  台風の余波に託ちて人知れずごろ寝楽しむ連休の日々  蘇生 921 0945
4952  土砂降りの音を大の字になりて聞くわれに清しき秋のくるべし たまこ 922 0634
4953  窓外の左手から北の風吹くや洋上遠く野分過ぎなむ  蘇生 922 0836
4954  秋風に流るる雲を見てゐれば地球はまことによく廻るなり ぽぽな 922 1017
4955  右の手に力の少し戻りきて薄を活けるカチリと切りて  922 1020
4956  穂薄の日差し明るくなびかせてわれを誘ふ小さな旅へ 922 1146
4957  木もれ日のゆらぐ光を手にうけて美し悲しすり抜けり風 海斗 923 0845
4958  風に揺るる木漏れ日のなかを木漏れ日のひとつのやうに紋白蝶は たまこ 923 1815
4959  物忘れの風吹きダブルブッキング思ひはあまた身体はひとつ ぽぽな 924 0703
4960  さび色の露をのせたる草や穂の同じ小径を往きつ返りつ  蘇生 925 0941
4961  呪縛今解くと神の申されどなんとしましょう過ぎた年月  926 0932
4962  綿雲の影を沖へと曳き行きて北の大地は現はれにけり 海斗 927 0111
4963  冷害に祟り目なりし大地震けっぱれ越さな北の同胞  蘇生 927 2006
4964  極北の空に揺らめくアポロンの衣の裾のとらへがたかり 930 1829
4965  無人駅色なき風のすぎゆきぬ修行の僧の衣ひらりと  102 1023
4966  作務衣着たアメリカ人のブディストのバックパックにキティー微笑む ぽぽな 104 2206
4967  世に立つは苦しかりけり信号機 三しょくありて不足なけれど  人真似 105 0827
4968  うっすらと色づき初むる柿の実に夕陽が赤く秋を告げたり  蘇生 105 1701
4969  夕焼けを膝まづいては手を合わせ紅き雲間に明日を夢見る 李花 105 2119
4970  希望に満ち放電している君の眼は次の日の出が待切れなくて ぽぽな 106 0310
4971  鵜の鳥のねぐらを立ちて急ぐ影 夜釣の人は仰ぐ東雲  人真似 106 1455
4972  上げ七分魚信は未だし下げ三分強まる風にぼうず已む無し  蘇生 107 1857
4973  スズキ釣る筈が外道の鬼オコゼ 汁に投げ入れ不運を呪う  人真似 108 0009
4974  とつとつと言葉やさしく魚たちへみすずの詩の咲くやたをやか   蘇生 108 0635
4975  街に居てふと耳にする旋律に遠い記憶の海騒がせる ぽぽな 108 1016
4976  Webの世はクロスオーバーセッションのゆらぎ織りなす蒼き星雲  人真似 108 1654
4977  やさしさは澄みたる光この夕べ皓月くまなく心に通ふ  ぎを 109 0039
4978  青々と明けくる空のむなしさに夕べやさしき後の月かな  蘇生 109 0527
4979  見えぬものをしつかと見すゑて鳥たちは飛びゆく虚空の深さに堪へて  ぎを 1010 0047
4980  くだり魚集く野の虫鳥雲も侘びしげなるはなべて転生  蘇生 1010 0553
4981  ほんとうは言ってはならぬ一言を言ってしまいぬさざ波の雲 ぽぽな 1010 1013
4982  もう一言聞けば悲しくなりさうで笑つて断つて飲む発泡酒 たまこ 1011 1234
4982  語られぬ言葉はいづくに果つるやら枳殻の実けさも踏まれてありぬ  ぎを 1011 0004
4983  金色の日浴びて悲しきわたくしの指に触るるはからたちの棘 ぽぽな 1011 0713
4983  慟哭をこらえてグッと上向けば鼻腔をツンとあつい何かが  蘇生 1011 1557
4984  さびしさに友呼ぶ如き虫の音にポケットに手を突っ込んで歩む 海斗 1011 0730
4984  もう少し若かったらと言える日はまだまだ熱い想いのありき 李花 1011 2028
4985  封印を切りて木箱の中みれば雨ふる夜道をゆく影 我か?  ぎを 1011 2340
4986  はらはらと木の葉散るごと雨のふる陽水ジェラシー愛しむ夕べ  1012 0144
4987  末枯れの訪うもまばらな道の駅ビンの千草が風に枯れゆく  蘇生 1012 0543
4988  うす雲のうすくれなゐの月明り虫の音とほく広がり渡る 海斗 1012 1252
4989  眠りまで五里の遠きにある心地ただ枕のみ深く濡らして ぽぽな 1012 2210
4990  涸れ川に雨ふり雨やみ雨たまる流砂を掬ひて砂男泣く  ぎを 1013 0120
4991  春には春秋には秋の風やあるいきどほろしく心吹く風 海斗 1013 1527
4992  まどろみて移りゆく秋身を任せ天の動きを仰ぎ見るかな 李花 1013 1646
4993  紺碧のふかきみ空の底にたちため息をつく天までのぼれ  ぎを 1013 2347
4994  まんまるのランタン白く民謳うマンハッタンの満月の庭 ぽぽな 1014 0002
4995  末枯れの梅の梢を白壁に印画の如く刻す満月  蘇生 1014 0540
4996  満月に我の思いを潜めつつ秋の夜長を思ひ巡らす  李花 1014 2133
4997  淡き虹まといて駆けるアルテミス彼の心臓銀の矢で射よ 寛子 1014 2208
4998  深む秋吾が乱心に草ゆれて斑紋白き蝶の舞い立つ 1014 2308
4999  寝てもさめても心音とくとく数きざむ 打ち止むときのカウンタが見たい  ぎを 1014 2316
5000  経歴の有時の功徳の窮むれば而今に満つる五千首の歌  丹仙 1014 2344