桃李歌壇  目次

冬の夜

連作和歌 百韻

1101 > 冬の夜のブッシェ・ド・ノエルかくみゐてさわく子どもは宝と思ふ 
(堂島屋)
(1219 1802)

1102 > 樅の木を求めて森に入りし日をふと懐かしむ父の記憶と
(素蘭)
(1219 1926)

1103 > 来る年に持ち越す悩みであろうか夕べに重く落ち葉掻き寄す
(しゅう)
(1219 2246)

1104 > ふぶかれてゆくのは枯葉か鳥影か文目も分かず世紀が変はる
(たまこ)
(1219 2346)

1105 > 落ち葉にも未練ありしか緑と黄まだらに残すモザイクの美に 
(萌)
(1219 2340)

1106 > ぽろぽろと崩れさるもののみ見ゆる人智悲しき二十世紀は 
(重陽)
(1220 0517)

1107 > 凍て菊のひと群残る冬の庭滅びゆくもの思ふ黄昏
(素蘭)
(1220 1922)

1108 > 降りいでし冬の夜雨の玻璃越しにたわめるよふに想ひ出す人
(しゅう)
(1220 2301)

1109 > 真夜中の玻璃震はせて行く車ふぶく砂漠を駆る音を立て
(たまこ)
(1221 0551)

1110 > かつて流行りし「東京砂漠」イルミネーションの中に過去へと 
(萌)
(1221 0737)

1111 > 華やかなイルミネーション鏤めしかって海なる「青べか」の沖 
(重陽)
(1221 0908)

1112 > ルミナリエ燦爛として6000の死者のことなど死者のことなど 
(堂島屋)
(1221 1243)

1113 > イブなれば「きよしこの夜」歌いたきイルミネーションの家々異形
(しゅう)
(1221 1740)

1114 > 「アヴェ・マリヤ」闇にながるる聖夜には雪恋ふ心われに戻り来 
(素蘭)
(1222 0044)

1115 > 外套の若きドアマン寒風に若き二人の荷を捌きをり 
(重陽)
(1222 0525)

1116 > 門衛の外套大き綻びに老木の枯れ凄まじく見ゆ
(しゅう)
(1222 1218)

1117 > 羽衣に重ねてまとふ雪あかり冬虹の裾消えのぼりゆく 
(堂島屋)
(1222 1854)

1118 > 白龍の漁(すなど)りすらむいにしへを花降る午後の夢に追ひたし
(素蘭)
(1223 0146)

1119 > 大網の手に余りては漁ならむ百尺竿頭一歩進まむ 
(重陽)
(1223 0646)

1120 > いい思ひ出になるとひたすら歩きたり羽衣伝説の村の雪道
(たまこ)
(1223 0810)

1121 > 雪しまき逃れ逃れて山小屋にまんじりもなき光る朝明け 
(重陽)
(1223 1649)

1122 > キスカでは 北西の風 風力5 快晴 05ヘクトパスカル 氷点下10度 (堂島屋) (1223 2254)

1123 > 恋唄に天気予報を読み込みし 寺山修司在りし日偲ぶ
(素蘭)
(1224 0057)

1124 > ポンポンと言葉かさねしモンタージュ リズミカルなる修司駆けゆく (重陽) (1224 0523)

1125 > みちのくの鉄路を歩く等身の修司に会うや母のない子のように
(しゅう)
(1224 0748)

1126 > 夕暮れの丘にたたずみ聞く風はイーハトーヴに響くセロの音
(素蘭)
(1224 1415)

1127 > 朝浜の潮のあとの黒々と寄すさざ波の白きソナチネ 
(重陽)
(1224 1512)

1128 > ミサ曲を奏でるチェロに瞑目し聖夜旅立つ人を悼まむ
(素蘭)
(1224 1514)

1129 > イヴの華BBCポップのフィナーレ電話をとれば妹の入院
(重陽)
(1224 1929)

1130 > 家制度から民主主義へ賢明に生きたる女(ひと)へ哀悼溢る
(しゅう)
(1225 0842)

1131 > 墓石にウイスキーを注ぎたる息子の背よ亡夫(つま)に似て来し 
(小梅)
(1225 1051)

1132 > 子から子へそして私へ風邪熱の豆台風の嗚呼クリスマス
(たまこ)
(1225 1106)

1133 > 安息の天の恵みと思ひ伏し笑み満面の清し迎春  
(重陽)
(1225 1142)

1134 > 吹き消して闇にいさよふ蝋の香の中に過ぎ行く歳月のあり  
(堂島屋)
(1225 2241)

1135 > キャンドルの灯が消えゆけば激動の世紀の終わりに週を残さず 
(萌)
(1225 2354)

1136 > 激動の世紀といへど人の世の変はらぬものをゆかしく思ふ
(素蘭)
(1226 0023)

1137 > 千年の時を眠らす蓮の種夜明けをまちて何の夢見る 
(紀)
(1226 0755)

1138 > 花蓮そよぐ国なり生れかはり死にかはりする百千萬劫 
(堂島屋)
(1226 1208)

1139 > てのひらにミルクカップは温かく転生といふを素直に思ふ
(たまこ)
(1226 1834)

1140 > ヒマラヤの峰よりたどる蓮の国 転生児童逃れゆきたり
(素蘭)
(1226 1907)

1141 > 冷えしまる空気ゆるませ降る日照雨(そばへ)父の還りし気配のやうな(たまこ) (1226 2114)

1142 > 凍てつきし空気の中に灯りたる二十一世紀に続く電飾 
(萌)
(1226 2310)

1143 > かの日にはおとぎ話のやうだつた 『2001年宇宙への旅』
(素蘭)
(1227 0022)

1144 > 千年のうつりありしも万象の古今にうたふもののあはれは 
(重陽)
(1227 0551)

1145 > 「美しき青きドナウ」を鎮魂に選びし友はそを忘れゐて
(晴雲)
(1227 1049)

1146 > キッチンを磨いて悪しき時を遣らふ「また春はくる花をかかげて」
(たまこ)
(1227 1142)

1147 > 残る葉を嬲りて過ぐる木枯らしが小枝にそっと春を醸せり 
(重陽)
(1227 1849)

1148 > 交差する枝はトライアングルで金属音の木枯らしが鳴る 
(萌)
(1227 2253)

1149 > 裸木となりて欅の美しき樹形眺むる冬ざれの街
(素蘭)
(1228 0040)

1150 > ゆっくりと透く寒空をけや木道淡き西日を北に向かいて 
(重陽)
(1228 0443)

1151 > いくたびかひとに悲しむ大歳のうすき冬日にわが愚を悔ゆる
(しゅう)
(1228 0957)

1152 > あゆみ去る巨人のそびらさみしくて第二千年紀を送るなり 
(堂島屋)
(1228 1503)

1153 > 茜色の稜線を越えて鳥がゆくあれは吉事(よごと)を呼びにゆく鳥
(たまこ)
(1228 1820)

1154 > 咲き初めし寒梅の香のいや増しにわれは歌はむ年の緒(を)長く
(たまこ)
(1228 1832)

1155 > 日常に離(あ)るる心を癒さむと真夜にひとり言葉を紡ぐ 
(素蘭)
(1229 0105)

1156 > ひとりゐてこころ許なく打つキィの着信メール無きを知りつつ 
(重陽)
(1229 0948)

1157 > 黒鍵の位置確かめておぼつかな青空に雪兆せし気配 
(萌)
(1229 2214)

1158 > 世のことの不覚のながれ止めずなり何ぞ不易か行く年おもふ
(重陽)
(1230 0547)

1159 > ならはしの世のことごとの離れなむも清げなるかな幤の門松 
(重陽)
(1231 0534)

1160 > ぼんやりと新世紀思ゐし十代は遠火事のごとふる里山河
(しゅう)
(1231 0844)

1161 > 古里も皇御軍(すめらみくさ)も遠火事に返歌などして思ふやがわが (重陽) (1231 1036)

1162 > 新世紀なれど夕暮迫り来てセピアの写真に杯(さかずき)返す 
(紀)
(11 2114)

1163 > 新世紀祝う幾多の言葉のなか生命の重さことに身にしむ 
(萌)
(11 2137)

1164 > 二十一世紀迎へし今日の日に賀状あらたむ つつがなしやと 
(素蘭)
(11 2325)

1165 > 去年今年健やかに越え初日の出東雲あたり天翔ける鳥
(晴雲)
(12 0012)

1166 > 東雲の明けまく惜しみ耀ひて高みに鳶の初なきの声 
(重陽)
(12 1445)

1167 > 天翔る八尋白鳥東征の皇子は『古事記』の叙事詩となりぬ 
(素蘭)
(12 1505)

1168 > 俳句にはふたりごごろの叙情だと心に刻む年の初めに
(しゅう)
(13 1635)

1169 > 花野来て花に尋ぬる幾度ぞ人の心のはかりがたきを 
(素蘭)
(14 0037)

1170 > 揺れうごく心の襞の眼差に何ぞ悩みを口に出さねど
(重陽)
(14 0538)

1171 > とことはに吉事いやしけ大八島やまとの國は千代に八千代に 
(堂島屋)
(14 1200)

1172 > 幾たびもおくのほそ道たどりきし今年の友はかの山寺に 
(重陽)
(14 1848)

1173 > 木喰の上人ひとり旅にあり天一自在身を捨つる身は
(素蘭) (14 2240)

1174 > ゆく旅の今どのあたりしんとして夫の胸の拍動を聞く
(たまこ)
(15 2055)

1175 > しんしんと雪は降りけりたちまちに白き闇なる街道をゆく 
(素蘭)
(16 0000)

1176 > (訂正)凍て果てし白き光りに昵みいしダイヤモンドダスト輝ける朝 (重陽) (16 1618)

1176 > 凍て果てし白き光りに昵みいてダイヤモンドダスト輝ける朝 
(重陽)
(16 1120)

1177 > 山巓に遙か銀嶺眺むれば天啓といふ言葉を思ふ 
(素蘭)
(16 2216)

1178 > 銀嶺を映せる窓の一瞬に湧き立つ湯気にとらえられたり 
(萌)
(16 2256)

1179 > 赤冨士の江ノ島橋に陣なせるシャッター音の波に響けり 
(重陽)
(17 1025)

1180 > 富士晴れて枯れ色はるか自衛隊演習場に雪はふりつつ 
(堂島屋)
(17 1446)

1181 > 足たたばヒマラヤの雪くはましと子規は詠みたり 無念を思ふ 
(素蘭)
(18 2324)

1182 > 野ざらしを風は運ぶよプルシャプラへ天山の下遥かな旅路 
(春秋)
(18 0318)

1183 > いく世へむ東に天地遥々のモンゴロイドの野ざらしを思ふ 
(重陽)
(18 0936)

1184 > モンゴルの風を聞きたいその訳を聞いたりしない人と聞きたい
(たまこ)
(18 1944)

1185 > 草原で遠く遥かに響き会う星々の声古代の光  
(春秋)
(18 2229)

1186 > 草原の風に吹かれて佇めり ひとり夜空の星を数へて 
(素蘭)
(18 2324)

1187 > ウラルから南に下りマジャールは黒き瞳に星を数へつ 
(重陽)
(19 0532)

1188 > 星星のすべてが震へる冬の夜は眼を逸らすわけにはゆかぬ
(たまこ)
(19 0849)

1189 > 冬星のまたたきよりもなほ速い鼓動にわれとわれが震えて
(たまこ)
(19 1112)

1190 > 滾々と銀河は溢る生ぬるき波越えてゆくモルジブの夜は 
(堂島屋)
(19 1213)

1191 > ひそやかに息づく闇に星降りぬサザンクロスをふたり見つめて 
(素蘭)
(110 0030)

1192 > 波の間のチューブに開く新世界ノースショアーや我を包まむ 
(春秋)
(110 0048)

1193 > アメンボの群がる如く波立てば冷たき海にサーファー若き  
(重陽)
(110 0646)

1194 > 鈍色の三角波が立つ今日は小石になつて沈んでゐよう
(たまこ)
(110 1547)

1195 > 幾重にもこの身をつつむ海の泡見上げてみても月さえ見えぬ
(つんぼ)
(110 1754)

1196 > 掻きこみて頬をつたう滴見つけれど紅き血よりは温かき
(つんぼ)
(110 1803)

1197 > 岩割りて吹き上ぐる水滝となり巻きて流れて紅葉に映ゆる 
(小梅)
(110 2238)

1198 > 吹き抜けしパステルカラーのスポーツカー秋晴れの街の遊撃者 
(春秋)
(111 0204)

1199 > 吹上の浜の秋風さやさやとさやぐ夕べに百千鳥鳴く 
(素蘭)
(111 0114)

1200 > おちこちの車列ぬひゆくオートバイ春着の街の若き急便
(重陽)
(111 0525)