桃李歌壇  目次

春の鉄橋

連作和歌 百韻

1201 > 故郷からはた故郷への荷もあらむ春の鉄橋を渡りゆく貨車
(たまこ)
(111 0639)

1202 > 湾岸のルート狭しと連なりてトラック繁く北に南に
(重陽)
(111 0812)

1203 > 引き返すチャンスをわざと逃がしつつ疾駆してゆく海光のなか
(たまこ)
(111 1850)

1204 > 寒空で原チャリ君PAINTS雲間に浮かぶSNOWYプ〜   
(耽空)
(112 0021)

1205 > 雪降るや遙か連山隠しゐて鈍色雲の低く流るる 
(素蘭)
(112 0054)

1206 > 初空の十勝連山神さぶる厄の世の清まはるらむ 
(重陽)
(112 0812)

1207 > 初空を茜に染むる日の神の浴(あ)みする川は清らに流る 
(素蘭)
(112 1926)

1208 > 初空の遠雷あれはアポローが日の車に乗り天駆ける音
(たまこ)
(112 2227)

1209 > 初雷の落ちてし里はヒュアキントス(千鳥草)の風の香やいといとほしき (春秋)  (113 0022)

1210 > 水仙の香も雪のなか海岸にナルキッソスの面影見つめ 
(素蘭)
(113 0109)

1211 > 水仙の青き剣先庭隅の憂きも惑ひも天に吹きだす
(重陽)
(113 0453)

1212 > いやいやとその花首を風に振る水仙の花はほころびながら
(たまこ)
(113 1238)

1213 > 水仙の岬に向かい空と和し風にとけこむボンネットバス 
(萌)
(113 2140)

1214 > 背丈こす芦原の道を潮騒をたよりに岬へ走りし二十歳
(たまこ)
(113 2303)

1215 > 船団の消えゆく影追ふロカ岬ここに地は果て海は始まる 
(素蘭)
(114 0013)

1216 > 波の音潮のにほひと月影は優しく包むこんな私を  
(春秋)
(114 0217)

1217 > 罪深き君なれ我なれ一日をタゴール詩集読みて過ごしつ 
(素蘭)
(114 1053)

1218 > ほんとなの「うんうん」嘘でしょ「うんうん」とパソコン画面に誤差追うきみは
(たまこ)
(114 1740)

1219 > 伽羅たけばほのか春めくうづみ火にひもとくふみは白氏文集 
(堂島屋)
(114 1903)

1220 > 鶯の語るやけふも逝きしひと泉水汲むらむ花の底まで  
(紀)
(114 2115)

1221 > 池の水掛け合い押さえしその吐息思い出となりし花の井ノ頭 
(春秋)
(114 2256)

1222 > 井の頭公園 身近な水鳥と 動物園の象の隔たり 
(萌)
(114 2313)

1223 > 在る人を超ーウケルと連発し女子高生や遠ざかって行く 
(春秋)
(114 2329)

1224 > 暁(あかとき)のラジオ講座はただ眠く夢では解けた数列・行列 
(素蘭)
(115 0011)

1225 > 朝急ぐ車の中はバルセロナただ口ずさむ明日間に合うな〔アスタマニアーナ〕
(春秋)
(115 0111)

1226 > タベルナというレストランあり南欧の人は大きな皿を重ねる  
(紀)
(115 1105)

1227 > バルセロナに再び行くならあの店のあの椅子もちろん向いにあなた
(たまこ)
(115 1157)

1228 > 大皿のブイヤベースの蟹の色青くかがやくコートダジュール
(重陽)
(115 1207)

1229 > だれもゐない渚に白い椅子二つ並んでありし冬のリビエラ
(たまこ)
(115 1520)

1230 > アラビアの珈琲の香のほの薫る至福の夢を破る一報  
(紀)
(115 1653)

1231 > 歌に気を粉らせながら待つ知らせ寒気に窓は白く曇りつ
(たまこ)
(115 1740)

1232 > 凍て果つる阿弥陀ヶ瀧に佇めば分かるる水の微かなる音 
(素蘭) 九頭竜川の分水嶺にある瀧
(115 1918)

1233 > 分水の道に佇み降る雪の行方を見遣る遥かな海の 
(重陽)
(115 1935)

1234 > 天窓を流るる雲に照り翳り幸も不幸もやがて混沌
(たまこ)
(115 2112)

1235 > 摩天楼めぐる男女の神ありていさ新しき國産みをせむ  
(紀)
(115 2315)

1236 > 摩天楼から楽園のドアの向こう人のTSUNAMIとなる桜坂 
(萌)
(116 0001)

1237 > 高層の窓に寄り添ひ黄昏が夜景となりし街を眺むる 
(素蘭)
(116 0103)

1238 > 参道を西へ渡りて眺むればセントラルパークや遥かに思ほゆ 
(春秋)
(116 0513)

1239 > 参道を西に向かいて潮騒に伊豆大島を遥か望みて 
(重陽)
(116 0802)

1240 > 流鏑馬の道やこの道人もなくただ凩のみが海に抜けゆく 
(紀)
(116 0857)

1242 > 微睡みのなかに聞こゆる虎落笛 笛吹男夢に追ひなむ 
(素蘭)
(116 1852)

1243 > 荒海の岬へだつとも風かよふ秘めし心の夢にのせなむ  
(重陽)
(116 2041)

1244 > 愛もなき別れなれども笛吹きのごとき唇して頬に触れけり 
(紀) 
(116 2139)

1245 > いまはただすべてなくしてたたずんであいしたことはわすれはしない 
(春秋)
(117 0018)

1246 > 思い出の街かど今は変わりたり地震(なゐ)の記憶はやや薄るれど 
(萌)
(117 0023)

1247 > 思ひ出の街今のわれには遠けれど夢もうつつもきみに逢ひたい 
(素蘭)
(117 0103)

1248 > 明け方の夢を素通りしていつた草の匂ひを微かにのこし
(たまこ)
(117 0745)

1249 > 何時だつて夢の途中でゐたいけど虚飾の街に漂つてゐる 
(素蘭)
(117 0754)

124 > 家の音絶えて追焚く湯に入りて木枯し聴くも淋しかりけり
(しゅう)
(116 1744)

1250 > 「あなたがねえ昨日の夢に出てきたの」携帯電話で夢説く娘 
(紀)
(117 1009)

1251 > 二度寝して夢の続きを追いかけて一人佇む暮れ泥む空
(晴雲)
(117 1458)

1252 > 追ひかける夢に魘され盗汗の遠くなりけり夢多き頃 
(重陽)
(117 1613)

1253 > わたしの夢は林檎のやうにくるくると西瓜をむいて食べるやうなこと
(たまこ)
(117 1632)

1254 > 冬の林檎さりさり齧つて思ふのは鰻が好物なりにし茂吉
(たまこ)
(117 1742)

1255 > 凍てつきて音もはてなむ星の夜の赤き熟柿の舌に溶けゆく 
(重陽)
(117 1832)

1256 > 冬麗カプチーノの香を楽しめどオープンカフェには誰も出てこず 
(春秋)
(117 2327)

1257 > 青山のすこし外れの原色とメタルカラーの接するカフェ 
(萌)
(118 0033)

1258 > モカマタリ カフェ・カプチーノほろ苦く思ひ出すのはあの喫茶店 
(素蘭)
(118 0043)

1259 > ほのぼのと寡黙の時の過ぎゆきて口に運んだ冷めたコーヒー 
(重陽)
(118 0623)

1260 > 受け皿の熱き紅茶を飲み干せば革命を説く君のまなざし  
(紀)
(118 0841)

1261 > 倫理学を友とぬけだし神宮の森に放ちし十九のこころ
(たまこ)
(118 0932)

1262 > こころとはある日溢れし幸せもすぐ空になる悲しい器
(しゅう)
(118 1552)

1263 > 人嫌ひ人恋しさのせめぐ夜はアダージョ流るる部屋に籠もれり 
(素蘭)
(118 1956)

1264 > 血と雨に濡れて逝きにし岸上大作 窓暗くして雪花が散る
(たまこ)
(118 2013)

1265 > 四十九日の謂れ書かれし堂内のうす暗闇に風花舞い込む 
(萌)
(118 2355)

1266 > 風花となりて舞ひたき心地する暗き御堂に仏座せど 
(素蘭)
(119 0025)

1267 > 氷閉づ冷えた体に一縷の火目映き光ランスのカテドラ 
(春秋)
(119 0112)

1268 > 冬の星その瞳には迷いなし聖母に祈る旅人もまた  
(紀)
(119 1039)

1269 > クルーガ−教会の屋根の大時計止まりゐて旅人われも伸びをす
(たまこ) (119 1052)

1270 > 遥かなる干潟の風に僧院の尖塔そびゆモンサンミッシェル
(重陽)
(119 1423)

1271 > サバンナの乾期の風にきらきらと飛びゐし小さき鳥を憶ふ日
(たまこ)
(119 1634)

1272 > 水鳥の水尾のひろがりわが胸に秋の夕べの白き便箋 
(しゅう)
(119 2303)

1273 > 空青く海あをくして白鳥はただに白けり 歌人のごとく 
(素蘭)
(120 0157)

1274 > 夕映えの黄金豊かな冬磯に佇み吾はひとり愉しむ 
(重陽)
(120 0652)

1275 > 夕映えに豊かなるかな麦秋の近江の里にひとり佇む 
(素蘭)
(120 0819)

1276 > はらはらと万花こぼれる北の春石狩川は龍の如くに
(重陽)
(120 0843)

1277 > 雪解けの水満ち来る我が心汝を慕ひつつ溢れけるかも  
(紀)
(120 1703)

1278 > はらはらと降りける雪に生(あ)れし日の雪の深さを思ひ重ねつ 
(素蘭)
(120 1715)

1279 > 雪解する山道行けば錦旗風にたなびく峠の茶屋は 
(春秋)
(120 1724)

1280 > 雪の夜の林檎のかほりに思ふのは北原白秋そしてその恋
(たまこ)
(120 1733)

1281 > ありとある過ぎにし季節あふれだし夢の峠や涙もとまらぬ 
(春秋)
(120 1741)

1282 > 遥かなる思ひつめたる山稜に思ひのしかにいつぞ立ちなむ 
(重陽)
(120 1816)

1283 > 遙かなるきみに寄せたるわが思ひ朧なる夜の闇に溶けゆく 
(素蘭)
(120 1852)

1284 > 朝刊にいつしか君の現われて電話電話と囁いてゐる 
(しゅう)
(120 2153)

1285 > 気がつけばいつのまにか午後ひき寄せて電話に気泡のやうな言の葉
(たまこ)
(120 2202)

1286 > 振り向けば追いかけてくる君がいた授業を抜け出しチャペルの丘へ 
(春秋)
(120 2354)

1287 > 振り向けばいつも君がゐたあの夏の日の輝きを胸に秘めつつ 
(素蘭)
(121 0136)

1288 > 今とても同じからずや歳々のことごとすべて遠くなつかし 
(重陽)
(121 0523)

1289 > 思ひ出は思ひ出のまま冬の虹のこちらで私は元気に生きる
(たまこ)
(121 0749)

1290 > 末枯の曠野に懸かる時雨虹いつ果つるともひとり行く道
(紀) (121 0819)

1291 > 「定子」とふ美に殉じたる一生と『枕草子』読みつつ思ふ 
(素蘭) 
(121 1209)

1292 > 梅の花一輪添へて春来ると永く患ふ友に送れり  
(小梅)
(121 1757)

1293 > 風寒み襟たてゆきし壊滅の神戸北野の梅は忘れず  
(堂島屋)
(121 2031)

1294 > 異国より今また伝はる惨状に神戸の街のかつてを思ふ 
(素蘭)
(122 0007)

1295 > 異国から新風はこぶ黒船や笑顔も涙もここは横浜 
(春秋)
(122 0216)

1296 > 異人館睦月如月哭きにけり身を震はする六甲おろし  
(紀)
(122 0809)

1297 > 魂の慟哭聞こゆ異国(ことくに)の獄舎にありて詠める歌より 
(素蘭)
(122 2030)

1298 > 雪深く友のかばねを埋めしこと歌ふべからず語るべからず 
(堂島屋)
(122 2115)

1299 > 恵まれし者の優しさ拒みゐて友は悲しみただ深めゆく 
(素蘭)
(123 0031)

1300 > 杖ひきて歩む媼を追ひ越せど又戻りゆきともに語りき 
(小梅) 
(123 0759)