桃李歌壇  目次

去年の制服

連作和歌 百韻

1501 > 春風の中に去年の制服の少し恥らうほどの幼さ 

(萌) (227 2320)

1502 > 夢十夜君を恋ひをる百年の後の白百合風に揺らるる 

(素蘭) (228 0019)

1503 > しあわせになれただろうか百年の眠りを王子に覚まされし姫

(たまこ) (228 1005)

1504 > びょうびょうとそれと覚しき春疾風生きとし生きるものや目覚めむ

(重陽) (228 1036)

1505 > 二月尽 雨が芝生をノックして蛇や蛙に春をしらせる

(たまこ)(228 1049)

1506 > 雨も尽き 底力尽き やるせなく ほったらかすの 白梅の精     

(耽空) (228 1100)

1507 > 三月はライオンのやうに来ると言ふ木の芽花の芽の精を従へ

(たまこ) (228 1124)

1508 > 春雨に蔓薔薇枝を伸ばしたり弥生の空を絡めとらむと 

(素蘭) (228 2358)

1509 > 明け方のひととき強き春の雨花粉のとばぬことのうれしき 

(重陽) (31 0623)

1510 > 嘴を花粉によごしし鳥を迎へ夕べの巣箱は明るむごとし

(たまこ) (31 0936)

1511 > けならべて春かたまけし雀らのさわく夕べとなりにけるかも 

(堂島屋) (31 2256)

1512 > 繁殖の春を迎えし百鳥はサンクチュアリに囀りやまぬ 

(素蘭) (32 0136)

1513 > 潮溜まり磯広々と春潮の小網をかざし子ら戯むれり 

(重陽) (32 0603)

1514 > 返す波も寄せくる波もそれはそれ渚のやうなわたしでゐたい

(たまこ) (32 0855)

1515 > 戯れに石を投げたり残照の海に向かひてひとりしあれば 

(素蘭) (33 0056)

1516 > さざ波の白く広がる朝浜ににまごうばかりに立春の雪 

(重陽) (33 0537)

1517 > 風薫る五月の森に降る雪か なんじゃもんじゃの花の白けさ 

(素蘭) (33 1150)

1518 > しらじらの虚言の多き国長に衆の心は春を待つのみ 

(重陽) (33 1840)

1519 > 美徳説く人の言葉を空言と聞きたることの空しくあれば 

(素蘭) (34 0151)

1520 > 吹く風の鳴りくぐもりし春雷の遠くにゆきて鳶の行き連る 

(重陽)  (34 1246)

1521 > 春雷のはつか聞こゆる遠空に円を描きて鳶鳴きわたる 

(素蘭) (34 1406)

1522 > ガラス窓をかすかに震はす遠雷よもつと激しくもつと激しく

(たまこ) (34 1944)

1523 > 春雷を遠く聞くよう見覚えのある筆跡は羨(とも)しくも見え

(しゅう) (34 2136)

1524 > 三井寺の鐘の音わたる鳰の湖(うみ)藍と茜に満ちてともしき 

(素蘭) (35 0058)

1525 > 睡蓮のいまだ目覚めぬほとりにて猛きもののふ思ふはやわが 

(重陽)鶴岡八幡・源平池 (35 0800)

1526 > 重陽さんの門に帰るとかの守宮も目覚めてをらむ今日は啓蟄

(たまこ) (35 1250)

1527 > 待ちわびし門の守宮の目覚めらむ出でよ出でよと仰ぎみる夜半 

(重陽) (35 1403)

1528 > 地のうちに眠る虫どもはや出でよ光は春となりて久しき

(登美子) (35 1631)

1529 > はえば立て笑いて泣けば可愛いと欲しきものなど欲しきものなど 

(重陽) (35 1950)

1530 > 金と朱の看板のした逃げまどふ霰たばしる南京街を 

(堂島屋) (35 2141)

1531 > 激戦の地の壕中にありてなほ人は悲しき歌詠みつげり 

(素蘭) (36 0102)

1532 > 貧にたへ懊悩しつつ貧にゐて佐藤佐太郎歌詠みつげり  

(重陽) (36 0553)

1533 > わがいのち生きゆく証つたなくも歌詠みつがん心みつめて

(登美子) (36 0633)

1534 > 戯れと言へどふるふる息込めてシャボン玉なるわたくしの歌

(たまこ) (36 0952)

1535 > 折々の心にふるる生業の息つきなるか同胞の歌 

(重陽) (36 1034)

1536 > くるくると人に惑いし濁流の上澄み掬う我が歌であり

(しゅう) (36 1038)

1537 > 清濁を合はせ飲まねば生き難しと教へし教師早く逝きにき

(たまこ) (36 1147)

1538 > 濁流にわが竿さしつ現世の清き澪へと虚心にゆかむ 

(重陽) (36 1354)

1539 > 清やかな灯ともるごとし友よりの土佐文旦は寒の厨に

(たまこ) (36 2052)

1540 > 血縁の幸せ薄き別れ霜いまからここから真白いページ

(しゅう) (36 2122)

1541 > 隅田川母の思ひはいやまさり涙雨降る梅若の寺 

(素蘭) (37 0011)

1542 > 春や春除隊の父のゲートルを汚せし泥に思うはあの春 

(重陽)増殖をよみて (37 0541)

1543 > うつし世に相見しことのなき父が胸に消えぬは血の縁とか

(登美子) (37 0541)

1544 > 我が内に父のありけりコーヒーのスプーンで秤る朝のこのとき 

(絵馬) (37 0749)

1545 > 下の子の入園のあとひとりにて飲みしコーヒーの忘れ難しも 

(しゅう) (37 0938)

1546 > ゆくりなく旧友よりの電話受け語ればやまずコーヒーは冷め 

(堂島屋) (37 1229)

1547 > 折々に孫や如何にと問う妻の心は吾子を思う言の葉 

(重陽) (37 1914)

1548 > 妻という人になる為君はゆくバージンロードへ思い出と共に 

(春秋) (37 2346)

1549 > 恋ふ人の心はかれぬ春の夜は思ひ出胸に転がしてゐる 

(素蘭) (38 0053)

1550 > この痛み忘れかけてたその思いパウダースノウと安らぐその癖 

(春秋) (38 0053)

1551 > 処女雪に埋もれもがきし青春の痛みも今は美しきもの (重陽)

(38 0910)

1552 > 一途なる青春の嘘つぽい月かふと蘇る「どん底」の歌声 

(しゅう) (38 1011)

1553 > あの時もそして今でも振り返るよりも先へと生き急ぐ春

(藍子) (38 1712)

1554 > 「罪と罰」男の子愛しと思ひたるそのはじめなりラスコーリニコフ

(登美子) (38 1720)

1555 > 「大学生、老婆惨殺!」「エリートに潜む狂気!」と活字は躍る 

(堂島屋) (38 1823)

1556 > 〈LUNATIC〉月に狂ふは人の世の習ひなりしか心あくがる 

(素蘭) (38 2008)

1557 > 月からの手紙のような大らかな光を受けて歌いだす海 

(萌) (38 2142)

1558 > 秘め事のやうなる月とわれの宴言葉の海に光満ちたり 

(素蘭) (38 2308)

1559 > 満るほど何かわびしき月の夜のもとなことなど思ふはやわが 

(重陽) (39 1834)

1560 > ちりひとつとどめぬ望月託すべき言の葉は秘めしままとこしへに

(登美子) (39 1854)

1561 > 河津からの花の便りも冴え返るきょう望月の西行忌かな 

(しゅう) (39 2231)

1562 > 裸木はうすくれなゐの羅を纏ひ桜驕りの春を待ちけり 

(素蘭) (310 0024)

1563 > 春暁の未だ静けき裸木の精を湛ふはただに嬉しき 

(重陽) (310 0533)

1564 > 春風邪にこもりて過ごす三日目の窓をゆらゆら行く飛行船

(たまこ) (310 0910)

1565 > 春風邪のうつらうつらもまた楽し飛行機雲を夢に追ひつつ 

(素蘭) (310 1553)

1566 > 待ちわびて風邪と花粉に襲われむとはいえ春の日永にあれば 

(重陽) (310 1603)

1567 > 屋根越しに見る遠山の残雪が蒼くかげりて春の日は落つ

(登美子) (310 1749)

1568 > 紅(くれなゐ)の蕊を摘まれてうち開きカサブランカの花の蒼白

(たまこ) (310 1802)

1569 > ある時に蘂の黄色が目にとまりそこから別の「さくらさくら」 

(萌) (311 0007)

1570 > 片栗の花むらさきにまつはりて春の女神の蝶は舞ひたり 

(素蘭) (311 0148)

1571 > 明滅の絵島の灯り遠くみて鎌倉山に初音追ひきく 

(重陽) (311 0547)

1572 > 生れ変はるなら鳥がいい魚がいい いいえ私は空になりたい

(たまこ) (311 0720)

1573 > なにもなきはてなき空と風にゐてしばし心の安らぎをえむ 

(重陽) (311 0849)

1574 > 幼いころのいつも額に吹いてゐた風思ひつつブランコを漕ぐ

(たまこ) (311 1036)

1575 > ふらここをひとり揺らしてまぼろしのきみに逢ひなむ春の余白に 

(素蘭) (311 1219)

1576 > 雪深き北国あたりか古本の余白に書かれし電話番号

(たまこ) (311 1424)

1577 > 目の前の今は止まりし鞦韆に軽ろく手を添へぬくもりを追ふ 

(重陽) (311 1424)

1578 > ふららこと春の余白を詠みをりて互いのキィは同時に打たる

(重陽) (314 1740)

1579 > まぼろしを追ってゐたやうな半生の余白に残るおもかげもあり

(登美子) (311 1703)

1580 > 春浅き夢とうつつのあはひにぞ昔の人の声聞こゆなる 

(堂島屋) (311 1959)

1581 > そこに見ゆテレビの中のアジアには子どもの我とかの街ありき 

(藍子) (311 2356)

1582 > 混沌と喧噪満つるパサールにアジアの民のぬくもりを知る 

(素蘭) (312 0106)

1583 > 春浅き小さな街の朝市にエネルギシュな笑いざわめく 

(重陽) (312 0535)

1584 > 「ちょっと姉ちゃん!一山千円!」粉雪散る輪島朝市おばちやん元気

(たまこ) (312 0801)

1585 > 旅先のくらし顕わな朝市のトマトやきゅうり買ひてほほばる 

(しゅう) (312 0851)

1586 > わが街もお日さまマーク夫のゐるモントリオールもお日さまマーク

(たまこ) (312 1036)

1587 > 同胞とモントリオール議定書の思ひただしつ未来にかけむ 

(重陽) (312 1326)

1588 > 極北の気圏に生れしオーロラは無機質に光る−未来の嬰児  

(絵馬) (312 1421)

1589 > 手翳しに見はるかす海の白銀の光に満ちよ未来といふは

(たまこ) (312 1617)

1590 > 過去を見ず未来思はず刹那より刹那に跳びぬ若きいのちは

(登美子) (312 1841)

1591 > 少年の心に疼く悲しみを『15の夜』に歌ひし尾崎 

(素蘭) 尾崎豊『十七歳の地図』から (313 0101)

1592 > 揺れやすく傷付きやすく撥ねやすく小枝のやうなわれの少年

(たまこ) (313 0614)

1593 > あっかるくぶっきらぼーにひょうきんに振舞う青き疼く心根 

(重陽) (313 0815)

1594 > 十六の子といさかひし日は大皿にいちご盛り上げ一人で食べる

(たまこ) (313 1127)

1595 > 十七歳の自意識地獄ことばてふ鍵もてわれは逃れたりけり 

(堂島屋) (313 1852)

1596 > パンドラの匣をいだきし旅なれば希望とふ名の歌詠みつげり 

(素蘭) (313 1952)

1597 > 朝なさなとく生業を詠みつぎて日暮に明日を思ふやはわが 

(重陽) (313 2011)

1598 > 今日の日を過去となすべく夕空は蒼ひと色に澄みわたりゆく

(登美子) (314 0817)

1599 >ちちのみの父の朝あさ歌ひゐし「光の国から来る」朝がくる

(たまこ) (314 0831)

1600 > バーミヤン微塵となりし石仏よ明治日本も廃仏をしき 

(堂島屋) (314 1206)