桃李歌壇  目次

わが碑ぞ

連作和歌 百首歌集

 

5301  一千首の四分の三を乱れ詠みわが碑ぞ三十一文字は  蘇生 15 0515
5302  初春に時紡ぎ出す宙あれど花やおそきと鶯ぞなく  ひとまね 15 1329
5303  笹鳴きの声微かなる高台を初音が原と頼朝名付けむ  弁慶 15 1600
5304  枯紅葉碧を従へづんと立つ幽かな息吹枝先に篭め 海月 15 1845
5305  寒冷に肩をすぼめるわが前に白き光に映える鱗芽  蘇生 16 0607
5306  風を読む巣立ちの鳥のつぶらな瞳葱の坊主がうなづきてをり 真奈 16 1404
5307  鴨鳴くや一文字草の畑の際寒き流れに群れて漂う  弁慶 16 1414
5308  葛湯にも春の香がするオイ猫よホーホケキョとは鳴かないもんか 海月 16 1721
5309  信長に猫をあずけて見ましょうよホケキョと鳴いて命乞うかも  蘇生 16 1852
5310  銀の猫子等に与えて西行は東を目指しスタスタと行く  弁慶 16 2017
5311  どうせなら家康にしてちょーせんかミャーミャー鳴いとりゃケキョと聞くがや 海月 16 2142
5312  陸奥までは主君のために延年の舞を舞はうよ鈴掛の衣  丹仙 16 2156
5313  いつはりの勧進旅と知りつつも判官びいきのせきぞかねつる  ひとまね 17 1047
5314  西行の誉めし桜の束稲(たばねし)の山は吹雪の夕間暮れかな  弁慶 17 1431
5315  庚申をなどて照らさむ寒月や花を待ちつつ酒を酌みしや 海月 17 2155
5316  梵語でも漢国(からくに)人の言葉でもなく和語にて月の悟り開けり 海斗 17 2235
5317  手鞠唄 ひふみよいむなや ここのとを あけてぞ今朝は逢ふを許され  18 1009
5318  関の石踏みてしのびしほととぎす破れ築地に細き道あり 真奈 18 1136
5319  衣の裾からげて渡る浅川の底石おほふ天鵞絨の苔  千種 18 1202
5320  白河の以北は雪の広の原冬将軍の占領地かな  弁慶 18 1204
5321  君知るや水底深く沈む日に魚(いを)の心の揺らぎ靡くを  18 1513
5322  どんよりと鉛色した磯潮に冬陽をあびる小魚の群  蘇生 18 1812
5323  松原に風吹きわたる冬の海沖合い遥かカモメ群れ飛ぶ  弁慶 18 1840
5324  オフェリアの想ひは知らず水面には裳裾拡がる睡蓮の花  18 2019
5325  緑なる裳裾を拡げ鳥毛立つ飛鳥の女人(ひと)の声麗しき  弁慶 18 2028
5326  水無瀬川下ゆ深きにねぶりたる日はまた昇り裳裾輝く 海月 18 2047
5327  水無瀬川岸辺の里の白梅の匂いし彼方に雪の遠山  弁慶 19 0934
5328  雪解けの水満来たる我が心汝を慕ひつつ溢れゆくかも   19 1026
5329  白湯やさし涙涸れゐる真底にさやさやさやと沁み渡りゆく ぽぽな 19 1048
5330  さやさやと小夜の中山吹く風に妹の黒髪波打ちにけり  弁慶 19 2034
5331  親離れ子離れともにせつなくて小夜吹く風に揺るる星影 たまこ 19 2050
5332  小夜更けてマナ−モ−ドの音微か嬉しかりけり君からのtel  弁慶 19 2120
5333  小夜千鳥鳴きつる声も波に消へ恋てふ祈り月に届くや 海月 19 2133
5334  三ヶ月に願いをかけし武者のごと君への想い月に祈らん  弁慶 19 2205
5335  その人の吸ひて吐く息我がものと思ひつめたる真夜の静けさ  110 0033
5336  恋しさに月夜も闇もひたすらに君を偲んで夜を明かすかな  弁慶 110 0114
5337  可惜夜の花の囁き聞きをればただふうはりと散るがのぞみと 真奈 110 1039
5338  散る花に己の姿重ぬれば音さへいとしと思ふこの夜は 茉莉花 110 1059
5339  黙想の夜にたゆたふ舟あれば眠りも深く黄泉の底まで  110 1715
5340  渡し守雑談の末ふと云ふた誰が渡さむ汝と我とを 海月 110 1807
5341  駈けぬけし足裏白き少年の吊り橋揺する声のさざめき  奈都 111 1112
5342  吊橋の揺らぎに竦む乙女子の手を取り歩むたおやかな手を 海斗 111 1723
5343  そよ風の吹けば岩間に巣立ちたる燕の子らの美
5344  陽だまりに遊ぶ子雀寒九の日忘れ鉢にも萌ゆるもの見ゆ 真奈 112 0026
5345  冬の夜に一人生くるは寂しからむ小豆煮るなり母思ひつつ  奈都 112 1036
5346  ストーブでポトフ煮ながら返事書く腹出し猫がパーをした 海月 112 1514
5347  ストーブを囲みて話すあれやこれ結論いつも景気悪いね  弁慶 112 1529
5348  春の星じっと見つむる猫のごと今宵のことは忘れてしまふ  奈都 112 1608
5349  思い出は何故にか深く沈みいて時に呼吸しまた沈みゆく  蘇生 112 1844
5350  思い出を取り出してみるその時は心が静かに濡れているとき 茉莉花 112 1919
5351  忘るゝは忘れなきこと忘れ草身につけ給へ冬にしあれも 海月 112 2020
5352  悪ガキのカダフィいつかわけ知りの大人になったこれでいいのか 真奈 112 2213
5353  喫茶店君を待ちたるさざめきの紫煙に嗅ぐは微かなる罪  奈都 112 2240
5354  ニトロ持つ身となる我を知りてより煙草控える君のやさしさ 茉莉花 112 2259
5355  慰みのHOPE三箱をやめて知るヤニにまみれて臭きことごと  蘇生 113 0612
5356  凍る夜の温き血糊の跡形無し朝の駅踏む億千の足 ぽぽな 113 1201
5357  血ぬられし眼鏡洗はぬレノンの忌マンハッタンのビル透かし見る 奈都 113 1311
5358  コキコキと凍てる砂漠や血が落ちぬ狐はガキでただ老ひただけ 海月 113 1517
5359  雫石凍てし川面の雪のうえ野狐らしき足跡のあり  弁慶 113 1737
5360  みずぐきのあとうるわしき歌みれば昔も今も変わらざるひと  ひとまね 114 0048
5361  とび梅の真咲きの白を慈しみ今も変わらぬ祈る心は  蘇生 114 1826
5362  アッシジの地にも平和を祈るらむ水琴窟の微かなる聲  奈都 114 2137
5363  愛される者より愛す者なれと聖フランシス祈り給ひき  千種 114 2237
5364  海洞実の弾けるごとく自爆せる幼き顔の痛ましきかな 真奈 114 2342
5365  真実の生をも知らぬ幼子が自爆を知るや殺すは誰ぞ  蘇生 115 0655
5366  若者の不作法嘆く中にひとり「我々が悪い」と厳しき声飛ぶ 茉莉花 115 1057
5367  紅白の梅の花咲く奥津城へ垂乳根の母は旅立ちにけり  弁慶 115 1700
5368  つむり病み枇杷むく母の細き指どれみふぁそらしど歌ふソプラノ 真奈 115 1852
5369  枯葎そのままにして母いないテンテケ太鼓叩いてみよう 海月 115 2215
5370  初孫を抱きて歌ふその聲はわが母の唄聴くも懐かし  奈都 115 2243
5371  たらちねの落語オペラのベルカント鶴女手をつきあーらわが君 真奈 116 1415
5372  清六が安藤二蔵に胸肉の五百匁を迫る新作  千種 116 1715
5373  鏡片でリスカしたる子また来る胸が寒いの全部が嫌い 海月 116 1833
5374  風寒き流れの岸に翁いて織部の緑の川海苔を採る 弁慶 116 2106
5375  裸木は風の記憶に脊を伸ばし春の希みに顔をあげたる 真奈 116 2146
5376  春を待つ願いの強さ水仙の黄と白に染む英国の苑 茉莉花 117 0022
5377  ふりそめし雪をおさめて願ふごと八十葉の椿天を窺ふ  奈都 117 1057
5378  淡雪の降るゆかしさよ夕暮れの旅寝の宿の露天風呂かな  弁慶 117 1419
5379  遠目には白き花おく梅が枝は盛りし紅に添ひし初雪  蘇生 117 1608
5380  白梅がちららほららと雪のなか神籤をつけて咲き誇るごと 海月 117 1817
5381  寒中に屹立として凛として梅に男の姿重ねる 茉莉花 117 1849
5382  厳寒に楚々と咲きたる紅梅は手甲佩びたる早乙女のごと  蘇生 117 1909
5383  いにしへの紅鶯宿と詠まれける和泉式部の梅は軒端に 真奈 117 2001
5384  淡雪がまだらに残る北屋根の真下に紅き梅の勢い  蘇生 118 0712
5385  ひすがらの吹雪に逢へど永平の一華を蔵す古き梅の樹  丹仙 118 1048
5386  早咲きの「河津の桜」咲きにけり年のはじめにかすみ立つらし  弁慶 118 1428
5387  桜待つ消灯後にも雪やまず蹴倒すか雪燃やそうか雪 海月 118 1821
5388  明日あるを恃む心の櫻花流るる雲の母の背に似て 真奈 118 2352
5389  梅桜の模様あしらう西陣の帯しめし君の麗しきかな  弁慶 119 1341
5390  鶯の色の留袖身にまとひ春の訪れ心踊りて  李花 119 2345
5391  石臼に杵下ろす度子供らの国の母音の立ち上るなり ぽぽな 120 0414
5392  日本語の柔くやさしき響きなるガ行鼻濁音すでに古りしか 茉莉花 120 1022
5393  和やかにやさしき声で「無縁坂」歌いし母も今はいまさず  弁慶 120 2032
5394  坂の名はのぼり坂とかくだり坂胸突八丁さびさびと風 真奈 120 2220
5395  寒ざれて笑っちゃうよな抜けた空ねこ付いてくる豆腐屋の坂 海月 120 2240
5396  幼き日坂のぼり来る豆腐屋の間延びした声今はなつかし  弁慶 121 1152
5397  吾を歌にいざないしその一冊は松下竜一「豆腐屋の四季」 茉莉花 121 1341
5398  竹の子の傘を被りて豆腐小僧江戸ご府内に配る妖怪 真奈 121 1455
5399  護符降るええじゃないかやえじゃないか山河在りとは露知らぬ冬 海月 121 2024
5400  フィヨルドのほとりにいつか帰る人声ひっそりとソルベージ歌ふ 千種 121 2139