桃李歌壇  目次

在りし日の人

連作和歌 百首歌集

 

5401  天翔ける歌の調べは在りし日の人も景色も蘇らせし 茉莉花 121 2221
5402  舟型の古き竪琴歌ひだす魚の音符の虹のロンドを 真奈 121 2332
5403  もがり笛岬の外れに飛ぶしぶき中に虹見ゆ冬の海かな 弁慶 122 1712
5404  笛なれば悲鳴あげよと北風が荒れてひねもす富士に波立つ 蘇生 122 2015
5405  シベリアの荒野に生(あ)れし風ならん高圧線を暗く哭(な)かせる たまこ 123 2002
5406  シベリアの風吹きつける富士山頂雪の煙は東へたなびく 弁慶 123 2027
5407  富士山に蜜柑をひとつ置いてみた哭いてる雪にそれは映えたさ 海月 123 2126
5408  氷ノ山下ろしの吹雪に晒されて木守り柿の実の清冽な赤 たまこ 124 1151
5409  ふる雪に木守の柿の実赤々と梢に残れり故郷の廃家 弁慶 124 1326
5410  万両の赤きが消えぬ庭の隅いづれも鳥の餌となりつべし  蘇生 124 1524
5411  はやみかんしなびてきたよこたつのうえのかしざらことり 海斗 124 2241
5412  枯枝に蕾のありて紫陽花の地の温りに「営為」が浮ぶ 海月 124 2242
5413  櫻木のいまだ花芽は固けれど樹皮黒々と輝き初むる  蘇生 125 1150
5414  杉並の泉湧き出る井ノ頭あふれし水は花の墨田へ 弁慶 125 1610
5415  古のここに山城ありつべし谷(やつ)尽きる辺に泉湧きをり  蘇生 125 1905
5416  城落ちて雑兵奔る切通し夢幻のなかに寒木瓜が咲く 海月 125 2149
5417  鎌倉は疎開の地なり今もなほ機銃掃射の耳底の音 真奈 125 2201
5418  夕立はみぞれ混じりの北鎌倉我は駆け込む女寺かな 弁慶 126 1003
5419  東慶寺いまも欲する女あらむアジアアフリカ搾取さるる地に 茉莉花 126 1050
5420  末枯れの岩根たどりて化粧坂そろり下りて古きを思ふ  蘇生 126 1252
5421  暗かった三月十日そこだけが明るかったな友のいた町 海月 126 1551
5422  色秘めつミモザの蕾ゆれをりて風に色あり空に色あり  蘇生 127 0806
5423  固く合わす阿修羅の御手になに籠めし色即是空空即是色 茉莉花 127 0948
5424  国問わず母親達はいとし子を育てむとして阿修羅のごとく 弁慶 127 1430
5425  願ふのは子らを羽ぐるめ喜びの春ひらくのはこの子らなれば 海月 127 1726
5426  初めての保育園より帰宅して寝息たており小さき大の字  千種 127 2300
5427  寒晴れに嬉々と戯る下校子の未来にしかと幸あれよかし  蘇生 128 0618
5428  ランドセル背負いくぐりし校門も廃校ゆえに人影もなし 弁慶 128 1803
5429  廃校のわが新制の中学校会へば高らか校歌斉唱 真奈 128 2028
5430  親に親子に子が無きをけふも読む廃れた末に何方で逢ふ 海月 128 2115
5431  身体も髪膚も父母に賜りしことを忘れぬ人で有りたし 弁慶 129 2136
5432  いとほしき吾妹は疾うになきものを今もうつつに見ゆる面影  冬扇 130 1548
5433  木枯らしの音を聞きつつ眠りたる昨夜の夢に君あらはれぬ たまこ 131 1105
5434  白梅の花の遅きを待ちわびし夕べの夢のけさの正夢  蘇生 131 1206
5435  夢ならば早く覚めたし冬桜抱へて行けり病む人の辺に たまこ 131 1634
5436  昨夜見し夢は真冬の陽だまりの筵の上で花いちもんめ 弁慶 131 1733
5437  二月来て百韻詠みし昨春の春さりてなる発句を思ふ  蘇生 21 0629
5438  年々に日の過ぎゆくは速くして詩心探るこの一年なり 茉莉花 21 1117
5439  大切なページに栞をはさむやうに歌はむ気泡のやうなわが歌 たまこ 21 1241
5440  如月の日差しが机上明るくす我が愛読の栞を繰りぬ しゅう 21 1541
5441  音楽と活字に浸るサ店隅わがオアシスの時の充ちたる 真奈 21 1640
5442  喫茶店の店先自転車立てかけてひと隅占める詩人のノート しゅう 21 1703
5443  見渡せば一つだに無き喫茶店鄙びた街のすたれ行くさま 弁慶 21 1744
5444  スタバーの若者集くその奥で小さき本のページをめくる  蘇生 21 1829
5445  ハンセン病文学全集無名の作家綺羅星の如き詩歌を遺す しゅう 21 2129
5446  賑はひし店に二冊のフィクションふしぎの世とぞ思ふはやわが  蘇生 22 0924
5447  フィクションにはあらず橋の無き島に病み歌い続けし明石海人 たまこ 22 1020
5448  子の死まで葬り終えて知らされし悲嘆絶唱海人憐れ しゅう 22 1731
5449  ふしぎの世とぞ思ひしは芥川賞なるものを受けしフィクション  蘇生 22 1836
5450  梅に梅・桜に桜の咲くことの不思議ではないことの不思議さ たまこ 22 2119
5451  アリスてふ不思議の国の少女いて春来るらし雨も上りて 海月 22 2211
5452  女王のその教訓は左の通り「自分に厚く他人に薄し」  弁慶 22 2252
5453  若者は大人の厚さ忌みるかな自虐のような「蛇にピアスを」 しゅう 23 1057
5454  襟に顔を埋める癖は止めにせむ薄手のコートに替へて立春  たまこ 23 1631
5455  雨たへて朧に明くる日の光けだるく白き春の色なり  蘇生 24 0616
5456  梅桜菜の花咲くとの記事ありて疑いもなき今日は立春 弁慶 24 1344
5457  春立てりこの青空に春立てり母洗ふ父の背の細きこと 海月 24 1426
5458  春分の昼の綿雪ほのぼのと父母の愛のごとくに積もる たまこ 24 2320
5459  春が来たイーストリバーの岸に立つ煙突四本おしゃべり止めず ぽぽな 25 0828
5460  立春の賑わう夜空見上げれば真珠を抛り上げたような月 しゅう 25 0937
5461  アーモンドのかたちの月が浮く夜を二人で語る転生のこと たまこ 25 1240
5462  肌白く乳こぼしたる聖母あり深き井戸より星語るらむ  奈都 25 1612
5463  かの人と乳白色の霧の中彷徨い歩きし尾瀬のぬかるみ 弁慶 25 2007
5464  つやつやし緑が原の木道を池塘眩しく黙々歩く しゅう 25 2143
5465  春立てば二本の塔が立ち上がる二本の塔を亡くした島に ぽぽな 26 1131
5466  暖かき日もあり寒き日もありて春の初めの天のいたずら 弁慶 26 2117
5467  二三分に咲き出す梅の冴え返り肩抱かれたる花心かも しゅう 26 2240
5468  月光のソナタを浴びるきみの背(せな)振り向きたまえ花芯つつもう 海月 27 0835
5469  雪深き出雲の旅より戻りきて月光青き駅頭に立つ たまこ 27 1010
5470  駅前の花舗の明るき灯に吸われヒヤシンス買う春待つ心 しゅう 27 2309
5471  目くるめく代はりゆくゆく仲通りそこは春なる丸の内なり  蘇生 28 1252
5472  丸の内の一丁目ロンドン赤レンガビル失せしよりはや50 弁慶 28 1742
5473  霜枯れの蔦のからまる赤レンガ博物館に人影もなく たまこ 29 1200
5474  暁闇にほとほと胸を叩きおり濃くなる影は春の兆しや 海月 29 1811
5475  ほとほとと扉叩かるけはひして問へば群雲隠れなるかな 210 0049
5476  仙境に埋もれるさまに日向ぼこ寝るではないと閲す群雲  蘇生 210 0905
5477  松林の向こうは多分海だろう光りつつ沸く冬の雲あり たまこ 210 1124
5478  何気なく仰ぎてみると雲間にはひそかに春を孵す兆しが  蘇生 210 1904
5479  寒林の静寂の中に身をおけば姫沙羅の枝に春は兆して 弁慶 211 1719
5480  兆さんか兆すやろかい一片の春は塹壕深くしており 海月 211 1733
5481  明日香村棚田の上の陵の森のははそぎ春めきてあり  弁慶 212 2012
5482  鹿島神宮常陸の国の一ノ宮春は名のみの森の神霊 しゅう 212 2306
5483  砂浜に若布干したる浜すだれ名のみの春の風の冷たき  蘇生 213 1348
5484  壇ノ浦波に漂う若緑波の下にも春はさぶらう 弁慶 213 2137
5485  梅が枝を箙に挿して戦ひし若き武者あり一の谷には 真奈 214 0049
5486  遥かなる古戦場のうえの大橋の白波眩し後部座席かな しゅう 214 1133
5487  この春の疾風一番くるらしと違ひたるかや沖は白波  蘇生 214 1154
5488  春一番心して吹けおみなごの黒髪乱すことはゆるさじ 弁慶 214 1824
5489  調へし髪は乙女の気色なむ見初む裳裾は許されよかし  蘇生 214 1844
5490  春の名を告ぐるミューズの脛白く七色の谷駆け抜けてゆく 真奈 214 1905
5491  久米仙人白き脛を見て墜落す色香に迷うは人に限らず 弁慶 214 1913
5492  十五坪の庭に森羅万象の仙人のような老画家熊谷守一 しゅう 215 1822
5493  敦盛草少し隔てて熊谷草花を眺めて平家を偲ぶ 弁慶 216 1642
5494  舞殿をけみし続けて千年の銀杏古木に静をおもふ  蘇生 216 1852
5495  石の辺の猫によりそう蕗の薹おおきな背伸び銀杏越さんと 海月 216 2126
5496  美容院のつよい香りを身に纏い恋猫の鳴く家に戻りき しゅう 217 1534
5497  月見夜に命のかぎり涼み虫いずくに消えし秋の夜はもう 泉情 217 1547
5498  立春も初午も過ぎ梅も咲く春の楽園永久にあれかし 弁慶 217 1610
5499  立春の月の夜です「!」をいつぱい散らしてメールを送る たまこ 217 2142
5500  「!」きらきら舞うよ宙高く銀河鉄道たんぽぽ便です 海月 217 2333