桃李歌壇  目次

幅広き道

連作和歌 百首歌集

5601  札幌の幅広き道に在りし日の啄木需めし焼き玉蜀黍  弁慶 45 0922
5602  連れ立ちて光りの中を昼休み北の大路は春遠からじ  蘇生 45 0954
5603  ひととせの見納めと見し花の径ゆくりなくよれば花は雲めく しゅう 46 1030
5604  春更けてうつろふ日々に山々のかもす色香は類なきもの  蘇生 46 1554
5605  春の山を山笑うなど我にはみどり児の泣く声の湧きくる しゅう 46 2151
5606  見渡せば三方の山に桜咲き遠く遥かに見ゆる島かげ 弁慶 46 2200
5607  島影の遠き浜辺で幼子が手に持つパンを鳶が襲いし 蘇生 47 0726
5608  時死すかに三浦半島のキャベツ畑鳶現れて輪を描き消ゆる しゅう 47 1127
5609  山がつの身なれど今は居住まひを正して恋の想ひ告げなむ  冬扇 47 1656
5610  鶏が鳴く吾妻の国の真間の村手古奈の恋は悲しかりけり 弁慶 48 0017
5611  更科の矢切に立ちて偲ぶれば真間の手児名の伝え悲しも  蘇生 48 0809
5612  青春の我が恋思い出だすとき夜汽車が軋む骨の中から しゅう 48 2215
5613  北へ行く夜更けの汽車が止りたる小さな駅よ「夜ノ森」の駅 詠人知らず 49 0211
5614  ふるさとへ向かふ心の高鳴りをゆるり軋らす単線二輌  410 0821
5615  窓あけて駅弁頼むと思いしが「かねがさき」の駅の名とどろく  弁慶 410 2059
5616  東京へ帰れる日あり窓開けて母と笑へり煤煙の顔 海月 410 2108
5617  ふるさとへ行く列車かも夜の汽笛聞きつつ児らを寝かす社宅に しゅう 410 2149
5618  空はいま何色なのだ晴れなのか土砂降りなのか日本は晴れだ 海月 411 0923
5619  ははそぎの芽吹き初めし里山に白く散る散る山桜かな  弁明 411 1843
5620  しづかにて四方から花がとめどなく地をもわれをもおほふばかりに 蘇生 412 0513
5621  散る花のしろき骨片と見えしらしライ療養所の歌にありけり しゅう 412 0644
5622  地を染めし花びら白き布の如し桜の下に埋ましものは  蘇生 412 0955
5623  里山を遠く見るとき山桜あそこにここに目が探しをリ しゅう 412 2140
5624  橋姫の裳裾をひたす宇治川に山桜散る風なき日かな 弁慶 413 0838
5625  山並みは霞か雲かふじざくら彼岸の人を訪いし道行  413 0933
5626  梅盛り相合駕籠の道行けば新口村に雪の降りつつ 冬扇 413 1133
5627  降る雪に紛ひし白き花びらの間を白き蝶が舞ひ立つ  蘇生 413 1433
5628  こでまりの花咲く細き野辺の道まぶた閉じれば母の面影 弁慶 413 2115
5629  カラタチは思い出の花白花の小さき垣根に二つ三つ見ゆ しゅう 414 0653
5630  カラタチの垣根潜りて逢いし人黒き鬢にも白きもの見ゆ 弁慶 414 0758
5631  廃屋になりて久しき生垣の貝塚息吹盛んなるかな  蘇生 416 0951
5632  廃屋と見えしが業者の手が入りて若き夫婦住むランドクルーザー しゅう 417 0720
5633  廃屋の点々とする山村に今年も新緑湧くがごとくに 弁慶 417 2341
5634  育ち過ぐ貝塚伊吹刈込みる春日点々ねこの墓にも 海月 418 0930
5635  建立の赤文字すでにかすれ来し墓の草抜く春の陽だまり  蘇生 420 0712
5636  リューマチの病の重き友縁の陽だまりに座して土筆愛しむ しゅう 421 0640
5637  にいさまの癒え始めたるそのお声抱きて辞せば春の満月  422 0003
5638  大潮の春の干潟を喩ふればもろ肌脱ぎし女人の如し  蘇生 423 1423
5639  晩春の池面は黒く蠢きておたまじゃくしの王国と成す しゅう 424 2153
5640  黒々と上目使いに影をみて散りて集きぬおたまじゃくしは  蘇生 425 0939
5641  心あらば今をながめよと詠ひける心敬偲ぶ伊勢原の里 真奈 426 1127
5642  つらね歌詠むはワグナー聴くに似て此岸彼岸とめくるめくなり ぽぽな 427 0544
5643  巨きもののたうつ如く吹き抜ける春の嵐は浅緑色ぞ  蘇生 428 0514
5644  裏山に鳴く鶯の声いつか深みを帯びて春惜しむらん 海斗 429 1329
5645  刺繍糸生地にのせ色を合わせぬうぐいすのつやつや啼くを聞きつつ しゅう 429 2144
5646  紅梅の葉先のすでに緑にもかすかな紅が色に残りて  蘇生 430 0807
5647  すきとほる緑のなかにきらめける命あるらし柿若葉萌ゆ 海斗 51 1035
5648  見晴るかす高みにたてば方々の畑打ち見ゆる河岸段丘   蘇生 54 1942
5649  茶摘女となりて祖母居て母と居て昨日のごときかの日かの丘  55 0121
5650  晴れだから肩肘張つたタロがゆく紫雲英咲く丘タロがゆくゆく 海月 58 1138
5651  春を訪うバスは盛りの里を経てやがて春めく九十九折へと  蘇生 58 1933
5652  つれなきを知りつつ今日も言問へば墨田の川の都鳥かな  冬扇 510 1534
5653  道昏れしライの人寄る身延山深敬園を訪えば急く瀬音 しゅう 511 0529
5654  我が妻のふるさと身延の山の中共に登りし女坂かな  弁慶 511 1334
5655  高みへは二つの道のいづれかと問はれゆるりとをんな坂ゆく  蘇生 512 0854
5656  忠孝の狭間に死にし逆縁の子を偲び泣く哀れ相国  冬扇 512 1513
5657  大義なる言葉あまた飛び交いて知らず知らずに朱子学の道   弁慶 512 1946
5658  葉隠れにさくらんぼの色付く或る日あまた鳥群れ爆竹のごとく しゅう 513 2117
5659  小手鞠の盛りて風にふれ落ちぬ白き花びら米粒に似て   蘇生 514 0818
5660  一枚の純真として水芭蕉水の脈きく耳を澄まして  ぽぽな 516 0007
5661  白白と水芭蕉咲く辺には木々の新芽が淡く点れり  蘇生 516 0641
5662  楠青葉風吹き渡る鞠子宿宗長縁の柴屋寺を訪う   弁慶 516 0818
5663  借景の鞠子の富士は花霞宗長月見の柴屋の石 真奈 516 0909
5664  丸子なる鞠子の宿は惜春の菜の花散りて青梅たわわに  蘇生 516 1832
5665  とろろ汁鞠子の宿の西隣昔男の蔦の細道  弁慶 516 2005
5666  まわり道父につれられ鞠子宿遥か反照遥か駿河よ  516 2251
5667  藁科や枕草子の木枯しの森ぞ今こそ青若葉して   弁慶 517 0507
5668  枝垂れ咲く藤の花よりあてなるは苺食ひをる美しき稚児  冬扇 517 1405
5669  新しきランドセル背に睦み合う次代の子らに幸多かれと  蘇生 517 1852
5670  杜若たあまたさぶらいたまいける勅願の寺の池の汀に  弁慶 518 0808
5671  しなやかなから衣なる京菓子に出づる思ひは杜若かな  蘇生 520 0918
5672  杜若姉の忌なれば酒すこし仇な客気の懐かしきかな 真奈 520 1015
5673  杜若きつつなれにしジーパンの綻び繕う妻にしあるかな  弁慶 522 1317
5674  Tシャツによれたジーパン スニーカの輝くような若き一団  蘇生 528 1453
5675  眩しすぎる五月の並木 吾とともに住むか住まぬか迷へる母に たまこ 528 1934
5676  原宿の欅並木は緩やかな坂なしており青山への道  弁慶 529 0109
5677  イラクにて散りし男の青山の勇ましきこと哀しきことよ  蘇生 529 1112
5678  人間に青山在りと人の云ふ雨が撃つだけ砂になるだけ 海月 529 2150
5679  目覚めよきひんやりとした東雲の今はぬくもり雨が匂ひて  蘇生 530 0611
5680  葭切りの声せわしくも花水の流れゆるやか虹ヶ浜へと  詠人知らず 530 1215
5681  小磯なる鴫立つ沢を過ぎゆけば一号線は松並木道  蘇生 61 0730
5682  西行の通り歩みし野辺の細道を鎌倉古道と今人は呼ぶ  弁慶 61 1031
5683  行き先は斑猫まかせ草いきれの青き香のたつ細道を行く たまこ 61 1633
5684  旧道の軒をかすめる細道を主に牽かれし犬はとりどり  蘇生 61 1852
5685  古えの歌びと歩みし細き道つゆにぬれつつ三嶋宿へと  弁慶 62 2142
5686  恋ひそめて恋の意味をも知らで泣くさなる乙女の日々もありけり  冬扇 64 1047
5687  「短時間でも会いたいです」と書いてゐる林檎ほのかににほへる卓に たまこ 65 0654
5689  十代は風月堂今は喫茶室滝沢新宿駅中央口 しゅう 65 1804
5690  ウィンナコーヒーですねあなたのお気に入り蛍の野辺の夜を話そう 海斗 66 2109
5691  風月の朝コーヒーに昼りんご日活名画座バルドーの夏 海月 66 2145
5692  新宿の伊勢丹会館安芸路なる瀬戸内産の牡蠣の美味しき 詠人知らず 66 2305
5693  生牡蠣に地の酒あれば瀬戸内も北のどこぞも無双なりけり  蘇生 67 0734
5694  暫くは梅雨鱧召せよ我が友よ時の至れば地の酒と牡蠣 弁慶 67 2241
5695  真っ白き鱧に紅なる梅肉をけだし今年の梅雨も来にけり  蘇生 69 0707
5696  「真っ白き鱧に紅なる梅肉」の言の葉だけで我は満足 弁慶 69 2340
5697  大皿にそぎ並べたる薄造り夏のおこぜは無双なりけり  蘇生 610 0625
5698  風貌は醜くくあれど唐揚げの美味しを知れば虎魚いとしき 弁慶 611 0313
5699  いにしへは海の魚なり陸封魚岩魚は遠き潮鳴りを恋ふ たまこ 611 2257
5700  我が友の頻りに恋うは松青き紅き蹴出しの塩屋の岬 弁慶 612 0011