桃李歌壇  目次

大観覧車

連作和歌 百首歌集

5701  きらきらと大観覧車は廻りをり岬の公園さびれさびれて たまこ 612 0953
5702  梅もぐと脚立に登りまろまろと色づく実梅睥睨す我は 海斗 612 1601
5703  荷を解きてグリーンアスパラ手にとれば北の大地の春香り立つ  蘇生 613 0622
5704  馬鈴薯の花咲く畑に翁立ち羊蹄山の上の雲みる 弁慶 613 0703
5705  独歩描く武蔵野の野の風景や何処に行かば見むことを得む 海斗 613 0814
5706  独り寝の独り荒野を啄ばみぬここはガザなり石榑の空 海月 613 0842
5707  独歩なる物書き人の武蔵野は渋谷道玄坂のあたりと 詠人知らず 613 1122
5708  若者が思い思いに群れて散る道玄坂下坩堝のような  蘇生 613 1821
5709  道玄坂宮益坂もその昔授業逃れて通りし坂なり 弁慶 613 1957
5710  ふるさとの心に残る急坂は今そのままにさてもなだらか  蘇生 614 0924
5711  富士アザミ籠坂峠の傍らに俯きながら咲きにかるかも 弁慶 615 0228
5712  いくたびも背負ひし恋の重き荷も君ゆゑならば厭ふことなき 冬扇 615 0908
5713  草いきれあをく立つ野に風わたりわれら二本の草とさゆらぐ たまこ 615 1057
5714  さわさわとたださわさわとさきゆかむすずらんテープ風となるまで ぽぽな 616 0624
5715  星さららさららさららと夏宇宙恋てふものよ猫の遊びよ 海月 616 1841
5716  夏の夜の翳宿したる瞳にて寡黙なる君寡黙なるまま  617 2234
5717  空梅雨の真昼を響くドリル音 われに激しき夏の来るべし たまこ 618 1445
5718  屈従か孤立か多に花咲けるパティオに立てばふる梅時雨 618 1601
5719  エレオノラ・ロッシ・ドラゴの雨が降る激しい季節月光の床 海月 618 1637
5720  助手席に「月光」を聴きつまどろみしマラソンの夫高速道疾く しゅう 619 0632
5721  夜深く弦縺れては解けては無調にいたる髪濡れしまま ぽぽな 620 0018
5722  朝露の黒く滲みたる砂浜に深浅二つ続く足跡  蘇生 620 0547
5723  砂浜に穴を掘りおりほろほろと大朝焼にほろほろと 海月 620 0654
5724  あのねぼくね大きな海へ電車でね行ってね砂でとおさん埋めたよ 海斗 620 0722
5725  あれからもう美しき蛇は現れぬかとのぐもる日の海を眺めて 620 0843
5726  をとつひの戯るごとき海いづこ命危ふしけふの荒波 蘇生 620 0905
5727  サスペンスのラストシーンに海は光り渚を少女と子犬が走る たまこ 624 0543
5728  『渚にて』波は変らず打ち寄せて「まだ時間はある。兄弟たちよ」 海月 624 2130
5729  「心配をしないで!」と告げやらん同胞よ夜の渚はふかく病むとも 625 0922
5730  漆黒の渚もやがて朝焼けの色に染まりて君を誘うよ  蘇生 625 1108
5731  ビルどちもそのかんばせのそれぞれにうけて輝く朝焼けの色 ぽぽな 626 0540
5732  東雲のきのふをのごふ叢雲に幽かにけふの光り見えたり  蘇生 626 0722
5733  光立つ山谷公園夏溜りトタンの割れ目夾竹桃咲く 海月 626 2040
5734  夾竹桃が乱れ咲きゐし暑かりしと敗戦の日を老婆がかたる たまこ 626 2154
5735  さるすべりあなたの居ない庭に咲き骨はうたふやすめろぎの歌 真奈 627 1354
5736  天皇制批判を日記に記す民雄身命賭して書きやらめやも しゅう 627 1639
5737  九年の空白ありてけふもまた書くことのなし十年日記 海月 627 2106
5738  我の辺に夫なき仕合せなどと書く夜の机上に梔子匂えば  詠人知らず 627 2135
5739  寂として万象の声あらぬ夜に隠れて生きよと書き泥みつつ 627 2149
5740  岩道にさしかかりたるわが耳に木の葉隠れの諸鳥の声 たまこ 628 0654
5741  琵琶の音よ折るる矢通る甲冑の武者呼ばはれば両耳 りょうじ 海斗
5742  古刹なる寺を巡りしコンサートで床をゆるがすモーツアルトを聴く  蘇生 629 1018
5743  目に見えぬ天の子午線月下弦奢れる人は久しからずや 真奈 629 1035
5744  聴くほどに遠のいてゆく雨音よ濡れればよかった濡れればよかった 629 1043
5745  猫が寝るトクタクタクと猫が寝る夜空透かして心音を聴く 海月 629 1605
5746  文字摺の咲きのぼる芝庭にゆったりと来て猫の午后なり しゅう 629 1720
5747  茎のびてしのぶもじずり小さくも捩じるる花として紅淡き 629 1841
5748  その人の母韻の差異のかすかにも恋は捩じれる恋は剥がれる ぽぽな 630 0021
5749  ただ白くしろく咲くよとゆうまぐれ浜木綿の花一途にかほる  630 0139
5750  夕化粧遠く電車の音がして街灯ぽつん猫がすり足 海月 630 2241
5751  雨音の飽和状態のわが耳に猫が冷たい鼻をすりよす たまこ 71 0033
5752  四重奏の弓たをやかに静止してピアニッシモは古刹に果てり 蘇生 71 0542
5753  ベートーヴェン四重奏曲全曲をボーナスはたき買ひしあの頃 真奈 72 2250
5754  月光のシャワー隈なく浴びて立つだれか「蘇州夜曲」をうたってくれぬか 73 0835
5755  満月の梅雨の雲間に出でて君瑞々しいか愛は涸れぬか しゅう 73 1029
5756  涸湖は西へ東へ移りゆき跡にポプラを植える人いて 海月 73 1140
5757  興奮に高窓開けん緑揺れ貨物過ぐるも朝の挨拶 ぽぽな 74 0033
5758  豆の木にジャックは登るか登れぬかかの蔵の窓ゆ魔女が見ている 74 0902
5759  紫陽花の葉っぱの裏で暑いねと地霊つぶやく水撒いてやる 海斗 74 0945
5760  侏儒たちの集いの果てし紫陽花は色あお空に吸われて褪せぬ しゅう 74 1339
5761  蕗の葉のコロポックルよ輩よ石もて追われ今は何処ぞ 海月 74 1748
5762  ふるさとのアイヌの小母への思い出はやさしき笑みと口の刺青  蘇生 75 0619
5763  イタンペはトドのアイヌ語悪戯好きトド鍋にされ缶詰にされ 真奈 75 2215
5764  イタンキの浜ハマナスの赤き実を無心に摘んだ遠き日のこと  蘇生 76 0556
5765  イヨマンテああ溢れくる感情は旋律となる喉熱くして ぽぽな 76 0620
5766  ざわわざわわざわわさとうきび畑の旋律の湧きて来る夏 しゅう 77 0702
5767  オレンジの西日をうけて遥かなる畑に西瓜の全音符  蘇生 77 0717
5768  西日うけ夏蝶とまる布グラブのどが渇いた三角ベース 海月 78 0814
5769  君知るやオオムラサキの渇望をくぬぎ林に日は傾きて 78 0947
5770  逢へぬ日は海を見に行く風の中あらん限りのひなげしを抱き 真奈 78 1555
5771  天地の境もあらず曖としてまた逢う日はいつ?杳いあなたよ 詠人知らず 79 0715
5772  胡蝶夢の汝に逢ゐしは我なりや天地幽暗梯は在り 海月 79 1349
5773  湖暮れて鴨のかぼそき水脈の糸天の扉の閉じる音する 79 2245
5774  天気予報のはづれて雨の降る池に水脈引きピュンピュン泳ぐペンギン たまこ 79 2357
5775  ひつぢ草ポと咲き出でてもう一人のおまへの子供と風がささやく かわせみ 710 0548
5776  神さまが置き忘れたような小さき湖病葉一葉浮きて流れず 710 0818
5777  クレヨンのぬり絵のやうな緑青の水の華なる相模湖の鬱 しゅう 710 1112
5778  瞳濃き乙女が髪を靡かせて夾竹桃は輝きにけり 海斗 710 1505
5779  昼下がり夾竹桃の花ゆれて炎帝の座を鎮めけるやに  蘇生 710 1524
5780  散華とふ自死のかたちをいまもなほ讃ふや朱の花の放列  かわせみ 710 2329
5781  いろいろのわたしに会ひぬフラクタルの奥の奥まで歩いていって ぽぽな 710 2346
5782  POPOとNAのPOPOの貴女に逢いたくて夢に漕ぎだす笹舟小舟 711 0805
5783  ぬばたまの夜空の星の瞬きを猥だりがはしき星の上より 海斗 711 0818
5784  泡立草蓬蓬として空覆ふ鬱といつしよに伐つてやるべえ 海月 711 1320
5785  なだらかな西瓜畑の向こうには小高い山の遥か雲の峰 海斗 711 2145
5786  掌の中の蝉が鳴きだし子も泣きぬ雲の峰ぐらり崩るる真昼 かわせみ 712 0112
5787  接点はかすかにあったあのときの遠いひぐらし遠いいかずち 712 0828
5788  いかずちにからだ半分傾けてスタンドの灯へ半分親しむ しゅう 712 1735
5789  百雷の生まるる頃か祖父(ほちち)銀の煙管の小さき放電 かわせみ 712 1939
5790  まいまいよ葉裏にもどれ今すぐにくわばらくわばら雷雨がくるよ 713 0816
5791  斜交いの連なる雨の緞帳がわれに向いて沖より来たる  蘇生 713 0821
5792  河口より黒蝶翔べり対岸へ風は沖へと吹いているのに 海月 713 2144
5793  朝顔の蔓の絡まる柵の上風に合わせて尾を振りすずめ 海斗 713 2350
5794  上へ上へ蔓の果てまで昇りゆくゴマダラカミキリ空は青いか  かわせみ 714 0107
5795  シータテハ・ギンボシヒョウモン・クジャクチョウ愛しきものは死に近き匂い 714 0801
5796  クジャクチョウ美しすぎること恥じてわが視野逸れし西施なるかも しゅう 714 1458
5797  斑猫(ハンミョウ)の骸につづく蟻の道 ゆふべの夢の隧道(とんねる)ぬけて かわせみ 715 0724
5798  「ねえ!聞いてよ」目を逸らさずにあの話七節虫も窓に寄りきて 715 0828
5799  冷房の窓より眺む三伏の木々は喘ぎし葉裏を返す しゅう 715 1348
5800  夏の日のギリシャの空は澄みたるか日時計黙す図書館の窓 真奈 715 1646