桃李歌壇  目次

歌読む窓辺

連作和歌 百首歌集

5801  横書きのうた読む窓辺ゆるやかにわが感官は昂ぶりそめつ 715 1810
5802  炎帝の腋の下から突き抜けぬ ゆふらりゆらと汝は崩れぬ 海月 715 2113
5803  南溟に台風生るるこのゆふべ海月のやうな望の月出づ  かわせみ 716 0543
5804  われに会うため咲きくれし花かとも月下烟れるライムライトは 716 0715
5805  遥かなる富嶽に降りし氷雪の今湧き出づる柿田の水は 蘇生 716 0936
5806  柿田川みなもにうつるわが影にこひをしてゐるかはひらこ ひら  かわせみ 716 2302
5807  水飛沫上げつつどよむ滝の辺の沙羅の花なる我が思ひかも 海斗 717 0641
5808  瑠璃玉を飾りし胸の谷間より夏蝶翅をひろげ翔たむと 真奈 717 0647
5809  夏山の木の下闇の静けさに飛び交う蝶の婆沙羅婆沙羅と 海斗 717 0739
5810  胸に咲く一輪ありきさわされど項垂れてゆく片陰の道 717 0824
5811  いづこへか風に向かひて海原を紙片のごとく蝶は舞いゆく  蘇生 717 0850
5812  蝶のよう蜂のようにと語られた病身のアリの深い眼差し 海斗 717 1013
5813  展翅して動かざるものゐ並みけり不思議の桃の誰彼も欲し 717 1548
5814  この世ではここが桃源郷なのか塔婆に止まるミヤマアカネよ 717 1804
5815  名もしれぬ夏蝶翔べり裏の川 銭湯にゆく牛乳飲みに 海月 717 2128
5816  一刷けに道塗り替えし大夕立つっかけで行くセブンイレブン 717 2306
5817  夏蝶を追えば格子の街の中藍の反物十貫しょって ぽぽな 717 2312
5818  焼くものを追へばお好み鳥たこそば生ビールありいざ花火待つ 海斗 718 0737
5819  花火待つ天神祭りのお役者のうなじちりちり夏の陽の灼く かわせみ 718 0822
5820  江戸の風着こなして飛ぶ夏燕打ち上げ花火の宵の涼しき 真奈 718 0834
5821  手花火のうしろに誰か立っているポトリと落ちし小さき火の玉 718 1052
5822  ささげたる掌に受け揚花火どうんどうんと胸の高波 718 1053
5823  潮汲めば音なく点る夜光虫こぼるるままにわが掌(てのひら)  蘇生 718 1850
5824  夜光虫わが腕より零れ落つ星あるを知る諏訪瀬の夏 海月 718 2118
5825  青光るその掌に抱け黎明に膨らみたわむとほき山脈(やまなみ) かわせみ 718 2244
5826  生まれたての蝉は若葉の色をして朝日に濡れた羽根をひろげた 海斗 719 0700
5827  蝉なくと誰かささやく未明です夢の淵より薄目をあけて 719 0822
5828  蝉時雨ただ暑かつた腹減つたそんな日が来る忘れずに来る 海月 719 1316
5829  列島の寒さの夏の昨年の今日の暑さの蝉時雨かな  蘇生 719 1623
5830  六本木ヒルズアリーナ七月の葉加瀬太郎のLive聴いてる 719 1735
5831  空間と時間共有する奇跡軽んずべからず蝉時雨をり ぽぽな 720 0707
5832  炎昼の盛んなるかな蝉の声憂うるようなる夕べひく声  蘇生 720 0733
5833  蝉もまた一夏の過客夕されば群唱のこえ遠ざかりつつ 721 0735
5834  相似たる野の花なれどそれぞれに季(とき)の移りにかわりゆくなり  蘇生 722 0912
5835  油照り油蝉ああ兄の忌の久のふる里瞳孔開く しゅう 722 0928
5836  夕光のなかに不動の向日葵よ首のみ垂れて祷りのごとく 722 0930
5837  我もまた空をゆく雲 たたみこも平群の樫に蝉時雨満ち かわせみ 722 0932
5838  めぐる季のいつでも恋うる長崎かも風見治著「季(とき)(どき)」ゆ しゅう 722 0954
5839  空の果て地の果て往かんめぐる季 内耳音鳴る海も閃れば 海月 722 1132
5840  根府川の海よカンナの咲く駅よ今年また不羈の朱に満ちたり 真奈 722 1254
5841  気が変わり一駅手前で降りゆけばポンポンダリアが機嫌よく咲いてた 723 0635
5842  もう一駅が行き着けぬ脳天に待ち針入りてダリア乱れる 海月 723 1124
5843  行きゆけど永久(とは)にとどかぬ次の駅 足裏(あうら)貼りつく灼けし鉄路に かわせみ 723 1537
5844  無名なる安息にいてされどまた渉りかゆかむ銀河鉄道 723 1640
5845  ああ、ぼくは行かねばならぬどこまでもサウザンクロスに双手(もろて)さしのべ かわせみ 723 1720
5846  往き往けど片道切符海の底ほたる舞いたる銀河鉄道 海月 723 1833
5847  吊革を掴む幼子将来はウルトラCよ父は「もういいか」 海斗 723 2259
5848  宿題の針穴写真「ウルトラの父」いまもなほ倒立のまま かわせみ 724 0700
5849  波さゆれかぐろきまでに倒立の一樹はわれの父かもしれぬ 724 1135
5850  犬と猫ちいさき仕事われにあり無言の父母にまた酷暑くる 海月 724 2058
5851  炎昼の汗止めどなくTシャツの胸にまつはる我が恋心 海斗 725 0009
5852  人の上に人をひたすら積む辺りプラトニックに起重機赤し ぽぽな 725 0020
5853  男とは花より淡くすぎにしと贋アカシアは花を零して 725 0626
5854  雨けぶる花房白き針槐(ハリエンジュ)にせアカシアというは哀しき  蘇生 725 1549
5855  曼荼羅華・ダトゥラ・エンジェル・トランペット致死量ほどの毒嘉すべし 725 1721
5856  暮れなずむ凪に聳ゆる富士の山わが心には曼荼羅華かな  蘇生 725 1819
5857  曼珠沙華メッキ工場どぶの川致死量たまるアメリカ輸出 海月 725 2119
5858  どぶに落ちる瞬間に知るせせらぎの清けき音の次に知る痛み 海斗 725 2313
5859  片恋の形而上的わたくしは影一枚と溜息一つ ぽぽな 726 0302
5860  永遠にならぬか明日か係恋のわが裡の暗渠しずかに流るる 726 0634
5861  ふた年の別居の夫を両腕に熱帯のキス曽我ひとみさん しゅう 726 0840
5862  唇をあわせしことも一炊の夢ひそやかに沙羅の花咲く 726 1648
5863  宿業を憐れみ給ふ如来像の唇慕ふやるせなき思ひ 海斗 726 2352
5864  木下闇ゆらと顕ちくる石仏の声くぐもりて昏々と朱夏 727 0716
5865  鼻欠けの交通地蔵に蝉時雨花を置きしが係累絶えたか 海月 727 1202
5866  大隈半島(おおすみ)の野面に晒す石像の仁王の貌の親しも娑婆ゆ しゅう 727 1344
5867  をさなげな野仏ふたつよりそひて蔭にさびしく苔にをりけり  蘇生 727 1721
5868  おさなごがつむり撫でやる野仏のまなこやさしく微笑むと見ゆ 茉莉花 728 0818
5869  人はみな幼きころはかくあらんに矜羯羅童子を不意に思うも 728 0834
5870  ははそはのははのみはらにやどりてしころを偲べる子守唄かも 海斗 728 2346
5871  羊水の湖に小舟を浮かばせて生まざる吾子があくびをしてる 729 0736
5872  泣きし嬰(こ)泣きし嬰 が羊水の音すスーパーの袋の擦れる音に笑みにし しゅう 729 0959
5873  わが戸籍入らずの妹ふたりいる午睡から覚めてひつじぐさ咲け 海月 729 1817
5874  みどりごの命は絶へて骨とせば四十九日に水に還ると 海斗 729 2213
5875  反芻は砂噛むごときひとり居て真水に心さらしたき宵  730 0011
5876  貝釦掛け間違えた午前五時向いの島に雷雨の兆し ぽぽな 730 0134
5877  雷雲はすでに妖しく西ゆくに常選択をあやまちて来つ 730 0730
5878  過てりまた過てり夏雲になんだかんだと猫と遊びつ 海月 730 2144
5879  感情のやりとりできる眼もてひとつベンチに猫と坐れり 730 2248
5880  seriousmysteriousに七月は手染めの丹と紺と消え行く ぽぽな 731 2232
5881  七月の尽きし日中の会堂に七十兄姉の笑みあふれたり(増俳八周年記念句会) 蘇生 81 0838
5882  暑いからこれは飲まねばなりませぬ訳はともあれ笑みが笑み呼ぶ やんま 82 0538
5883  憧れは憧れのまましばらくはここでグラスを掲げています (祝増俳八周年) ぽぽな 82 0712
5884  増俳のページを開けまだ三ヶ月お写真前に先づは乾杯 真奈 82 2254
5885  つぶやく堂増俳歳時記桃李歌壇主宰三者の個性輝く(於 増俳八周年記念句会)  蘇生 83 0711
5886  氣をもらふ桃李つぶやく連衆にけふも駄句ゝ汗もだくだく 海月 83 0826
5887  面白や記念句会の水中花手品の如き二人のロゴも  丹仙 83 0855
5888  あなたが楽しかったねと言ったから今日のこの日は俳句記念日 海斗 83 2313
5889  蜂蜜の昨日は去れど今日もまた桃李まで来ぬ花を探しに ぽぽな 84 0535
5890  桔梗のうつつを裂きて咲く力言葉もて人を殺めてはならぬ 84 0657
5891  ほどのよき風に小庭の笹竹の今は茂りて過ぎたる如し   蘇生 84 0751
5892  「水に書く文字のようだね」と万智さんはチョコかじりつつ空を見上げる 真奈 84 0903
5893  行く川の水の流れは絶えざれど瀬音かなしもひとみとざして 海斗 84 1056
5894  五時ですよ紫陽花の下のらが云ふ朝な夕なと水と缶詰 海月 84 2316
5895  エノラ・ゲイなほスミソニアンに生きてをり「平和」のための「悪」を謳へり 真奈 85 0513
5896  国敗レタンダロ原爆落トサレタンダロ老婆の視線の先には誰もいない 海斗 85 0603
5897  薄明の厨にたちて一本の匙磨きおり今日原爆忌 86 0624
5898  銀の匙握りて笑ふ嬰児よ忘れ給うなその笑みをこそ 海月 86 0700
5899  電話にて仮免取れたとはしゃぐ娘よ屈託無き笑顔消させぬぞ母は 雛菊 86 1847
5900  身籠りの報せ受けたる携帯電話(けいたい)の着信音は Yesterday once more  かわせみ 87 0947