桃李歌壇  目次

不亡草が

連作和歌 百首歌集

 

5901  母上よあれから五十九年目です不亡草が今朝咲きました 87 1320
5902  秋立つとウソだね暑かったんだよ五十九年前からの空 海月 87 1623
5903  初秋の砂浜白く歩み行くワタシハドチラガワニイルノカ ぽぽな 87 2138
5904  夕凪の沖遥かなる日輪のまかがやく中へ鳥の影行く 海斗 88 1053
5905  こゆるぎて相模の海の夏夕焼マストの鳥の瞳つぶらか 真奈 88 1205
5906  小余綾(こゆるぎ)の磯を東に十里なる腰越の地に小動 (こゆるぎ)岬が 蘇生 88 1527
5907  少年の岬に浮いた白ら雲がいまも耀ふ人の哀しも しゅう 89 0710
5908  遥かなる浦上につづく今朝の空わが黙ふかく頭を垂れてゆく 89 0811
5909  ふるさとに似て懐かしき港町その長崎のその日の朝を  蘇生 89 0905
5910  端居して読経聴きをり雲ぽかり幼き朋のけふの朝なり 海月 89 1337
5911  視覚障害者からの音読依頼朝から始めるさだまさし著「解夏」 雛菊 89 2007
5912  知らぬ間に唇零るペリカンは秋晴れよりもうつくしいかな ぽぽな 810 1014
5913  わが胸に深き井戸ある美しき水満たすべく歓びあれよ 810 1502
5914  遠き日の清らかなりし風と水仄かに想う懐かしき恋 白馬 810 2026
5915  まつすぐに空をめざせる蚕豆の稚実 (わかみ)のごとき恋なりしかな かわせみ 811 0842
5916  ヒロシマ・モナムール 私はすべてを見たわ君はなにも見てはいない 海月 811 1302
5917  たまゆらの情事に燃えし残像よ死の影きえぬヒロシマ思えば 811 1625
5918  何もかも朝の色に染まるとき夢のかけらの風にキラキラ 真奈 812 0908
5919  いつしらに法師蝉鳴きゆく夏の朝まっしろな皿をならべる 812 0932
5920  けふもまた絶えることなき蝉の声けだし盛りの主は代はらむ  蘇生 812 1541
5921  さいならと猫にあいさつ残り蝉 敗戦日まだ虫は鳴かない 海月 813 2330
5922  体ごと壁に突っ込む残り蝉お母さーんと叫んで散ったか特攻兵士 雛菊 814 0851
5923  恋人の裸体画遺し散ゆきぬ画学生はも哀しかりけり しゅう 814 0939
5924  つ・・・と寄りて「告別」をみし「涅槃」みし香月泰男の没後三十年 814 1004
5925  囚われて黒きフードに縄打たれアブグレイブに人は居りしか 真奈 814 1047
5926  戦いは人の心を荒ますか心中巣食ふ虫の出ずるか 海斗 814 1149
5927  帰る家もうないのにと山崎ハコ ふつうの雨が降っている今日 海月 815 1139
5928  しみじみと「米軍キャンプ」を聴きながら辛ラーメンをすすっている 815 1322
5929  還暦にあとひと年の終戦日インターネットで玉音を聴く  蘇生 815 2025
5930  「自らの馬車を星に繋げ」とて桜かざして神兵たちは 真奈 815 2149
5931  大の字に刈り込まれたる如意ケ岳火入れ支度の人影見えて  蘇生 816 0853
5932  空こがす遠き炎を見てづくと野性の風の吹き出だすかな しゅう 816 0954
5933  松明が点り始めた山稜に何やら黒く浮かぶ大文字  蘇生 816 2218
5934  サヌカイトもゆらに韻き山稜の舟形の炎()は風を孕みつ かわせみ 817 0828
5935  夏葱を厨にきざみ送り火をみしことなければ不意にさぶしく 817 0900
5936  盆の唄とほくちかくに舟は出づちひさき川の此彼のこと 海月 817 1754
5937  舟歌の間奏曲の流れ来るふとまどろみの小夜の涼風 真奈 818 1321
5938  腹を割ってなにを語ればよいのやら典雅なる樂聴くふりをして 818 2026
5939  喫茶店の2時間会話を推奨する斎藤孝に異議のありけり しゅう 819 1026
5940  天才も人たるゆえのアテネ発こもごも悲喜に異議なかりけり  蘇生 820 1645
5941  嘗てわが喝采を浴びしことなきにオリーブの冠欲しくはないか 821 1007
5942  金メダルと決まりし刹那なにもかも忘れてしまうひとの顔見し 白馬 821 1130
5943  金銀のメダル話に踊る島パソコンやりにここまできたよ ぽぽな 821 1220
5944  異国から桃李に詠うぽぽなさん久しぶりなる故郷はいかが  蘇生 821 1619
5945  飛行機はとても怖くて乗れません夕焼の里はやさしいですか 海月 821 1712
5946  ねぶた囃子遠くに去りてふる里は黄色の女郎花山染める頃 雛菊 822 0848
5947  秋風のそ知らぬ顔で脇抜けてゆくこの頃の淋しくもあり しゅう 822 1337
5948  父母を看取りし後のふるさとの友の孤食はさみしくあらむに 822 1424
5949  朝・昼・夕 食と食との間合いでは我のむさぼる自由には足らず しゅう 823 0959
5950  死なむほど狂はむほどに愛ほしき君に捧げむ我が恋心  冬扇 823 1642
5951  「冬ソナ」にはまりし友の熱射病「ヨン様ヨン様」とうるさくてかなわぬ 雛菊 823 2042
5952  「そら」といふ友の居りけり昨日まで雨に紛れてどこまでいつた 海月 823 2123
5952  ヨンというモンゴロイドのやさ男芝生は隣のやまとなでしこ  蘇生 823 2121
5953  端的に、もし言うならば親友よ 心病むとは天の采配 823 2209
5954  発狂は神の救いに外ならず癩療養所君(東條耿一)付添夫 しゅう 824 0627
5955  カッターナイフに友を刺ししはしらぬひのつくしをとめご齢 よはひ かわせみ
5956  死などなにほどのこともなしとう大き手に攫われゆきし天の高処に 824 1701
5957  生き急ぐ二十三歳の死をほっと寮友たちは葬りまいらす しゅう 825 0650
5958  蝉消えてしづかな晩は黒七味はらはらかけて粥をいただく 海月 825 2250
5959  扁炉という鍋を煮るわたくしの真の飢えを君知るやゆめ 826 0621
5960  わが夫の淋しさは知らじひまわりは振り払いてもアイデンティティー しゅう 826 1019
5961  朱夏過ぎて白秋に入りて想うこといかなる道にも辻はありけり 雛菊 826 1624
5962  扶桑社版「教科書」採択わが母校曲り角にたつ日本の子ども 真奈 827 1031
5963  ものを知るなにほどのことあらん秋(とき)見ることを語れ痛みなにいろ 海月 827 1744
5964  秋の夜の静寂に座し夭折の人の遺稿をつつしみて読む 827 1847
5965  わが生を怯懦の子なりとおん神に許しをこうは受け容れがたき (東條の遺稿、訪問者)しゅう 828 0904
5966  我よりもなほ吾()に近きものなれば汝()は吾が主なり木槿花散る  瑞恵 828 1104
5967  夕蜩のこえ澄むは神のこえ木道は天に架けたる階(きざはし)のよう 828 1356
5968  梢の間秘めたるごとく高き空神しろしめす秋の夕暮れ 白馬 828 1558
5969  初秋の夕べにシャワーを浴びをりてぴりりと熱き風呂が恋しき  蘇生 828 1818
5970  桔梗野湯木の札竹かご大風呂敷番台のおばさんちりちりパーマ 雛菊 828 2149
5971  政治家になっとらんとの罵声浴びせ女湯からの子供呼ぶ声 海斗 829 1041
5972  シーサーは大き目を剥きヤマトンチューよまたわれわれを見殺しにするとか! 真奈 829 1131
5973  江ノ島に寄す高波の本源は南西諸島沖の台風  蘇生 829 1339
5974  西表あさがお露をふふみつつこの世に咲(ひら)天上の青 かわせみ 831 2019
5975  此処より先へ生きて何視む蕣の明日咲く花の数をかぞえて 831 2102
5976  満月のこの満月の皓々と猫と遊ばむ天地有情 海月 831 2129
5977  前肢を揃えてしばらく坐りおり風吹けば風のなかの野良猫 91 2137
5978  あきかぜにはこばれてくるをさなごのゆらゆらゆらりんぶらんこのうた 雛菊 92 1701
5979  しのびやかに世は秋の国正座して東條耿一の詩を朗読す 93 1950
5980  語らひは刹那刹那に出で消えてねこじやらしただ風に輝く ぽぽな 93 2213
5981  耿一は縄文杉の哄笑のごと詠み尽くせしかかの詩かの生 命日に寄せて・真奈 94 0618
5982  チェシャー猫の笑いのやうな月うかび風は耿々花野をわたる かわせみ 95 0923
5983  花野果て点々々と黒の粒あれはものなの元は人間 海月 95 1314
5984  新しき翼に替えて発ちゆかな天に連なる花野があらば 95 2021
5985  暗がりに花野は白く沈みいて明けて華やぐ萬色の原  蘇生 96 0553
5986  獣らに踏み荒らされし花野にはなぜ?なぜ?なぜ?と童の言霊 雛菊 96 1024
5987  嘆くとも祈るともなく葉ももたず全生園に曼珠沙華咲く 96 1827
5988  曼珠沙華空に吸われし少女らの声の湧ききし百合舎廃屋 しゅう 98 0725
5989  彼岸花咲ける間(あはひ)の道をゆく美智子皇后陛下詠いし  98 2015
5990  御歌碑も今は昔となりにけり遺跡にひそと黒曼珠沙華  99 1608
5991  薬袋に夫の遺筆の掠れつつ瓶にさしたる白曼珠沙華 99 1651
5992  此岸に葉見づ花見づ黒白と彼岸は如何望郷臺の児 海月 99 1807
5993  今昔や望郷臺に近隣の子らが遊びのマウンテンバイク しゅう 910 0621
5994  望郷の思ひ凝りし曼珠沙華その首なべて高空を指し かわせみ 910 0832
5995  猫が死ぬこの曇天の道端でとくりとくりと息いま絶えた 海月 910 1404
5996  秋雨のふるゆうぐれの街上の惨劇としてわれは忘れぬ 910 1913
5997  九月十一日島は青空と雲を湛へて祈り続ける ぽぽな 912 0112
5998  いくさ熄まず地球の裏に歎き満ちインティファーダの砂の軋みが 真奈 912 0128
5999  壁こわれまた壁つくるシジフォスのどんづまりです花野あるけど 海月 912 1542
6000  お母さまは淋しいのではないかしらヘルパーのひと言わかってはいるけれど 雛菊 912 1909