桃李歌壇  目次

光りと蔭の

連作和歌 百首歌集

 

6001  宇宙語になりたる伯母の目に写るひかりとかげの境を説けど  912 2306    
6002  二十四時間十年を看し妻に義母の最期はぼくにありがと 海月 912 2318    
6003  ひとりごと小鍋に混ぜて冬至粥ルーペの中に探す未来図 真奈 912 2330    
6004  パソコンをオンにいつもの朝なれど風は清かに秋を醸せり  蘇生 913 0739    
6005  薄刈る両手に余し童(わらんべ)の甲高き声風船流る 海月 913 1332    
6006  雨の木のなかへ雨の木を通りぬけわれ招かれて花すすきまで 913 1545    
6007  恐ろしき夢畳まるる一睡にわれ招かるることの幾度 ぽぽな 913 2151    
6008  絶筆にジャンセン歌う春日井健マスカレードのワルツさびしき 真奈 914 1622    
6009  精霊(とんぼう)は啄ばむごとく震えつつ己が名を水にしるして去りぬ 914 1912    
6010  アキアカネ霧晴れて朝きぬぎぬの光りをまとう谷間かな しゅう 915 1120    
6011  幾重なる歴史のとばりこの山に谷間の霧と吸はれてまほし れんか 915 1327    
6012  野の百合の何処に生ると云ふけれど砂の谷間の闇は深くし 海月 915 1519    
6013  現実がぼんやりとしてよく見えぬ耳朶りんりんと盲導鈴をきく 915 1946    
6014  現なるしがらみ朧になりゆきぬ葛藤しつつにわれは人間  れんか 915 2212    
6015  薄墨に時雨るる余呉の湖(うみ)暮れて遙かとなりぬ過ぎし日の憶()  915 2218    
6016  わが裡に昏々とある余呉の湖三橋節子の夭逝を思えば 916 0718    
6017  (ハンセン病文学)全集の戦前の部は夭折の作家の多し小泉(雅二)もまた  しゅう 916 1748    
6018  それでもなほなす事なして駆けぬけし人々ありぬわれは凡々  れんか 916 2053    
6019  生きるとはかく歩むこともの言はぬきみ義足にて教へ給ひき  916 2254    
6020  彼岸きて三月を残すカレンダー臥す老父母の生きゆく日々を  蘇生 917 0655    
6021  卒寿過ぎ耳遠けれどいまだ吾を気遣ふ母になに応ふべき 茉莉花 917 0920    
6022  幼き日みな仏の子と慈しむ祖母の形見の数珠の重さよ 真奈 917 1121    
6023  白曼珠 (そら)あをあをとあをあをと命静かにもういいかと云ふ 海月 917 1505    
6024  母は母父は父なり老いたれど永久にわれには至上なりけり  蘇生 917 1840    
6025  吹き晴れて白鳥一羽渡りきぬ水柔らかき光やどせり 真奈 918 0923    
6026  しかしまたなぜ躊躇うか海風よ人と季との移ろうなかに 918 0942    
6027  不器量なこねこ一匹置き去られ岬の涯はひたすらの藍(あを) かわせみ 918 1034   918 1034
6028  置き去られし少年の日こそ無垢なりき俄に秋の雨暗くなり  れん 918 1144    
6029  弧鴉のお〜いお〜いは淋しいぞナイフ飛び交う秋づく夕陽 海月 918 2102    
6030  子をとろことろ、鬼に追はれてをとうとの帰らずなりし青すすき原 かわせみ 918 2232    
6031  夕陽色の「アンネのばら」が咲きました祖は隠れ家の庭に咲きいし 雛菊 918 2249    
6032  ビルヂング皆海へ向き何思ふ虎杖の花くるぶしに揺れ ぽぽな 919 0113    
6033  遊覧にビルは裏なる隅田川うららは失せてすでに久しき  蘇生 919 0625    
6034  満ち潮に永代渡ればかすかなる潮の匂ひに海懐かしく 真奈 919 1109    
6035  厩橋都電乗り換え学校へ渡り鳥見る不忍池 海月 919 2240    
6036  漂泊の駅幾千を乗り継ぎて返り見すれば霧の遥けし ぽぽな 920 0014    
6037  ちちははの精霊は墓処にあらざればわれにはとおき、杳きちちはは 920 0907    
6038  里帰りすべくもあらざり父母の御墓に詣でむ神無月こそ  れん 920 1439    
6039  健やかに老いいく生が正なのか病む人にだって豊かな生あり 雛菊 920 2029    
6040  モットーは「苦しきときはおほらかに楽しきときは緻密に」なれど・・ 真奈 921 0922    
6041  <思想>は即ち<私想>とあえて思いおり雲ちぎれとぶ坂下りつつ 9月21日 17時26分   921 1726
6042  雨やみて薄ら日のさす黒瀬橋渡りつつ下の濁流激し  れん 922 1107    
6043  秋日和傘が干されてふくらんで「楽天」なる野球チーム生るといふ 真奈 922 2317    
6044  とんぼうの夢はいつでも楽しいに野原どんどん足りなくなるの 海月 923 1641    
6045  かなしみて鳴くにはあらね蟋蟀よ夜の底いに死支度せよ 923 1926    
6046  長き夜を「かたさせすそさせ」針足も滞りがちなる君が帷子 かわせみ 924 0840    
6047  臨界を越えてぐいぐい増殖す人の業。針六腑に至る ぽぽな 924 0957    
6048  繁りたる廃家の庭に柿見えて盛りし頃のその賑わいを  蘇生 924 1819    
6049  柿の木を庭に植えた人きつと生きていること喜びてなり しゅう 925 0715    
6050  うすらかな雨もて今朝は明けそめぬ林檎かじりて一途に生きよ 925 0846    
6051  はげしくもときにけだるく日のめぐり今朝は雨後なる滴のかがやき れん 925 1211    
6052  紅玉の酸味もなくて曖昧に日暦やぶく朝餉の雨に 海月 925 1253    
6053  珈琲と新聞かかへ今日もまた 何処から来たの 何処へ向ふの 真奈 925 1254    
6054  稲架ぬれて一入深む青丹いろ寧楽は遠しとさびしと思う 925 1712    
6055  一人居も人中に居ても人は淋しさびしがりやは唄う「真夜中のギター」 雛菊 925 2107    
6056  平城山をいまか越ゆらん秋風の辻に別れし人ぞ恋しき かわせみ 925 2221    
6057  幾つもの辻よぎる度十字切る人も車も風も月日も ぽぽな 925 2321    
6058  手をとりて越えなば笑まふひとつ影歌姫越のふるき細道 真奈 925 2326    
6059  白粉の首垂れをぬ影ぼふと背反り返るマラリアの父 海月 926 1325    
6060  日本はいま雨のくに深甚と首(こうべ)をたれて何をか祈らむ 927 0809    
6061  ジャングルに水漬く屍となりし人つひの眼に見しやふるさと かわせみ 927 0811    
6062  胸打つは避寒に訪いしサイパンに未だ残りし錆びた戦車が  蘇生 927 1729    
6063  古代への回帰が国家主義となったこの日本的悲劇の根っことは 真奈 927 2254    
6064  まなぶたを閉づれど遠き父母よ今やうやくに時代は人権 れん 928 1310    
6065  酒すこし供養にふりて秋刀魚焼く定年貴族は貧しくも自由 真奈 930 1036    
6066  頼りになるは酒ばかりたふたふと廃船揺れるグラウンドゼロ 海月 101 1204    
6067  遙かなる日日への思ひは照り翳り秋の浜辺に燃ゆる廃船 たまこ 101 1827    
6068  空のみちに幻の船浮かべたり和賀江の海は深き青なり 真奈 102 1046    
6069  一艘の舟が沖から近づけり何者かからの伝言積んで 102 1427    
6070  君からのメールのやうなゆりかもめ差し伸べし手に触れんばかりに かわせみ 102 1928    
6071  ようこそとふたたび巡る旋律の天までとどけ春咲小紅 真奈 103 1022    
6072  雷鳴の過ぎし夜空の漆黒に蠍の全き姿煌めく たまこ 105 0654    
6073  東雲の群れる鴉を追い散らし台湾リスが秋の実を追う  蘇生 105 1556    
6074  醜いね熊の仔捕えにやけてる団栗なけりゃ残飯喰うに 海月 105 1725    
6075  友だちよあの日の仔熊はゾーヴァの箱舟に乗って旅をしている 106 1002    
6076  プーさんもティがーも乗せて椎の実のピチピチ転がる森を捜さう かわせみ 107 0818    
6077  椎落ち葉の乾反(ひぞり)を踏みて当てもなし冬眠前のはらぺこの熊 たまこ 108 0656    
6078  黒きもの列島覆ひ累々と山も眠らず熊も眠らず 真奈 108 2051    
6079  重ね来し豪雨を凌ぐ当てもなく避難に明ける老いし人々  蘇生 109 0723    
6080  ぐしやぐしやに今日も雨降る日本の方向指示器の電池も切れて たまこ 109 1742    
6081  泥酔し理屈っぽいとだめ出せど知らず知らずに好きになりけり ぽぽな 1012 0244    
6082  君と飲みし甘やかな時間物語の終章として改札口は 1012 0807    
6083  ディーゼル車すこし傾ぎて着きたるは釣鐘ニンジン揺るる停車場 かわせみ 1012 0826    
6084  遊びだとわかっていてもグレーゾーン血液型別性格判断 雛菊 1012 0835    
6085  トラックがオモチャのように重なりてはっと息のむ台風の痕  蘇生 1013 0610    
6086  キャサリンとかキティ台風とか女性名何故と思ひし占領時代 真奈 1013 0835    
6087  売り出しの空き地の幟が色あせて風に鳴りをり秋深みゆく たまこ 1013 1959    
6088  野襤褸菊南蛮煙管灸花さみしききわみきみにつげえず 1014 1958    
6089  穂すすきのトンネル抜けてゆく猫の恋のおもひの思ひ草咲く かわせみ 1014 2339    
6090  首傾げなに思ふらん思ひ草恋する猫は凛と見ゆるに 真奈 1014 2351    
6091  屹立として凛として吹く風に向き合う人と恋してみたい 茉莉花 1015 1023    
6092  木犀の花の零るる昼下がり風より軽く竿売りの声 たまこ 1015 1852    
6093  凶暴な風にひれ伏したのではない嗚呼いちめんの木犀絨毯 真奈 1017 1023    
6094  凶暴な風にひれ伏してはならぬ子等を守らむ教基法死守 雛菊 1017 1620    
6095  次々と地図なぞるかに列島を暴風来たり何故に今年は  蘇生 1017 1743    
6096  鈍色の野分の雲の垂れこめて高層ビル群墓碑のごとくに 真奈 1019 1328    
6097  CCレモンの空缶跳ねてる大野分濡れてもいいから転ばぬように 1020 1358    
6098  薄荷ドロップひとつ残りし缶のそこ覗けばすいーと淋しいよ、秋  かわせみ 1021 1348    
6099  時鳥草私の好きな秋の花野分けに負けぬ硬き茎持つ 雛菊 1022 0908    
6100  時鳥草手折りて我にくれしそは古拙の微笑孤高の佳人 茉莉花 1022 1633