桃李歌壇  目次

花ほととぎす

連作和歌 百首歌集

 

6101  わびしかるときもあらなむ天(あめ)のもと嵐のなかの花ほととぎす  れん 1024 0809    
6102  すでに今ひと葉とてなき梅が枝に春をはぐくむ午後の陽だまり  蘇生 1025 1259    
6103  差しのべる手に一椀の汁の民マグマの怒りいまだ熄まずに 真奈 1025 1313    
6104  生きることの隠れた意味を思う夜ぞ小千谷の友に酷寒がくる 1027 1801    
6105  幼児のつぶら眼に見たるもの黄泉平坂、根の堅州国  かわせみ 1028 0827    
6106  優太ちゃん救い出したる隊員の歯見せぬ口元美しと思ふ 雛菊 1029 2124    
6107  約束の本屋まであと一光年。毛糸、紅花、つんでよつんで ぽぽな 1030 0625    
6108  携帯の話し言葉で往き来する「博物誌一冊送ってください」 1031 1709    
6109  道の隈いゆきかくゆきカーナビの導くままに古書店までを かわせみ 1031 2123    
6110  古書店の棚に見つけし「リラと薔薇」ルイ・アラゴンは古く新らし 真奈 111 0744    
6111  借り出した本のどこにも折り目なく立ち読むようにそっと開きぬ  蘇生 111 1551    
6112  小津映画折り目ただしき父と娘の会話に秋の日差しやはらか 真奈 114 1317    
6113  小六月野天にひとり猫といる禁欲的に生きなむとして 114 1948    
6114  点になり宙(そら)に消えゆく風船に許されぬ愛閉じ込めしまま  かわせみ 115 2217    
6115  卓上の秋の恵みに延々とありとあらゆる死告ぐるラヂオ ぽぽな 116 2231    
6116  長き腕でたぐりよせたる夢あらむ卓上にまどろむマティスの女 雛菊 117 1827    
6117  夢なれば醒めて忘るることなれど中越地震の余波の荒波 文枝 117 2302    
6118  地の基(もとゐ)揺らぐファルージャ逃れ来て天幕(テント)に眠るモスリムの子ら  柿の木 119 0817    
6119  束の間の眠りの中に見る夢はやさしき人に守られてあれ 茉莉花 119 1519    
6120  うたたねのなかに泣きいる声入り来誰とも知らず覚めて驚く 1111 2202    
6121  ゆめのゆめ、天幕の中に眠る児の夢の花野は万紫千紅 かわせみ 1112 0731    
6122  花のない季節の旅の凋落の村ひとつ越ゆ熊は死んだ 1113 1830    
6123  むらきのも砂と零るるさらさらと星と耀ふ言の葉つらね ぽぽな 1114 0104    
6124  台風一過の道の落ち葉の散乱は告げられなかつた数多の言葉 たまこ 1115 0631    
6125  散り急ぐ散り急がさるる言の葉もありなむ今朝も冷たき雨降る ギオ 1115 1214    
6126  言葉にて文化伝え来し人類よ我は信ずる言葉の力 雛菊 1115 1323    
6127  葉を脱ぎし枝にはすでに硬き芽が光りを放ち春を待つらん  蘇生 1115 2029    
6128  絡み合う美男葛のしゅう悪をしばらく見つつやがて暗澹 1116 0747    
6129  椎の木に絡まる蔓は「山芋だ掘つてみよう」と秘密めく声 たまこ 1116 2328    
6130  さねかづらその紅の濃く猛く見れば眠れぬ蔦とはなりぬ ギオ 1117 0012    
6131  言の葉を翫あそんで理を得べからず蔓枯れて鳴る夕べとなりぬ 1117 0712    
6132  眉月の夕べ親しき友の逝き終の辺りで唄ふ賛美歌  文枝 1117 1536    
6133  夕月のかたぶくさきに心寄すいかにしがたき闇とぞ知るも  1118 0125    
6134  後よりたれか呼ばふと振りむけば闇に泛べる白萩の花 かわせみ 1118 2004    
6135  恢復の兆しもみえぬ暗闇に運を掴めとあなたは言うが・・・ 1118 2206    
6136  ふいに薔薇身奥に匂ひ咲きそむるドラマならさう悪(ワル)もいいよね 真奈 1119 1334   1119 1334
6137  花店の日本水仙謙譲に束ねられいまが去り時か 1119 1424    
6138  親譲りの躁鬱病を持つ我は光射すまで闇底生きる 雛菊 1120 1152    
6139  鬱は辛いね躁もさねくたぶれてくたぶれちゃって闇夜閃光 海月 1120 2220    
6140  泣きながら光る一縷を手繰れども見えぬ母胎ぞ雪雪しまき ぽぽな 1121 0005    
6141  :懸想して蓑虫となるほかはなし鬱蒼として森は暗いよ 1121 0737    
6142  梟の森で見上ぐる月冴やかそは真なる足の灯火  文枝 1121 0835    
6143  梟とならんで風を聞く夜は遠く血に染むチグリスぞ思ふ 真奈 1121 0917    
6144  灯の下に赤い目をして猫が鳴く野分の風が雨戸を鳴らす たまこ 1121 2121    
6145  「猫飼好五十三疋」の組曲は鯵呂兵衛には鱚八の連れ 真奈 1124 2214    
6146  ふうわりと庭の千草にふりそそぐ夕光はわが静けき伴侶 1126 0842    
6147  風船は皮膚一枚の哀しみに虚空を満たす街流れ行く ぽぽな 1126 1118    
6148  思ひきり生きてみやうと紅をひき優しい虚空に爪立ててみる 真奈 1126 1150    
6149  今度こそと飛ばした綿毛「届いた」と海の知らせはまだ返らない たまこ 1127 0800    
6150  今度こそ視野から外すと決意して仰げば風が梳きゆく黄葉 1127 0820    
6151  細やかに書くことなどはなけれども手になじみたる手帳求めり  蘇生 1127 0852    
6152  選びかねて迷ふもたのし来年より仕事を始めむ私の手帳 たまこ 1128 0738    
6153  エッシャーの手帳を開く午前2時読んでいるのは私だろうか ぽぽな 1128 0831    
6154  うず高く積みたる黒き手帳には塵積み来たるわが日々がある  蘇生 1128 0951    
6155  吾が罪の前に生まれしキリストの福音静かに待降節  文枝 1128 2106    
6156  十二月埋る予定は通院日科なくて死す科ありて死す 海月 1130 1230    
6157  極月や三十一かぞふ一夕に寒き月など愛でたきものを  蘇生 1130 1440    
6158  日だまりに寒月さんのヴァイオリンついうとうとと吾輩は猫 真奈 1130 2259    
6159  余念なく毛繕いするわが猫の五指ひらくときむめのようなる 121 1326    
6160  五指ひろげ幹を抱けば霜月の林にまぎれわれも樹となる かわせみ 123 0750    
6161  「五本指で数をかぞえゼロを知らず」不幸な人間棲む大都会 真奈 123 1152    
6162  東京の空の下なる病院の屋上にゐて時を貪る  文枝 123 1917    
6163  昼寝てふ惰眠貪り月も出たなんだかなあと笑ふしかない 海月 123 2236    
6164  ミモザの花咲きあふれいし夢の中こころ枯るるなと目覚めて思う 124 0036    
6165  ミモザの花もすでに散りゐむ別れしはパースの街の早春のころ たまこ 124 1251    
6166  銀座より海見ゆる日の「みもざ館」ロゼエを真似て啜る珈琲 真奈 124 1344    
6167  火の如き会いならざれど君といて死ぬほど苦き珈琲を飲む 124 1917    
6168  検診のオールマイナスなんて嘘いつもと違ふ珈琲の味 文枝 124 2050    
6169  二夜三夜読みてかがなべ夢十夜、君と酌みたき朝の珈琲 かわせみ 125 2100    
6170  珈琲を飲みながら読む言説のふかき無意味を君しるやゆめ 125 2124    
6171  くるくると四つ葉のクローバー回しつつ君には無意味なことも楽しく たまこ 125 2155    
6172  無意味なることは何にも無いなどと何とわたしは無意味なことを ぽぽな 126 0036    
6173  無意味なることこそよけれ簫々と冬樹の梢(うれ)の風を聴きつつ かわせみ 126 0826    
6174  l寥々と風吹く朝寄りゆけば冬芽の貌はこねこに似ている 126 0854    
6175  小庭にはわれと同じく冬暖の光りをあびて冬芽つややか  蘇生 126 1214    
6176  慌ただし師走の庭へ目をやれば万両の赤連ねつややか 雛菊 126 2039    
6177  憂きことは浮寝の鳥にいささかの佳音とどけむ冬桜さく 127 0934    
6178  思ひ出をいくつも連れて百合鴎が今年も河口に冬陽を返す たまこ 127 1855    
6179  掌に大いなる夢握りしめインター歌ふ罅われし空 真奈 127 2139    
6180  一切を遍く包む天空へ声なき声の祈り放てり 文枝 128 0746    
6181  叶ふことを願へば机に一つ置く花梨の香にも息詰まりさう たまこ 128 2213    
6182  くもりなき冬青空に願はくば小春賜はせ罹災の地には  蘇生 129 0807    
6183  クシュクシュと猫が風邪ひく小六月榠櫨酒のんで眠っていなさい 129 0824    
6184  窓に射す冬陽の中の白猫は一度も外へ出たことがない たまこ 129 1747    
6185  来し方や視しもの霞む窓越しに天使の梯子しばらく消えず 1210 0651    
6186  朝霧を解き放ちつつ昇りゆく虹にも雌雄(めを)のあるといふこと かわせみ 1210 0813    
6186  陽だまりの土手に楽しむ孤独あり突と拓くる天使の梯子 文枝 1210 0812    
6188  天国に裏階段もあるものを半音階の虹微笑んで見ゆ 真奈 1210 1053    
6189  「天国への梯子」は誰の発想か足悪き母はどうしたらいい たまこ 1210 1252    
6190  ギター弾く君よ一度は弾いたかいZEPのイントロStairway to Heaven ぽぽな 1211 0557    
6191  散瞳薬点眼しつつ朝まだきこころ鎮めて聴く "Orinoco Flow" 1211 0807    
6192  かつかつと夜の深さに磨かれて地に屹立と石畳踏む 海斗 1211 1601    
6193  群雲のいくつか過ぎし漆黒に冬三日月は鋭く冴えり  蘇生 1212 0534    
6194  天空の底さへ氷る月を見ゆ冬の断章書き綴る夜は 真奈 1212 2156    
6195  ドキドキと胸躍るもの欲しいだけ今夜見たいな双子座流星 雛菊 1213 1930    
6196  いましばし生きて何視む眼疾の加療の日々は自浄のごとき 1215 0710    
6197  生かされて四年過ぎ越す自らの明日に贈るクリスマスローズ 文枝 1215 2219    
6198  今を生きこの世の花に逢ふことは雅に遊ぶこころとぞ知る 真奈 1215 2342    
6199  なかなかにこれぞと思うことなくも過ぎてままよと是も好日  蘇生 1216 0817    
6200  左目の施術の朝友もまたつつがなくあれ雪中花匂う 1218 0606