桃李歌壇  目次

百舌鳥

連作和歌 百首歌集

 

6201  電線の銀色の波のその一つに百舌鳥がきてゐる初雪がふる たまこ 1218 0630
6202  水晶体替わりし眼に一本の裸木立てり冬深みつつ 1220 0759
6203  心痩せて裸木に添ふ白き壁冬の日まるく両の手に受く 真奈 1220 1132
6204  添ふてゐる猫とわたしが添ふてゐる凩の穴掘つたのだけど 海月 1220 2207
6205  シリウスを連れてオリオン昇る空いつまでも父を待ちしあの夜 千種 1221 0034
6206  清浄(きよら)なる光を曳きて枯葉舞う見守りいるほかあらざる痛み 1221 0645
6207  星形に割れてしまった鏡からガラスのかけら七つ微笑って 真奈 1221 1056
6208  夜を彫(え)りてオリオン光る寒の空ひそみて生くる深きの在りし  れん 1223 1406
6209  被災地の窓に灯りの点り初め空に響ける第九の祈り 文枝 1224 0825
6210  降誕祭前夜のミサに額づけりまだ希望あるこの世なるべし 千種 1224 2314
6211  在るのかな壊れてんじゃないのかな宙から見れば青い星でも 海月 1224 2338
6212  沈黙は雄弁に語りはちゃめちゃの国よりワタクシの目が大事 1225 0821
6213  もの言ひと別にうつるはカメラアイ鋭さこそにテレビを視つつ  れん 1226 1232
6214  母哭けり津波のテレビ残像の内なる母がこの吾の前に  丹仙 1228 2222
6215  うちつづく天災人災に壊れゆく亡き人びとのふるさと地球 たまこ 1229 0132
6216  現世にそぞろ煙りて雪降れり父母夫逝き国亡ぶとも 1229 0913
6217  鐘を鳴らしからくれなゐの消防車が疾駆してゆき雪の歳晩 たまこ 1229 1628
6218  数へ日の暦の写楽目を剥いて客を呼び込む雪の大店 真奈 1229 1646
6219  写楽斎われの歌詠み真似事に歳晩のとき学び楽しく  れん 1230 1343
6220  モーセの杖一振り欲しき大津波大つごもりの出エジプト記 文枝 1231 1047
6221  すっぽりとなべてを包む大歳の雪に天降(あも)れる神もあるべし かわせみ 1231 1350
6222  聖樹となれぬ木々ら穏やかなそれぞれの姿に白き雪を冠りて 1231 2225
6223  新玉の年の明けたる愛鷹の尾根の高きに白き半月  れん 11 1230
6224  なかなかに雲から出でぬ初日の出群像黒く浜に溢れて  蘇生 12 0734
6225  天色の蜜滴れる今朝の空ガラスの梟は羽をたたみて 15 0640
6226  ふくふくとあまたの夢に膨らみし翼たたみて眠るふくろふ かわせみ 15 0927
6227  ふくろふと貌向き合ひし昼下がり突とひらめく絵文字の心 文枝 15 2110
6228  星ばかり喰ふて痩せしふくろふに優しき古歌の森に流るる  真奈 17 0850
6229  情況はゆるやかに解けあけぼのの星を喰らいて友よ生き抜け 17 0851
6230  幾万の紋白蝶の羽のやう二千五年のあけぼのの雪 たまこ 17 1425
6231  幾万のほたる舞ひ飛ぶ海底に六〇年の生をこそ生く 海月 17 2106
6232  耳許に「僕です」の声聞えしか残る蛍のきらきらとして 真奈 18 0000
6233  幾度なく目覚めて夜の浅浅に夜光時計の数字は光る  れん 19 0743
6234  風音に母の寝息の消されつつ夜光時計の秒針光る たまこ 19 1549
6235  生きなむか寒木瓜の空三角に猫の目光る廃屋の庭 海月 19 1719
6236  どのように生きてもさみし高空に辛夷の蕾光あつめて 19 1750
6237  冬休み終はれば淋し夜の茶の間グランマ・モーゼスの絵画の世界 文枝 19 2112
6238  わが年を諾ひて佳き年の酒生も死もさて諾へるかな? 真奈 110 0632
6239  木伝いに鳥影のぼる束の間は飲食のこと忘れいるべし 110 0903
6240  膨らんでおなかが土を擦りさうな寒の雀が落ち実つひばむ たまこ 110 1004
6241  キッチンを覗く雀と目が合ひぬパピプペポットの湯は滾りたち かわせみ 110 1223
6242  ノックして物語またはじまってドレミファソラシド雪の舞ふ夜 真奈 110 2347
6243  「叩けボンゴ・踊れサンバ」とまねすればカキクケキャットのつぶら目と合ふ たまこ 110 2347
6244  飛蚊症かなと見据える4分休符鳶の数羽が高く舞いをり  蘇生 111 0901
6245  尖りゆく言葉を止めてお茶をのむはろばろと鳶の鳴く声はして たまこ 112 0549
6246  白梅のこれから凛と咲きをるか勇気を出せと声の聞えて 海月 112 2151
6247  永遠に「第二の性」を語るとも海と大地は女性名詞よ 真奈 113 0629
6248  ゆらのとをくるめきわたるゆめのふちかのふくろうにふかいりをして 113 0801
6249  風花にノロウイルスの紛れをり黄泉の淵より呼びし梟 文枝 113 2203
6250  風花の流るる果ての蒼き淵あかき椿が炎のごとし たまこ 114 1013
6251  いま落ちて息あるごとし寒椿アカペラで聞く風のバラード 真奈 115 0746
6252  ひとりへの愛半ばにて椿落つ蕭条と雨は雪にかわりつ 115 0926
6253  けふ明日と予報の雪を案じつつ坂のぼり行く氷雨降るなか  れん 115 1845
6254  坂の上はあこがれに似て白い雲のゆるやかにゆく空につながる たまこ 115 2112
6255  なんでかな氷雨降りをり猫は寝てぼくと空気が息をしてゐる 海月 115 2235
6256  胸に手を置けばゆるやかに上下して眠れる冬の雷鳥を戀う 116 1007
6257  拍動をさらに早める氷ノ山(ひようのせん)颪がはこぶ狼の声 たまこ 117 1146
6258  雪渓をアイゼンの音さくさくと天狼星を胸に抱きて 真奈 118 0613
6259  胸底に幾日かジラフを抱きおり天変地異の鎮まらぬ地球よ 120 0747
6260  首伸ばし麒麟は仰ぐおほ空へもろびとの夢放ちやらんと かわせみ 120 0910
6261  空高く麒麟翔ばせよ大欅眉青くして朝の駅頭 真奈 120 1051
6262  灯籠の空に昇りて祈らむか安らけくあれ安らけくあれ 海月 120 2100
6263  雪道をかさじぞうが祈りを持ってやってくる川に棄てた水子らよ/大きくおなり 123 0752
6264  雪道に落ちた胡桃の芽吹くころ乳垂れいちやうの乳飲みに来よ かわせみ 123 1112
6265  冬空に欅の枝はスワトウの黒きレースの如く広がる  蘇生 123 1200
6266  べうべうと流れ灌頂風の影撓められたる木々の悲しき 真奈 123 2233
6267  べうべうとガンジス河の波の間に御霊たゆたひ小鳥さへずり 文枝 125 0842
6268  鶴(たづ)の群れ気流に乗りて舞ひあがり嶺越ゆるとき光の微塵 かわせみ 125 0846
6269  蒼穹に磔刑のごと凧がゐる動かずにゐる動かずにゐる 海月 125 1448
6270  銀翼の点となりしを見失う告げ足らぬ目を吾子は残して 125 1726
6271  大空に一と引きたる糸雲の先には見えぬ機影あるらし  蘇生 127 0641
6272  台風に薙ぎ倒されし杉山の上にふかぶかと青き冬空 たまこ 127 0954
6273  杉の葉は茶に色づきて福々としたり顔なり憎らしきかな  蘇生 128 0914
6274  聞き役はのっぺらぼうにしたり顔相槌を打つ梅干しの種 真奈 131 0830
6275  忽と逝くALSの友の夫嘆きの底に梅のほころび 文枝 131 0959
6276  盆栽をを土におろしし紅梅のわが丈越ゆるまでの歳月 かわせみ 131 1104
6277  紅梅を目白つひばむこのショット予定調和も悪くはなくて たまこ 131 2039
6278  吹く風の冷えびえとして里山の白梅ひとつはつかに開く  れん 131 2210
6279  夜半より疾風が空を吹き抜けて梅の二月の朔は明けたり   蘇生 21 0622
6280  梅の花が今日散りました病床の母の手紙に一輪の影  田所勉 21 0940
6281  をさな母が読み我が読みし古絵本を窓辺に開く猫日和なり たまこ 21 1107
6282  ゆふ闇にかすか香りのありければ梅咲くらむと盲ひたる父 かわせみ 21 1117
6283  しろじろとしだれ梅さく衣更着にゆきし記憶もふりまさりつつ 21 1359
6284  霜天に鳩笑ひつつ降る降るぞ雲の遠足ぶらららららら 海月 22 1409
6285  笑うこと忘れ来た道戻り行く水の流れる音を頼りに 田所勉 22 2246
6286  遊学の子は渡りしやロンドン橋マザーグースの歌などうたって 23 0936
6287  漱石も渡りし橋に佇める汝の影に添ひ母もうたわん かわせみ 23 1134
6288  明暗の凍道に佇つ白き月一盞を置くそれからの君 真奈 23 1226
6289  林檎の香の言葉なりにきそれからの私の底に仄かに香る たまこ 23 1732
6290  凍道に林檎がひとつ有りました子守唄など聞かせませふか 海月 23 2052
6291  山盛りに陳列されしりんごパイ夕べには失せ朝な朝なに  蘇生 24 0638
6292  着ぶくれたアダムの拾ふ冬林檎エスポワールの帽を取りつつ 真奈 24 0905
6293  林檎の名あまたを吾に教えたる父の若かかりふと顕ちくる  れん 24 2145
6294  味爽の朝ひとり紅玉の皮剥けばロンドンゆ届く子のEメール 25 0826
6295  竹田てふ子守唄などありまして紅絹の切れ端すれきれました 海月 25 1256
6296  ぽっかりと空には赤い紙風船盆がきたよと鳶が啼いた 真奈 25 1609
6297  ふらここの鉄の鎖の凍てつきて華やぐ月夜待つは寂しき 海斗 26 1106
6298  木枯らしにふるふシリウス鞦韆の鉄の鎖の感触に似る たまこ 26 1219
6299  綾取りの川ならできる何本も母の背に似た雲の懐かし 真奈 26 1311
6300  綾取りのひとり遊びの女童の細きうなじの微かに震ふ 海斗 26 1453