桃李歌壇  目次

空の綾取り

連作和歌 百首歌集

 

6301  電線は空の綾取り祖母の手より取りし箒や川やすぢ雲 たまこ 26 1821
6302  あの雲を取ってくれろと猫のいう遊び場なんだもう往かなくちゃ 海月 26 2248
6303  夕雲に拍子木鳴らし防犯とご近所さんが井戸端をする  蘇生 27 0554
6304  「改革は男子の本懐」なんちゃって目を覚まさうね女小人は 真奈 27 0843
6305  寅さんと松陰同じ名前だね無鉄砲だね会って見たいね 海斗 27 2304
6306  美味きもの旬の河豚刺白子酒昔鉄砲さてもさてもや  蘇生 28 0708
6307  チバリヨの祈りよ届けひたすらに美味きものなど食ふは惜しかり 文枝 28 0948
6308  美味いものなどこの世には無いのだ祈る今のみ甘味溢れる 田所勉 28 2133
6309  美味きもの喰らふためにと人は生く一椀の水一挺の銃 海月 29 2222
6310  学校帰りに友と寄りゐし「フランセ」が今もあり窓に葉のそよぐこと たまこ 29 2327
6311  本売って本を買ひし日身辺にたえてなかりき今の襤褸は  千種 210 1014
6312  言葉をばたったひとつの武器として君に迫りし若き日の我よ 茉莉花 210 1051
6313  若き日のボーヴォワールはサルトルに哲学で負け文学に行ったとか 真奈 210 2205
6314  鮮明なる敗北感も勝利感もなく生きてきて鳴らす鳩笛 たまこ 211 0110
6315  親鸞もモーッアルトもいらざりきわが生のしんしんと餓えてこそあれ 211 1146
6316  煙草断ち貴様と一服するためさ櫻の下に案内をせいよ 海月 211 1153
6317  春立ちて桜の枝の黒々と脈じんじんと満つる様なり  蘇生 211 1903
6318  突きあぐるテーマ共生と創造なりディスク思へど駆りたてられり  れん 212 2021
6319  我が胸に風立てねやも今は春たのむからけつぱれ櫻見よ 海月 212 2146
6320  靱帯は千切れんばかり春寒の風に昨日も明日も半旗 ぽぽな 213 0016
6321  春浅き朝の光がたをやかに床の柱の裾を照らしぬ  蘇生 213 0723
6322  朝日さす床にゆうらり眠たさう私の息の詰まる風船 たまこ 214 1010
6323  縄文の女神のやうな胸ならび赤・青・白と飛ばす風船 真奈 215 1316
6324  屋久杉の脇芽を残しなに祈る山の民てふいまは何処に 海月 215 2149
6325  大揺れのなゐに目覚めし春暁のなぜか待ち侘ぶ朝の光を  蘇生 216 0614
6326  飛び起きてニュース確かむ朝の地震胸襟正し今日の御言葉 文枝 216 0718
6327  なゐありて猫の不思議よ寝もやらで机の下に坐つていたよ 海月 216 2130
6328  錆び猫は錆びた階段に座ってゐる緑の大きな瞳だけ貴族のやうに 真奈 217 0901
6329  夫をみる眼差し胸に顔を埋める仕草まつたく猫に降参 たまこ 217 1843
6330  そう言へば春立つ猫の声色を聞き初めたるはなゐのその朝  蘇生 217 1907
6331  風花のモザイク模様に舞ひくれば春立ちしかと今朝の寒さよ 真奈 219 1008
6332  「ちちよ、ちちよ」蓑虫は泣く風のむた揺るるばかりの一生なりせば かわせみ 219 1222
6333  かざはなの ゆふらりゆらり あらはれて ちにおつさきに きゆはまぼろし 海斗 219 1247
6334  風花のドブ板またぎマツカリを異国語と呑む裸電球 海月 219 1413
6335  折鶴のつばさを畳む夜となりて外の面静かに涅槃雪ふる 219 1426
6336  折鶴は白頭山かウスリーか夢に翔びゆく「お休み」の声 真奈 220 0846
6337  マタギてふ何処にもあり我が血にもデルスウザーラお休みなさい 海月 220 1141
6338  わが友よ心重くもある夜は『吉野紀行』を読んだらいかが? 220 2154
6339  早暁の成田の霞け散らして機首は北へとミラノへの旅   蘇生 221 0711
6340  水上の都市を思ふよバイトして信長が冬逃げる途なし 海月 221 1646
6341  貴種流離、いづべに熄まん積む雪に血潮のごとき朱実南天 かわせみ 222 0932
6342  毀るほど白くなりたる埋み火の朱の吐息の知るや爆ぜるを 真奈 222 1149
6343  かって歌はきみを射る火矢心寄せ厭離さみしく焚火をかこむ 222 1549
6344  団塊の世代の者ら火を囲み背はだれともわからぬ暗さ たまこ 223 1006
6345  老が居て若が居る春思います人は殺すなマッチも売った 海月 223 1257
6346  チャッカマン使へぬ人の空マッチ暖へ毛布の二重三重 文枝 224 0808
6347  この空のどこかで小さい子供たちマッチのやうな火を焚いてゐる かわせみ 224 0848
6348  マッチ擦るつかの間の不安哨戒機禁じられたる小さき十字架 真奈 224 1038
6349  トレンチコートの修司の背[そびら]を想ひつつモカコーヒーはあくまで苦く たまこ 224 2016
6350  春近く遠くもありて定まらずポットの茶葉がジャンピングしてる 224 2058
6351  修司とは青のジーンズサンダルよクリープのお湯割り飲んで春 海月 224 2125
6352  遠き日の叛旗顕ちくる雪の朝かごめかごめの幼き面輪 真奈 225 1358
6353  街灯の明かりを過ぎるぼたん雪過去世も暗し来世も暗し たまこ 225 1754
6354  甘美なる夜の記憶の底にふるあれが終りの雪であったか 226 1349
6355  シチリアの夜の眠りより地を蹴りて踊るサテュロス甘きくびれよ 真奈 227 1807
6356  たとふれば夜の路地底溢れくるカストリ色の『晴れた空』なり 海月 227 1920
6357  夢の又夢も頼もし信實の白き輝き梅林を行く  丹仙 228 1115
6358  サン・ルイの雪のセーヌを上りゆく長き艀が渦を残しつ  蘇生 228 1534
6359  思ひ出も未練も同じ色に染み流るる艀歌ふわくら葉 真奈 31 2048
6360  わくら葉の浮つ沈みつ流れゆく花水川に冬の靄立つ 弁慶 32 0415
6361  水底にしづもる泥鰌に「春だよ」とくすぐるやうなわくら葉の影 たまこ 34 0525
6362  ハンセンの患者残せし抱き人形生めざりし児に春を見させよ 真奈 34 0747
6363  去り行きし君に相模の紅白の梅の花咲く春を見せばや 弁慶 34 0953
6364  行着けぬ星のある家なんでかな日枝に梅咲き原付き取ろふ 海月 34 1222
6365  名残雪降る足柄の関の跡紅き梅咲く春のあけぼの 弁慶 35 0800
6366  残雪に時を刻みてひと冬の層なす縞はバウムクーヘン  蘇生 35 1010
6367  地下鉄の階段登り見渡せば春の雪降る霞ヶ関かな 弁慶 35 1019
6368  二月堂の階登りゆく練行の僧の黒衣も滲むあは雪 かわせみ 36 0014
6369  網代木も絶えて久しき宇治川に淡雪の舞う雛祭りの朝    36 0517
6370  吊り雛の花やぎをみて出でくれば消残りし雪は黒く汚れつ 36 0801
6371  つるし雛金目の鯛も泳ぎをりつらつら椿の伊豆の山里 真奈 36 0922
6372  遠近の人訪れて仰ぎ見る伊豆の河津の桜満開 弁慶 36 1005
6373  絵島へのしるべの残る古道の小川にかかる大桜かな  蘇生 36 1522
6374  高遠の小彼岸桜咲きにけり江島の住みし庵の跡に 弁慶 36 2136
6375  忍ぶこひ忍ばざるこひ、こひがんの色にでにけり 忍ぶこひこそ かわせみ 36 2328
6376  わがうちの杳き愛恋雪中のレンテンローズはうすくれないに 37 0726
6377  天平の香気ひめたる二月堂大松明のくれないが散る  蘇生 37 0959
6378  くれないの桜花散る川筋の小道を行きしかの踊り子も  弁慶 37 1006
6379  こんにちは挨拶しをり吾[あれ]もまたレンテンローズの薄紅に 海月 37 2016
6380  草の香と罪のにほひを引き連れてわたし無邪気なキンポウゲです 真奈 38 1145
6381  草の香がたてばたちまち無邪気にも白いマスクで艶をふせをり  蘇生 38 1828
6382  草の香のほのかに香る望月の牧の跡にも犬ふぐり咲く  弁慶 39 0856
6383  そこここにふぐりきらきら蕎麦の里こころ紡ぎて友と行く道  文枝 39 1721
6384  友といて云うことなんかなにもなく犬のふぐりをめっけたとだけ 海月 39 2121
6385  人はみな花の下へと集いゆくいぬのふぐりを踏みつけながら 39 2207
6386  いぬふぐり薄空色の小さき花土手一面に咲きにけるかな 弁慶 39 2232
6387  ぬまたばの闇を横切る灯がひとつ川土手をゆく人のあるらし たまこ 39 2348
6388  「いぬふぐり」の歌反戦のうた戻らぬくにさん偲ぶ芝山 真奈 39 2349
6389  芝原の彼方に雪の富士見えて夕暮れ近き足柄の関 弁慶 310 0017
6390  朝焼けの富士に背を向け黙々と若布干しをり漁師老いたり  蘇生 310 1501
6391  さねさしの相模の原の朝焼けに君と出会いしあの日忘れず  弁慶 311 0029
6392  あのままになるのだろうか噴水は涸れてゐたりき風の日なりき たまこ 311 0345
6393  瓢箪池も無くなつて無数の友が死んだんだよね火が風巻ゐた 海月 311 1403
6394  噺家のお内儀の建てし慰霊碑に三月十日忘れまじきと 真奈 311 1746
6395  「凧になったかあさん」ぼくはいまもなほ真っ赤な夢から逃れられない かわせみ 311 1902
6396  隆よおまえのかあちゃん出べそだろごめんなごめんほんとにごめん 海月 311 2228
6397  悲しきは焔降る夜の隅田川ともがら数多水漬く屍  弁慶 312 0003
6398  眼裏に三月十日の空の色川は下流へ下流へ海へ 文枝 312 0752
6399  母のなき六十年が過ぎてゆく忘れ雪いつしか消えてゆうぐれ 312 0807
6400  悪童もおちゃっぴーもみな死にました宝物だっためんこビー玉 真奈 312 0925