桃李歌壇  目次

セピア色した

連作和歌 百首歌集

 

6401  悪童と呼ばれし頃も懐かしくセピア色した写真一枚  弁慶 312 0933
6402  やんなんなあお前のベーゴマ持つてるよ捨てっちまうか俺の棺桶 海月 312 1244
6403  盲目の義父の語りを書き取りて甘酒売りの声響く夜 海斗 312 1456
6404  甘酒をふーふー飲みつつ戻りゆくあなたの故郷わたしの故郷 たまこ 312 2257
6405  機窓から見ゆる小磯の故郷の立ちたる岩に今も白波  蘇生 313 0827
6406  我が妹子は失せりにけりないたづらにしらたき豆腐鍋の間に間に 海斗 313 0959
6407  長ねぎは斜めに切ってはいけないよ眠りし妻の言葉を守る 田所勉 313 1052
6408  玉葱をきりて涙す吾妻の横顔見れば老いの兆しが  弁慶 313 1210
6409  しらたきの滝をば吾は流しをり眺めせしまにワンコ満足 {すき焼き返歌} 海月 313 2207
6410  箸速き友とすき焼きくらわんと思えど肉は絶え絶えにけり 弁慶 313 2322
6411  三角や丸や矩形やおでん鍋ライブドアから若き箸飛ぶ 真奈 315 1449
6412  どろどろと欲と理念があざなえる右往左往の株の末路は  蘇生 316 0929
6413  切り株に芽生えし若芽はやわらかな春の日差しの中にあるかな  弁慶 317 0341
6414  梅の香は春の温みを待つこころ沈丁薫る春や溢るる 海斗 317 2201
6415  明日ひらく蕾ばかりを選りて食む鵯(ひよ)の食欲まこと健やか かわせみ 317 2220
6416  春彼岸 父に供へむと丸めゐる白玉団子の目に沁む白さ たまこ 317 2338
6417  ものの芽の青 を抜かんと吾が墓へ彼岸参りの賑はふ中を  蘇生 318 0851
6418  いざ子ども春の野に出でうらうらと酒酌み交はし嘆き歌はむ 海斗 318 1018
6419  花粉症うつりにけりな徒らにわが身ひとつの欝にあらねど 真奈 318 1854
6420  哀れともいふべき人は目のかゆさくしゃみはなみずはなづまりにて 千種 318 2059
6421  願わくば杉の林に寝転びて花粉症なる病に罹らん  弁慶 319 0001
6422  こひ願ふ吾が足に夫の患ひよ癒えてふたたび大気にたたまし  れん 319 1350
6423  目の玉をひょいととり出し丸洗い出来ぬものかやスギ花粉症  蘇生 319 1641
6424  鳥避けの大きな目玉をつけられてさみしいさみしい塒の楓 たまこ 320 0004
6425  遠くより子らのさざめき沸きあがり広場の鳥の空へ翔け行く 海斗 320 0139
6426  姿川遠き霞の彼方へと流れて末は思川かな  弁慶 320 1059
6427  春一番すぎて夜空に隆起する富士の裾野の煙りたつみゆ  れん 320 1247
6428  去年の実のいくつか残る枝をはり鈴掛の木は春一を待つ たまこ 320 1330
6429  南総の花の香載せて春一番トラック野郎葛西橋ゆく 真奈 320 2354
6430  春一番雪解の水音こだまする硲の陰に猫柳咲く    321 0045
6431  春寒の雨の大学謝恩会「謝恩」を受けて夫がもどる たまこ 321 0812
6432  春寒の一日小さき者とゐて玄海島の地震をも知らず 文枝 321 1101
6433  春寒し雨は冷たく地震の報こじれし風邪の癒えて退院  れん 322 1750
6434  梅園の白き蕾を愛しむ生きてしあれば今日の一日を 丹仙 322 2040
6435  受診をへし母ともどれば陽はうらら猫に声かけ白梅あほぎ たまこ 323 0118
6436  春雨にけぶるようなる昼下がり診療室はマスク成人  蘇生 323 1633
6437  海見ゆる寺にけぶれる山茱萸の小さき地蔵に何か言ふらん 真奈 324 1041
6438  午後からの雨があがりて今しがた凪の浜辺に沈丁香る  蘇生 325 0821
6439  雨足の遠ざかり行く峠道春の日差しの暖かきかな  弁慶 326 0033
6440  澄みわたる空の青さよ月うるみ春の夜風のいささか冷たし  れん 326 0843
6441  秀吉の一夜城より北見れば江ノ島鎌倉春霞の中 弁慶 326 1120
6442  秀吉の右手の親指二本あり噂話も夢のまた夢 海斗 326 1140
6443  もののふの古道たどればそこ此処に今はとばかりはくれんの花  蘇生 328 1045
6444  はくれんのほたと落ちをり心の臓化天の内も夢は壱畳 海月 328 1635
6445  先きゆきの展望こめて夢でなくされど現はゆめ一畳か れん 328 2308
6446  夢のやうな日だつたと思ひだすだらう丘には石の風車が廻り たまこ 329 1844
6447  小雨降る夜の銀座の路地の奥赤い風車の踊り子の歌  弁慶 329 2309
6448  今だけが生きてる証し望郷の外人部隊のビラ風に哭く 真奈 330 1035
6449  スマトラをまたも襲いし大地震衆生済度の慈悲もなきかな 蘇生 330 1340
6450  天地 (あめつち)の理(ことわり)ゆゑにその上に生を受けたる者や哀しき 海斗 330 2358
6451  ぼくのせいラジカセ欲しいと云つたからかあさん死んだとうさん死んだ 海月 331 1730
6452  父母の既に世を去り幾年ぞ異邦人のごと故里の宿  れん 331 2223
6453  故郷の花の散りかふ石のうへ独り我が身の影を歩ます 丹仙 41 1648
6454  小さき影を踏んで踏まれて戯るる親子の頭上を春陽が渉る たまこ 42 0355
6455  金曜日午後の堤に竿のべて玉の春日の風に親しむ  蘇生 42 0546
6456  コンビニで子供の土産買ふついでパックの酒を提げる朧夜 海斗  42 0753
6457  おだやかな春のひざしのそそぐなか頬をなでゆく微かなる風  弁慶 42 0755
6458  春風に潜りこまれてむつつりの欅くすくす古葉をちらす たまこ 42 0903
6459  随心院小町の井戸の春落ち葉我が心情を隠し尽くして  千種 42 2144
6460  吹く風の音のかそけき春の日に一人静の白き花咲く  弁慶 42 2258
6461  大地からからくも噴き出づ赤き芽は芍薬ならむ風の微かに  れん 42 2354
6462  芍薬の若芽の尖の露の玉 風にかすかに小鈴の音する たまこ 43 0614
6463  磯波のゆらぎにまかせゆらゆらとゆらぐ若布や春は来にけり  蘇生 43 0908
6464  若布刈る人に尋ねん波の下に花の都のさぶらうべしや  弁慶 43 1020
6465  高校の窓辺に友と語りにき冠雪の山の向かうの東京 たまこ 43 2302
6466  道づたひに求め来し姿あぜんとす故里の山まさに開かれ  れん 43 2333
6467  開発を阻止し残りし裏山の神さぶるかな大山櫻  蘇生 44 0736
6468  目をしひてロザリオ胸にかけゐたる君はにはかに神のもとへゆく  れん 44 2148
6469  わが灰は犬猫隣り埋めよてふわざわざ海に行くまでもない 海月 45 0839
6470  蛇行する川面に写る曇天に浮く花びらは希望のごとし たまこ 46 0530
6471  足柄や相模に流るる花吹雪彼方に春の雪の富士みゆ  弁慶 46 0925
6472  国分川若木の花の光りつつ天の点なる雲雀囀る 千種 46 1734
6473  眼科室窓の形に見たりしは初桜なり空の青さよ れん 46 2202
6474  山の際にほつほつ白き夕桜老い木は花もかそかなりけり かわせみ 46 2325
6475  やまざくら咲きにけらしな緑なす真木立つ山の裾のあたりに  弁慶 46 2350
6476  生き代わり復たみむと思う遠桜息子の肩越しにうすく烟りて 47 0814
6477  若き木の枝垂れ桜の蕾つく大木は病みうち倒されたり  れん 47 1347
6478  老木に胴吹き桜の枝見ればいのちの限り咲けよとぞ思ふ 真奈 47 2253
6479  吊革に諸手預けて車窓より眺めせし間の櫻なりけり 海斗 47 2257
6480  爛春に急な夏日の昼下がり上着を手にし花に連なる  蘇生 48 0523
6481  舂けばしろき翼をゆるがせて鳳となる夕べ桜は かわせみ 48 0758
6482  鳳のごとき喜びDr.を頼りて夫の明日は退院  れん 48 1719
6483  退院の君を包むは満開の桜なるかな穏やかであれ 雛菊 48 2033
6484  花も充つモーツアルトなど聴きながら薄茶で乾杯しようじゃないか 海月 48 2303
6485  眼裏に顕つや万朶の吉野山「そうねぇ!それもいいかも知れない」 49 0851
6486  ありがたう幾度も言ひて夫退院あたたかきこころ桜盛りなり  れん 49 1230
6487  白むまで『西行花伝』読みをれば女院の声の華やぎて明し 真奈 49 1233
6488  華やぎて鳳のごと爛漫と群れ咲くさくら薄墨に映え  れん 410 1329
6489  寄り添ひて寄り添ひをりて花筏生きてをること不思議と思ふ 海月 410 2047
6490  左手と右手あることわたくしがここに在ること昼の薄月 かわせみ 411 0836
6491  埒もなきこと告げ合いて寂しけれ存在証明のごときメールは 411 1336
6492  爛漫の花は静かに雨に添い夕べに白く爛々とせり  蘇生 411 1759
6493  降りつづく雨のやうやく真夜に入り桜一木のまれて消ゆる  れん 412 0626
6494  やはらかき雨もいつしかこはらかに花の名残りを絶つがごとくに  蘇生 412 0814
6495  春北風吹きぬけてゆく国境夢のかけはし花を掲げん 真奈 413 0832
6496  風吹けば相模へ流るる花吹雪乙女峠の春の夕暮れ  弁慶 413 1005
6497  夕の暮れ真夜の闇はもあけたれば桜うつつに甦りたり れん 414 1033
6498  見飽かぬといふよりもつのる枯渇感さくら並木をゆけどもゆけども たまこ 414 1048
6499  さくら道抜けて訪ねし老ホーム壁に貼られし小学唱歌 文枝 414 2029
6500  花の道登り辿れば北の空彼方に春の雪の富士見ゆ    414 2325