桃李歌壇  目次

春雪の富士

連作和歌 百首歌集

 

6501  春雪の富士と向き合ひ深呼吸彼方に在りし故郷は今 文枝 416 0820
6502  犀星の詩(うた)うべなひし故郷はひたすら遠く花霞みして  れん 416 1134
6503  ふるさとは遠き彼方の空のした山川草木春霞みの中  弁慶 416 1244
6504  母あらず父もまたなきげんげ畑ふるさとまとめて花いちもんめ かわせみ 416 2151
6505  魚野川見え初めにつつ故郷は寂しくあれど一日の浄土 417 0724
6506  気がつけば処々方々で鳴き交わす声はうぐいす初音なるかな  蘇生 417 0821
6507  たんぽぽの茎吹く子等の弾む頬ぷぷぷと鳴らしぷぷぷと笑ふ 雛菊 418 2138
6508  突然に海彼の国のデモの渦戦争知らぬ子等に幸あれ 真奈 418 2209
6509  かの国の抗日知らぬ世代にもそのDNAは埋め込まれたか  蘇生 420 0614
6510  抗日の歴史薄れし日本の心貧しく物の豊かさ 文枝 422 2100
6511  東海の便りを寄する術もなし孤島へ帰る君と別れなば 海斗 423 1543
6512  うららかな日和の空に帯の雲君の島への地震兆せり  蘇生 423 1809
6513  落花落葉こころ向けつつ生きをれば天災人災間断のなし  れん 426 1153
6514  散るからに花のさかりをいとしみて逢ひみむ春のまた永遠に美し 真奈 426 2131
6515  花過ぎのわれの外なき静寂の地にかすかなる蘂ふる音の   蘇生 427 0647
6516  八重桜ぼってり咲いて背が重い過去形なのに音がするんだ 海月 427 2332
6517  カトレアが造花の如く整いて香りふんだん進行形に 蘇生 428 0612
6518  とこしへの国へ旅たつはらからの足もとてらせ真白き一輪  れん 428 0655
6519  「ダイヤ守れ」ノルマは遂に脱線へ一○六人のダイヤ絶ちたり 真奈 429 1200
6520  買出しの列車でじじが死んだのさ鴻巣駅で荷車押したさ 海月 429 1950
6521  若き日を輝き生きて忽と死す花の命の重み重なり 文枝 430 0716
6522  老いるとも朝な夕なに甲斐もちて生くる仁ありかく歩まばや 蘇生 52 0557
6523  八千歩あるき歩きて逢ひにゆくあけぼの杉と吾のみの空 かわせみ 54 1800
6524  逢いに行くさつきみなづき耀けば放たれて空を行くこいのぼり 55 0730
6525  家族なる鯉の幟を糸に連れ大凧高く風に動ぜず  蘇生 55 0841
6526  タコなれば八方美人に手を引かれ夢醒めやらぬ春の余の風 鮟鱇 59 1931
6527  余の風のおこぼれ貰ひ混合酒腰が抜けたさ葉桜の青 海月 59 2341
6528  駆け落ちになおも欠けたるバイアグラ欠けゆく月に挂(か)かる雲かも 鮟鱇 510 1927
6529  くり返しくり返し書く淳一の秘めごと語りマンネリに落つ  蘇生 511 0752
6530  さつきには緑ぞ色にまさりけり晴れて山行く君のすがしさ 鮟鱇 511 2133
6531  待宵の香すがしき夏木立縄文女神通り過ぎたか 真奈 513 2322
6532  初夏の光を浴びて彼我もなくまどろみをれば麦笛の夢 海斗 514 2206
6533  五月きて昼の干潟が広がりてやがて寄せくる潮騒の音  蘇生 515 0534
6534  潮騒に重なり聞こゆ母のうた海には母がつねいますゆゑ かわせみ 515 1546
6535  魚とり鳶ゆくさきに雛ありやひねもす垂れる浮きの軽さよ 鮟鱇 515 1736
6536  降る雨の季にあらずや肌寒く名残りの藤の褪せてぞ垂るる  れん 515 2035
6537  散策に出でんとしては装いに迷う名残りの風の冷たさ  蘇生 516 0730
6538  ひとり寝の旅に冴えたり窓の月李白の詩集枕辺の夏 鮟鱇 516 2108
6539  蓮の実を五月の西施摘みとるや夢に小舟のたゆたひて行く 真奈 517 1100
6540  ほのぼのと笑みたまひますかんばせの慕はしきかも合歓の花咲く 千種 517 1255
6541  合歓の抱く巫山の夢の置き露に雲は映りて風に流れん 鮟鱇 518 2148
6542  春盛る北の大地の森林に老倒木の無残なるかな  蘇生 519 0828
6543  苔むさば朝霧木洩る日のもとのシダやキノコの森ともならむ 鮟鱇 519 1941
6544  台風になぎ倒されし老木もやがては朽ちて土になるかな  蘇生 520 0528
6545  おほ風もこ風も夢の風の国 花に息吹く木陰のいびき 鮟鱇 520 1915
6546  覚めぎはの耳をくすぐるパンの笛蜥蜴の尻尾きらり光って 千種 521 0944
6577  底抜けのミッドサマーナイト森の中悪戯パック送信ミスだよ 真奈 521 1028
6548  パン喰らひパックを剥ぐにミスありや白粉のらぬサトゥルヌスの日 鮟鱇 521 2026
6549  ザンフィルのパンフルートがながれゆく地には平和を壺中の夢や 海月 524 1829
6550  フルートとフルーツ描く静物画 リンゴの腹にわれは金蝿 鮟鱇 525 1959
6551  静物画観るのが好きで握り飯上野の森にころりころころ 文枝 525 2040
6552  めし食えば鐘は上野の寛永寺 パンダ坐りの腹は満ちたり 鮟鱇 526 0918
6553  早暁の空に満ちたる月白く空き腹にくる近き鐘の音  蘇生 527 0603
6554  鐘を撞き吾に帰りし山の上微かに聴こゆ千の風の音 文枝 527 1725
6555  風吹かば蝶のみならずゴキブリのわれも飛び行く星光る空 鮟鱇 527 2001
6556  極彩の仮面をつけて道化師は光と闇を軽やかに飛ぶ 真奈 527 2215
6557  わが顔も一皮むけば髑髏なり生死の境に一輪の花 鮟鱇 527 2245
6558  夜行列車の窓に貼りつきどこまでも憑きて離れぬわれのペルソナ かわせみ 528 0208
6559  本当の自分に出会ふ旅に在り夜行列車の長きトンネル 文枝 528 0804
6560  霊犀の角に穴あり相通ず千里の果てに君は飛ぶ鳥 鮟鱇 528 0935
6561  暗き夜の果ての狭間をつきぬけて光に翔ばむ透明となり  れん 528 1000
6562  透き通る肌に浮かべる天のへそ 井蛙(せいあ)は仰ぐ九段の鳥居 鮟鱇 528 1215
6563  腹ふくる井蛙は健忘症なるか一点の恥辱なき天は何処 真奈 528 1457
6564  復興は生き残りらの努力なりいくさ命じし咎(とが)は原爆 鮟鱇 528 1559
6565  片意地の男の美学咎なりて国か己か何やら可笑し  蘇生 528 1813
6566  孤立の国いいえ私は孤独にはなれぬ性なり可笑しみのひと  れん 528 2029
6567  英霊が望むところか火種抱き再戦誓ふ敵はアメリカ 鮟鱇 528 2309
6568  生きてゐた英霊現るまぼろしのごとき歳月償ふは誰そ かわせみ 529 0059
6569  償ふは国と決まってゐるのだが金を積んでも帰りこぬ日々 鮟鱇 529 1008
6570  皇軍の兵士を生きた六十年正直者が馬鹿見る国でした 真奈 529 1146
6571  往き往きて皇軍「興味ありますね」ライオンヘアー坊主にしたい 海月 529 1826
6572  小いきにも泉に映る花影に純で一ずな女郎蜘蛛の巣 鮟鱇 529 2148
6573  分からんな償うのはね国じゃない戦後を生きた我々なんだ 海月 530 0025
6574  理屈では癒すすべなき償いに海ゆく人に望郷の月 鮟鱇 530 0728
6575  何人の発句賦し物さみだれて天下の望み今ぞ尽きける  丹仙 530 0912
6576  はっきりといはぬが花に心ありあじさい蕾むさみだれの庭 鮟鱇 530 0924
6577  さみだれの細く降りつぎ濡れてゐる山紫陽花のやうやく色づき  れん 530 2012
6578  憲法にNONのフランス・トリコロール灰色となる四片目の色 真奈 530 2330
6579  NONにこそ誇りあるべしフランスの憲法守る鼻の高さよ 鮟鱇 531 1844
6580  日本国憲法しかと守るべし戦争差別してはいけない 文枝 531 2037
6581  いくさ場に行けぬ年寄り杖つきて若きに国のほまれ説きをり 鮟鱇 61 0732
6582  「君死に給ふことなかれ」は反戦でなく家憂ふる歌と言ふ「つくる会」 真奈 61 1001
6583  雨紫陽花 国に誉れなどあるものか 鮟鱇自ら戦場に立て 海月 61 1032
6584  税という年貢を納め国という傘もとわれは立ちつくすのみ  蘇生 61 1829
6585  筆よりも重きは持たずいくさ場は人の心と決めてをり余は 鮟鱇 61 2244
6586  倒壊のポプラ並木の再現に思い想いや人の心は  蘇生 62 0626
6587  色も種も揃はぬ森の鳥の声 天は望まず有為の斉唱 鮟鱇 62 0723
6588  友よ友我ら桃李の森に集うはやくおいでよ一緒に歌おう 雛菊 62 2147
6589  歌詠みは下手こそよけれいざ我も心震わすことを歌おう 海斗 63 1212
6590  日々の心をよぎる事々を記すすべとし詠みて留めん  蘇生 63 1900
6591  風ふかばよもはらからの言の葉のさざめきわたる木霊ありなむ 鮟鱇 63 2228
6592  六月の花みな白きガレ場にも驟雨に小さき眼ひらきて 真奈 64 1118
6593  売子木の花なだりに白く散りさびて足踏み変えつ登りてゆかな 64 2240
6594  水掬ぶごとく両手の白薔薇香をかぐままに散り滅びけり  千種 64 2316
6595  きざはしのつぶらつぶらに幾霜のたれか亡びし人ぞ偲ばる  蘇生 65 0701
6596  どよめきの青春(はる)の祭りの列に在り少女は死して永遠に生きたる 真奈 65 0743
6597  今もなほ寄せ来る濤(なみ)のどよめきて思ふむかしの跡をぞ洗ふ 鮟鱇 65 0933
6598  交易のむかしを印す和賀江島ごろたの石は波の間に見ゆ  蘇生 65 1204
6599  蒼天に幻の船消えゆきぬ沖の小島の波の悲しも 真奈 65 2107
6600  悲しみの涙の河となりゆけばゆきつく先の海のひろさよ 鮟鱇 65 2201