桃李歌壇  目次

青海を

連作和歌 百首歌集

 

6601  青海をたゆたひつくす胆あらば埒明く道も案じつくべし  蘇生 66 0523
6602  ラチたよるシャドーロールの馬なれば片目を開かむ夏のローカル 鮟鱇 66 1914
6603  山壊し里に追いやり熊の目にスプレーかけてお仕置きだとさ 雛菊 67 2226
6604  因果律因果応報知りてなほ生きとし生けるものの哀しさ  蘇生 68 0748
6605  花巻の駅降り立てば水無月の空は夜鷹の星のレリーフ  丹仙 68 1643
6606  笛の音に誘はれ見上ぐ天の川双子の星の旅物語 文枝 68 1801
6607  万華鏡アースタワーの中に入り見上ぐる彩り宙(そら)思ひたり  れん 68 2008
6608  半分は探し物せし自分史の残るページは万華鏡と書く 真奈 68 2145
6609  産声も挙げず生まれし嬰児の自分史今も母の胎内 文枝 69 0748
6610  哀しいな哀しすぎるよ火垂るの子なんて書きやあいんだろかね 海月 69 1824
6611  悲しとも愛しとも書く「かなし」とはもののあわれのキイワードなり 茉莉花 69 1958
6612  宵あかり白花浮かぶ山法師ひとのかなしみ小雨にぬれて  れん 69 2205
6613  花先に露をとどめて朝の日に寡黙なりしが名は山法師  蘇生 610 0511
6614  漢土では四照花と呼ぶ山法師 四方(よも)を照らせよ法(ダルマ)の輝き 鮟鱇 610 1249
6615  わが杣に冥加あれかし一隅を守りて千里照らす国寳   丹仙 610 2138
6616  大いなる悲しみの眼に守られて修羅の涙の星となるらん 真奈 611 0907
6617  真夜中にぽとりと一つ紫陽花は涙のしづく集まりし花 雛菊 611 1017
6618  紫陽花の白きは歳のせゐなるか憶ふ昔の春の青きを 鮟鱇 611 2238
6619  天地玄黄なれど日の本鎌倉は雨紫陽花の七色に顕つ  丹仙 612 1201
6620  人らみなあじさい寺に集まらば歌壇に声なし天に星なし 鮟鱇 612 2258
6621  紫陽花の花は散らぬとさにあらづきのふひとりの友は旅立つ  れん 614 1349
6622  大空の絹ひとひらも動かさず友は逝きたり五十路半ばに 茉莉花 614 1424
6623  骨を組み肉を太らす身にあれど花散る夜は月をも恨む 鮟鱇 614 2043
6624  惜しみなく花散る夜のくらがりに遠き無念の魂に出逢ふや 真奈 614 2239
6625  一粒の麦となれかし散る花の数かぎりなしいのちの底ひ  れん 615 0921
6626  北東の風が大樹の葉を散らし初夏は一転梅雨寒の朝  蘇生 615 1210
6627  雨降らば野口英世も傘ささむコンビニに買う黒き蝙蝠 鮟鱇 615 2115
6628  青梅の一つ地に落ちピアニシモ雨降り足らぬ空を窺ふ  丹仙 616 2223
6629  雨靴もレインコートも身につけず闊歩するなり若きをみなは 茉莉花 617 0720
6630  手際よく濯ぎ物干す梅雨晴れ間晴耕雨読は夢のモチーフ 文枝 617 0805
6631  梅雨晴間霧吹きかけし薄物の蜉蝣のごと竿に揺れをり 真奈 617 0855
6632  陽に映ゆる無縫の天衣干す人の影をあふぎてたたずむロミオ 鮟鱇 617 2031
6633  薔薇といふ名前は知らず是の花は永遠の昔ゆ汝のうちに咲く  丹仙 618 0753
6634  羽衣を隠す私の心根を見透かす如き深きまなざし 海斗 618 0804
6635  かくすよりいったらいいよ好きならば両手ひろげてとおせんぼして 鮟鱇 618 2028
6636  通せんぼ通せんぼして誰も無い天神様の薄暗がりよ 海月 618 2315
6637  境内の人の影なき手水には暫し明るき空が滴る  蘇生 619 0616
6638  ひさかたの空を蜚びゆくあぶら虫 浮く塵の身も羽あり眼あり 鮟鱇 619 0940
6639  無者といふ福音説きし父の日の明るき空に沙羅の花散る  丹仙 619 1722
6640  三代の父存命の平らかな世の萬緑の常しえにあれ  蘇生 619 1845
6641  「路傍の石」読み聞かせれば父の泣く吾一に重なる少年時代 雛菊 619 2138
6642  父の日に絹のパンツを買ったのさだれが履くのか知らねえけれど 海月 620 0153
6643  するすると絹の靴下高く投げカッコ良かった往昔の映画 真奈 620 1357
6644  鳩時計スイスを笑ふ第三の男の映画みて桜桃忌  丹仙 620 2356
6645  三十年太宰眠れる街に住み桜桃忌には行かず過ぎたり 茉莉花 621 1022
6646  あれこれの明け暮れに追はれ過ぎてゐし海人忌ふと浮かべたれども  れん 621 1452
6647  明石てふ海で泳いださなんも知らないなんも知らない無銭旅行で 海月 621 1939
6648  列島のおらが浜にはおらが蛸須磨の明石も江戸前もよし  蘇生 622 0535
6649  キレのいい鯔背の衆もいなくなり多言語飛び交う今の大江戸 茉莉花 622 1159
6650  わが家は代々江戸に住みをれど母は伊予なり妻は長州 鮟鱇 622 2047
6651  流感に「久松留守」の札貼れば感染しない江戸ジョークとか 真奈 622 2115
6652  大江戸という名の都営地下鉄のその名の訳を誰か知るかや  蘇生 623 0712
6653  しみじみと都会の孤独噛み締めり迷子の子猫麻布十番 文枝 623 0732
6654  若きころの東山魁夷の表紙絵にであう楽しみ銀座の画廊 雛菊 623 1043
6655  年寄れば思ひ出ばかりが増えてをり列なす蟻をひねもす数ふ 鮟鱇 624 2129
6656  碌々となほ生きてあり蟻のごとき6666ゲットを狙ふ 堂島屋 625 1336
6657  時にあい連作和歌に日次して五歳千首は指呼の間に  蘇生 625 1749
6658  合歓の花ねむりに落ちる掌を時のしっぽはすり抜けてゆく ぽぽな 625 2204
6659  合コンは合歓のなまるにはあらねども時は酒なり恋も酒なり 鮟鱇 625 2242
6660  紆余にては悲喜交々に酒ありき末は交々酒を愛でなむ  蘇生 626 0557
6661  袈裟を脱ぎ叫びて踊る佐渡おけさ醒めて迎へる今朝のやす酒 鮟鱇 627 2251
6662  わが名いかで惜しまざらむと澄江堂風に舞ひたる艶のすげ笠 真奈 628 1711
6663  たちあがる蓮の群れにやすらぎぬ風わたりきてひとひらの舞ふ  れん 629 0719
6664  ゆらぎつつ色を秘めたる花の芽の今朝は満ちたり凌霄の花  蘇生 630 0517
6665  リビングにラベンダーのかをり満つリボンで包まむこのひとときも 雛菊 630 2039
6666  空青く丘いちめんのラベンダー時間につけよ永き休止符 真奈 71 1157
6667  梅雨の間の空の青さや紫の山虎の尾のはやゆれて咲く  れん 71 1751
6668  梅雨の間の明るき海の潮の目に鳥山立ちて遠ざかりゆく  蘇生 72 1914
6669  サイパンのバンザイクリフに海さけぶ国のほまれはゆめ説くまじと 鮟鱇 72 2325
6670  潮騒の微か遥かに戻り来る常なるものはいづこなりやと 海斗 73 2302
6671  磯を這う潮の音が長調にすでに真夏は波のまにまに  蘇生 74 0516
6672  海底にチェロ響きたる鳥の歌一片の自由空に求めて 真奈 74 0523
6673  一片(ひとひら)へこころ托しぬ知らづして山棲みの花の自由の底ひ  れん 74 0738
6674  山棲みの花鳥諷詠思ふまま天地こぞりてシャッターチャンス 文枝 74 0807
6675  鳥に空 蝶に花あり人に歌 池に首あり亀らにカメラ 鮟鱇 75 1947
6676  花鳥の奥を尋ぬる旅にして生れしばかりの星撮らんかな かわせみ 76 0910
6677  梅雨の間に薄曇りたるもうれしきか年にひと夜の星合の空 真奈 77 1210
6678  ほうたるに誘かれてゆく星合は母の産土もうあらぬ村 かわせみ 77 2250
6679  古代蓮幾千年もの眠りより覚めて咲きたるその産土に 雛菊 79 0835
6680  ロータスと呼ばれし紋様砂漠なる古代にのこるロマン聞きたり  れん 710 0742
6681  蓮の実を胸に抱きて眠り姫とはに目覚めず月の砂漠に かはせみ 710 1556
6682  竹林の涼しき風にひと時の夢にうつつに思う姫あり  蘇生 711 0700
6683  仙人球(サボテン)の中にも姫は眠りをりささやきかけらば日語を覚ゆ 鮟鱇 712 0740
6684  大地より響もす聲は恨(ハン)の國パンソリといふ弔ひの唄  丹仙 714 2324
6685  底籠る恨のひびきよパンソリを謡うオモニの遠き眼差し かわせみ 715 0019
6686  残照に円を描きて昇りゆく鳶は高空祈る如くに  蘇生 718 1848
6687  残照に灼ける路地底南口マッカリ呑んで今宵も喧嘩 海月 719 2245
6688  今君は夏果つる日の武蔵野館と詠ひし友の永遠に眠れり 真奈 719 2323
6689  老いの日の果つるはいつか有らむとて楽しく目覚む明日の吾あり 蘇生 720 1738
6690  わが財布冷凍庫内に三日居てこの現実を老いと笑おう 雛菊 720 1942
6691  ボケたふり死んだふりして老いの知恵フリーズ財布も神の恩寵 真奈 725 1407
6692  フリーズ財布の紐締めなほし老いてなほ心はあつく保ちて往かな かわせみ 728 0137

6693
                   -「ねむの木のこどもたちとまり子展」にて -
まり子さんに導かれたる子どもらの歌声清く心あつくなり
雛菊 728 0758
6694  終りまで聴いたことなきラジオあり鐘が鳴りますキンコンカンと 海月 728 1737
6695  蓮なるめでつつ鳴るは鐘楼堂朝の響きの深くしみくる  れん 728 2244
6696  朝涼の清かな風に交わりつ午前六時の鐘がとどきぬ   蘇生 729 0511
6697  一声を鳴きて渡りぬ不如帰このあかときの夢に入りきて かわせみ 729 1009
6698  一枚の切符となりし不如帰少年の眸もて遠ざかり行く 真奈 729 1050
6699  屋根棟に四十九日は留まりて一座に一言もの申すらん 千種 729 1613
6700  申しおくこと並でいい君ひとりおればよいのだ曼珠沙華咲く 海月 730 2045