桃李歌壇  目次

秋晴れは

連作和歌 百首歌集

6801  秋晴れは三日続かず今朝の雨おさへがたきは心のうつり ぎを 1027 1006
6802  雲行きは怪しいけれど秋空のことゆえ傘は持たずにゆかん たまこ 1028 0141
6803  時雨るれば檜の笠の文字の色後ろ姿を追って風狂 千種 1028 2357
6804  霜天に音かすかなる橋の上楓橋夜泊寒山寺の鐘  弁慶 1029 1224
6805  カラス鳴く夜に月なく眠りなく思ふ千里に秋は更けゆく 深海鮟鱇 1029 2112
6806  うつりにけるなひたぶるにわたくしの怒りと諦念あきふりやまず 海月 1030 0936
6807  鎌倉の小町通りを我行けば実朝の木の黄葉たしかに  弁慶 1030 1254
6808  この年の黄葉も見づ部屋ごもり百合の実莢のなだりに顕ちぬ  れん 1030 1745
6809  島山の高砂百合の枯れ実莢 軽やかに鳴る風に打ち合い たまこ 1030 2346
6810  遠山の頂き白くなりにけり紅葉散り舞う奥入瀬の岸  弁慶 1031 0040
6811  土手道のかなたに見えし冬の富士あふことかなふやあと数月 ぎを 1031 1701
6812  空澄まば富士に逢ひたき白妙の峰に茜の光さすとふ  111 2238
6813  轟なる雷すこし富士はいざひとつの便りこころにしみぬ  れん 111 2328
6814  神無の月を迎へて聳えたつ富士をはるかに望む幸せ  蘇生 112 0711
6815  頂に初冠(ういこうぶり)の雪見えて雲無き空に霜月の富士  弁慶 112 0847
6816  越前の浜より遠き白山の雪の頂き朝の陽に映ゆ 真奈 112 1347
6817  一冊のアルバムとなる思ひ出の中の微笑み雪の詩仙堂 ぎを 112 1409
6818  気骨ある武士の誉れや詩仙堂左京の辺りの文の香りよ  弁慶 112 2306
6819  「オロナミンC」の社長が郷土の阿波に建てしでかでかでかい国際美術館 たまこ 114 1202
6820  故郷は紅葉の盛り我もいつか静心もて帰り見んかな ぎを 115 0042
6821  白河の関の紅葉の色映えて西行法師をしのぶ人影  弁慶 115 1311
6822  冬立つに未だ冷たき朝もなく紅葉も未だ谷(やつ)の緑は  蘇生 116 0607
6823  谷津々に冬靄深くたち込めて静かに明けゆく鎌倉の朝  弁慶 116 0924
6824  鎌倉の冬の千鳥は哀れなり雪はらはらと磯におつる時  太聖 116 1126
6825  堤防に釣りの人影薄れきて朝な向うや海は冬へと  蘇生 116 1256
6826  冬近く西より来たる雨雲に心わびしく雨の時待つ ぎを 116 1622
6827  我囲む草の紅葉のセピアいろ眼とじる前の尾瀬の湿原 雛菊 116 2011
6828  伊豆の山楓の色の鮮やかに時雨の後の峠道かな  弁慶 116 2157
6829  音楽堂に続く坂道に降る時雨 楷の紅葉の色を深めて たまこ 117 0037
6830  雨に散るもみじヘッドライトに映されてことさら冬へ急ぐはなぜに  117 0242
6831  錆びいろを朝な朝なに重ねきて十一月の山は鎮めり  蘇生 117 0430
6832  霜月の野は一面の草紅葉姫神山に初雪の降る  弁慶 117 0747
6833  小春日の河原を歩けば葛黄葉ひろごる念ひの末あはれなり ぎを 117 0938
6834  ひさかたも光のどけき秋もすえ風ひえて富士雪をかんむり  太聖 117 1000
6835  立冬をデイゴの花が咲きさかり積乱雲の湧く土佐の空 たまこ 117 1741
6836  早暁の雨があがりて立冬の日の出が山の錆びを明るむ 蘇生 117 1810
6837  山道のきびしさ癒す吊花の実人差し指でそおっと揺らす 雛菊 117 2112
6838  九十九折伊豆の天城の峠道木の下蔭にさねかずらかな  弁慶 117 2205
6839  ささやかな遺産分けなどけじめ得て百か日なる法会に行かん  蘇生 118 0432
6840  年々の立法あまた為し終えて六法全書今二分冊  弁慶 118 0605
6841  来るものはいつかは去るもの人も年も河原の薄は吹く風まかせ ぎを 118 1615
6842  朝なさな指が動きてパソコンのスイッチオンにて今日が始まる   蘇生 118 1807
6843  真萩散る妻恋坂の君の家朝のコーヒー白きカップに  弁慶 119 0820
6844  世の中に名のある坂は多かれど無縁坂ほど悲しきはなし ぎを 119 1601
6845  神島の九十九折の坂を上りきり行路死人の歌の碑に遇う たまこ 119 2031
6846  鴎外の「雁」のお玉の住む町の無縁坂なるゆるい坂かな  弁慶 119 2211
6846  欠礼の許しを得んと印刷の葉書き校了亡父を閲す   蘇生 119 2206
6847  人生はたよりなきかな生き別れ鯖の味噌煮に決めらるるとは ぎを 1110 0152
6848  逆光の小枝にひとつ柿の実の風に黒きは孤高にも似て    蘇生 1110 0554
6849  送電塔の中ほどあたりのカラスの巣 小枝にまぢり青いハンガー たまこ 1110 0635
6850  廃村の夕暮れ近き村はずれカラス勘三郎カアと一声  弁慶 1110 0911
6851  廃村の増えゆく山より街に来て鴉は鳴けり塵あさりつつ たまこ 1110 2159
6852  ごみ漁る鴉は人に逃げもせで視線あはせず人々は過ぐ ぎを 1111 1411
6853  からす鳴くからすの話し耳に聴く春から夏に子に語りかけ  太聖 1111 1555
6854  西の空からす消え行く秋の暮れ花摘む野辺の歌思い出す  弁慶 1112 0037
6855  だまされし男ら笑つてみな歌ふアウフ・ヴィーダ・ゼーン リリーマルレーン ぎを 1112 1517
6856  寒風にざわざわと鳴る日の中に椿は固き玉の花芽を  蘇生 1113 0556
6857  宇治橋を渡れば神の庭にして御手洗の水に映る椿よ  弁慶 1113 0759
6858  内宮のその大奥の大玉の砂利の神路を畏みてゆく  蘇生 1113 0848
6859  タロットのカードは「死神」願望は叶はぬけれどもそれが幸運と ぎを 1113 2321
6860  小夜時雨面影橋の別れから君の幸せ祈る年月  弁慶 1114 0148
6861  我が千首詠まばや年のくるるまで桃李の歌の巡るを待たん  蘇生 1114 0521
6862  君の詠む千首の歌の輝きは古今を凌ぐ歌になるべし  弁慶 1114 0624
6863  十百韻(とひゃくいん)連ねて十歳(ととせ)桃李(ももすもも)千万(ちよろず)までも巡りたるべし 丹仙 1114 1020
6864  桃李にて歌に託せし自分史のきざはし千歩余すは七歩 蘇生 1114 1157
6865  千の歌季節は冬になりぬれど春風桃李花開く時  弁慶 1114 2259
6866  春の水夏虹の橋秋の月初冬の千木君に捧げん 真奈 1114 2314
6867  木枯しのなぜかやさしき一号に惑いし木々の錆びは未だに  蘇生 1115 0515
6868  冬枯るるまでの間あいのやわらかき樹林を歩む刻の愛おし しゅう 1115 1038
6869  里山は色とりどりに紅葉して水の流れも碧き国原  弁慶 1115 1119
6870  帰りなん昔まよひし幻の花野にこの冬果てん頃には ぎを 1115 1151
6871  月光もとどかぬ垣の間にも明かりて白き帰り咲く花   蘇生 1115 1333
6872  足柄の峠を望む細道にソメイヨシノの帰り花咲く  弁慶 1115 2228
6873  戻れぬと思へば一そう悲しげな花になりゆくおとぎり草は たまこ 1115 2341
6874  石蕗の黄はいざなふごとく冬の日にいづれ思ふは心のままに  蘇生 1116 0613
6875  石蕗咲いて季節の移ろい知る日なりさざ波白き池の面かな  弁慶 1116 0847
6876  またひとつ手術を受けぬ傷を得て歩めば石蕗の咲く頃と知る ぎを 1116 1555
6877  門前に老いも若かきも華やぎてなにを祈るや神無月には  蘇生 1117 0527
6878  神をらぬ鶴岡の宮に君と来ておみくじ引けば凶も吉かと 深海鮟鱇 1117 0724
6879  神田川面影橋をわたりつつ妻恋神社の御神籤よむ  弁慶 1118 2035
6880  相成るや師走に向かう神の木は日々の御籤に白き帷子  蘇生 1119 0449
6881  走りゆく福澤先生また一人忘年会の日々に木枯らし 深海鮟鱇 1119 1226
6882  四十年前の友なりこの朝は鶴も歩みて日の春を行く  丹仙 1119 1332
6883  六十年前の友にて名乗りても要を得ずして破顔一笑  蘇生 1119 1639
6884  嵐呼ぶことを誓いし友なれど名を忘れいしままに抱き合う やんま 1119 1720
6885  宴あらば酒を交はして言祝がむ蘇生先生千首の快挙 深海鮟鱇 1119 1750
6886  友逢わば酒を交わさん今ならば和歌に俳句に筆ひだり手に  太聖 1119 1819
6887  漸くに明日かも知れぬ千首目の和歌を吟じつボジョレヌーボー  蘇生 1119 1924
6888  千の風千の花舞ふ桃李苑神御座すらし響く言魂  1119 2305
6889  空高く掲げて祝う千成の瓢箪満ちる腰越の里  弁慶 1120 0035
6890  いかばかり相模の海の深きかな千首の歌の母と思へば 真奈 1120 2221
6891  五年余の平らきことを歌いきてたいあんにちに一千首となる  蘇生 1121 0447
6892  一一月二一日よき日かな一千首にも一々の位置 やんま 1121 0616
6893  このよき日君の建てたる金字塔その輝きを仰ぎ見るかな 雛菊 1121 0740
6894  歳月を歌に重ねて陽を仰ぐ生命のまこと蘇る朝  丹仙 1121 0924
6895  重陽と蘇生の号の四文字を和歌にこめたる祝い嬉しき  蘇生 1121 0953
6896  人の世の真は続くることにあり嗚呼貴きかな一千の歌 ぎを 1121 0958
6897  一樹にて森をなす椋の千年に手を触れてみる「いつか必ず」 たまこ 1121 1224
6898  はるかなる千の階言の葉の掌にその重みいとほしみつつ 真奈 1121 2215
6899  言祝ぎの歌に嬉しき朝ぼらけいきいき待つや今日の太陽   蘇生 1122 0511
6900  日は照らむ歌は続かむ人の世の四方に声あり山よ海よと 深海鮟鱇 1122 0712