桃李歌壇  目次

小春日や

連作和歌 百首歌集

 

6901  小春日や鎌倉辺りの粋人はひねもす歌を詠みにけるかも  弁慶 1122 0845
6902  めぐりあう千首に華やぎ言祝ぎの桃李歌壇に初めの一歩  くりおね 1122 0926
6903  巡りあひてしばし憩ひぬ遅咲きの銀木犀の香り忘れず ぎを 1122 2007
6904  遅咲きは花のみならず人もまた歌に恋にと飛ぶ凍蝶 深海鮟鱇 1122 2132
6905  鎌倉の右大臣なる歌詠みのひそみに倣う腰越の人  弁慶 1122 2235
6906  小動(こゆるぎ)の縁の寺の門前にコーヒーショップ名は“義経”と  蘇生 1123 0751
6907  薄絹のヴェールをまとい険しくも人目を忍び獣道行く  くりおね 1123 0812
6908  粟・稗の耕作教へし義経はハンガンカムイと蝦夷に祀らる 真奈 1123 1236
6909  義経記にその名を残せし若武者の掘藤次の屋敷跡かな  弁慶 1123 1923
6910  恃みての挫折をこえてQちゃんの名前ふたたび神無き月に  蘇生 1123 2011
6911  2時間も同じ動作を繰り返すマラソンランナー偉大と言うべし  弁慶 1123 2147
6912  マラソンも歌も三多に勤むべし多読多作と多思量の汗 深海鮟鱇 1123 2305
6913  朝なさな受信トレイのメールには不埒なものの余りに多き  蘇生 1124 0436
6914  自動的に迷惑メールに送られて受信トレイはいつも空っぽ  くりおね 1124 0821
6915  近況を告げよと娘へメールすれば「元気っす(^_^)v」のみ五文字の返事 雛菊 1124 0927
6916  今日もまた天使ら愛の福音を携帯電話のメールに送る ぎを 1124 0936
6917  福音を聴くごとくをり菩提寺の銀杏の降らす葉を浴びながら たまこ 1125 0643
6918  銀杏こそ金色ならむ冬の日にふところ寒し愛と金とに 深海鮟鱇 1125 0729
6919  石蕗の黄は意志の色なり俗を捨て俳諧きわむる君にふさわし(ある俳諧師へ) 茉莉花 1125 1031
6920  石蕗の黄とセージの青が寄りそふてしばし華やぐ小六月かな 雛菊 1125 1842
6921  クロノスの髭艶やかな小春凪ロゼのワインをお注ぎしませう 真奈 1125 2012
6922  夢に酔ひ朝に醒めて凪のごとシーツに残る波の起き伏し 深海鮟鱇 1126 0737
6923  荒波をいくつ越えたるアメージング調べゆたかにアドベントはも  れん 1126 1058
6924  霜月の干し竿に未だゐる蛙お経を唱えてゐるごとき面 たまこ 1126 1606
6925  霜月の夕べの風に防犯のボランティア打つ拍子木の音 蘇生 1126 1732
6926  夢破る拍子木響く寒空に今宵も巡る君を思へり 深海鮟鱇 1126 1819
6927  緊張に単純なミス繰り返す拍子木の鳴りすでに幕開き  くりおね 1127 0612
6928  拍子木の鳴りて出でたる蔵之助観客席より遅かりしの声  弁慶 1127 0730
6929  この夏の比叡の夜の薪歌舞伎その幽玄の余情は今も  蘇生 1127 0839
6930  弁慶が勧進帳に思うべし 安宅になさけ人に花あり 深海鮟鱇 1127 2154
6931  雨晴海岸はるか立山の義経主従の道は遠きに 真奈 1127 2319
6932  勧進帳聞きて涕す関守は安宅の関の富樫左衛門  弁慶 1127 2342
6933  今日はどうぞよろしくとことこと雪が降ります僕の花道 山猫 1128 0003
6934  木枯らしの夜のネットに見つけたる雨晴海岸 思ひみるかな たまこ 1128 0036
6935  人影の見えぬ海辺に幾重にも砂塵を防ぐ柵や冬ざれ  蘇生 1128 0544
6936  落ち葉して七時雨山に冬来る雪の兆しの雲天に満つ  弁慶 1128 0725
6937  どんぐりの落ちて転がる吹き溜まり肩寄せ合いて冬を迎える  くりおね 1128 0734
6938  餓えあればどんぐり拾う栗鼠となり月にも捧げんそのどんぐりを 深海鮟鱇 1128 0826
6939  どんぐりのいさかひ山猫名さばき賢治の宇宙は大悲の心 ぎを 1128 1004
6940  どんぐりの背比べとはこの事かベンチ暖むわれら三人  弁慶 1128 1224
6941  堤防に冬兆しては有無もなく三季の釣りを省みる日々  蘇生 1128 1339
6942  酸敗の殘杯惜しむ我なれば詩酒を祭りて冬こそ吟ぜむ 深海鮟鱇 1128 2345
6943  無二の秀句(すく)逆境にこそ詠まれけり吟ぜよ出でよ冬ざるる野に  蘇生 1129 0621
6944  新しくよみがえる目にうつりゆく景色を抱け詩は満ちている  くりおね 1129 0812
6945  逆境は金では買えぬ詩材なり景色に払う金も無き身に 深海鮟鱇 1129 2003
6946  冬靄に頂かすむ岩手山裸木映す雫石川   弁慶 1129 2126
6947  デパートの生鮮域をめぐりても師走を詠う景はあるらん  蘇生 1130 0553
6948  経めぐりて実らぬ恋の尽きし余も新巻き鮭の眼はなほ閉じず 深海鮟鱇 1130 0752
6949  来る来ない恋の季節は近づきぬ今年はいづこに「クリスマス・イブ」  ぎを 1130 2158
6950  クリスマスイルミネーションを飾る家近所に増えてサンタ来るらし  くりおね 1130 2216
6951  君がためイブに捧げむ詩のために禿筆ひねりサンザ苦労す 深海鮟鱇 1130 2326
6952  新宿のアルタの前でとメールあり電飾光る木々の下かな  弁慶 121 0049
6953  楽しげに友とツリーを老婦人ぽつんぽつんと老いたる男  蘇生 121 0514
6954  男より婦人と犬の多き街われは連れ行く夕べの孤影 深海鮟鱇 121 0724
6955  犬連れて散歩する人多き街少子高齢矢のごとくかな  弁慶 121 0809
6956  飼い主に品性も似る不思議さよチェホフの書きし貴婦人の犬 茉莉花 121 0917
6957  美しき花の隣に住む人の飼いたる犬とわれは戯むる 深海鮟鱇 121 0932
6958  自分では犬と思わぬ犬がいてそのこと言いし人を見上げり 蘇生 121 0955
6958  美しき薔薇に棘あり人の世も美は惜しみなく奪ふものかな ぎを 121 0950
6959  魂はこの身を離れ遊びゆく言葉の舳先に風を受けつつ  くりおね 121 1110
6960  言の葉を木の葉に書きてさしあげむ村の鎮守におはす狐に 深海鮟鱇 121 1352
6961  草紅葉中に緑のよもぎあり草それぞれと思いけるかな  弁慶 121 1720
6962  デパ地下で季語を思いて折々に巡りてみれど旬は失せたり  蘇生 121 1808
6963  なんとまあ気の毒な名よヘクソカヅラ鼈甲色の実ドアに飾れば 雛菊 121 1813
6964  饒舌な秋よと思う椎も楷も蔦も楓もそれぞれの紅 たまこ 121 1840
6965  色づきてやがて錆びゆく木々の葉はすでに春への小芽を抱けり  蘇生 121 1923
6966  千山の紅葉を一夜に吹き飛ばす夜来風雨の声ぞ激しく  弁慶 122 0503
6967  脱ぎ捨てる前の桜のほの明き艶やかにして女なるべし  くりおね 122 0750
6968  極月の二日が明けて残り日と過ぎにし日々をしかと思ほゆ  蘇生 122 0859
6969  起こるべくして起こりしと明らむも「想定外」はこの悲しみぞ ぎを 122 1003
6970  逆風の吹き始めたるわれらシニアこころゆたかに日々過ごさうよ 茉莉花 122 1004
6971  同じ火が君の胸にも炎えてをり残花少しく色の息づく 真奈 122 1040
6972  消え失せし胸の炎もまた燃えむ面影橋に一人立つとき   弁慶 122 1352
6973  やまとなる和しては歌う心にてこたふるうたを重ねゆきたし  蘇生 123 0552
6974  人として言葉もちたる天からの贈り物こそときを制する  くりおね 123 0638
6975  ときどきに詩にこころざし歌にこゑ称へ続けむうましやまとを 深海鮟鱇 123 0759
6976  言の葉の心入れたる詠人のふくらかなりし歌ぞうれしき  蘇生 123 0846
6977  朝霜に楓あかあか染まりたり忍ぶ心もかぎりあるらむ  くりおね 124 0645
6978  足柄や嶺のもみじ葉散りはてて山椿咲く関の跡かな  弁慶 124 0859
6979  冬空に朱き花つけ忘れ鉢今朝の寒さに言葉かけやり 真奈 124 0954
6980  真夜中の紅き林檎は凛としてそのけなげさに涙こぼるる 茉莉花 124 1029
6981  三年余貝につぐみてけなげなる介護ベッドに臥したる母は  蘇生 124 1108
6982  そばにいるただそれだけで笑顔なり子を生きがいとする母ゆえに  くりおね 124 2134
6983  母逝きて三年となりぬこの秋も一人登りし無縁坂かな  弁慶 124 2351
6984  この冬は帰ると言へば楽しみと母らしからぬ言葉さびしくて ぎを 125 0051
6985  気がかりな自分の病気はさておいて息子の心配ばかりしている  くりおね 125 0658
6986  電話にて彼をいたはる声優し母の恋は小春日のやう 雛菊 125 1034
6987  カルメンも聖母マリアもこなさねばアルトはダメと言われ悩んだ 真奈 125 1643
6988  往年のファーストテナーも老いいたり似非バリトンの今はカラオケ  蘇生 125 1839
6989  月曜の夫が髭を剃る音を聞きつつシーザーサラダをつくる たまこ 125 2311
6990  火曜にも土曜を思ふ日々にありわれは剃りゆく霜降る鬚を 深海鮟鱇 126 0741
6991  疎らなるごま塩ほどの髭をなで水曜日には剃ることにした  蘇生 126 0901
6992  やうやくに生え揃ひたる髭に当つる父のシェーバーこそばゆからむ かわせみ 126 0904
6993  不縁てふ猫の帰りてミルク呑む父なゐ母なゐ懐寝入る 海月 126 1723
6994  亡き父の終への日々を回想す生きることのみ日々生きつべし  蘇生 126 1809
6995  髭剃りて鏡の中に頼りなき人の顔あり亡き父を思ふ ぎを 126 2114
6996  鏡こそあの世に通ずる窓ならむアリスは出会ふ昔のわたし 深海鮟鱇 126 2155
6997  ほんたうのわたしは何処にゐるならむ昔のわたしも更にあらなく れん 127 0640
6998  ことごとく記憶をせしと思いしが参歩進みてすべて忘却  弁慶 127 0703
6999  弥陀の掌に生かされていると幼き日教えし祖母の甦りくる 真奈 127 0730
7000  無礙光の朝のわが苑かぞへれば千首の花の常(とは)に咲くなり  丹仙 127 0848