桃李歌壇  目次

千年余

連作和歌 百首歌集

7101  千年余点しきたりし法灯の幽玄なるを除夜のテレビに  蘇生 14 0628
7102  月照れば冬にも池に蓮の花 朝日はかかぐ山の法燈 深海鮟鱇 14 2046
7103  動く時あれよあれよともの動く枯蓮なんか見ていられん ぎを 15 1040
7104  汚れなき蓮葉の原理まなざしの熱き具体化科学の展望  れん 15 1309
7105  汚れなき悪戯の果て橋の上なにが流れる母者に逢うか 海月 15 1806
7106  雪原を黒く一筋南へと野川は流れ流れ消え行く  弁慶 16 0003
7107  流れゆくもの欲望と陽水が歌った河を泳いでみるか ぎを 16 1402
7108  ゲレンデに望みの雪が降りすぎて人智も欲も儘にならざり  蘇生 18 0626
7109  雪五尺六尺九尺積もれども小千谷縮の砧の音かな  弁慶 18 2020
7110  豪雪の重みに柱きしみたる春を待ち侘ぶ砧哀しき 真奈 18 2331
7111  雪と寒さ筆に尽くせぬほどだったと今は思う待つだけだった 蘇生 19 0823
7112  ゆきの暗きゆきの冷たき夢にみる人はなにゆえ北を唄うか 海月 19 1740
7113  「帰りたい風景」北へ北へ逃げる青年雪夜の浅虫温泉 ぎを 19 2327
7114  雪は降り人は露天のぬるま湯に醒めゆく酒を悔ひまた惜しむ 深海鮟鱇 110 2011
7115  夢多き若きは何故か北を向くまどろむ日々のわれは老いたり  蘇生 111 0543
7116  星と風と空を歌ひて獄死せる恨の詩人の冬の断章 真奈 111 1113
7117  腹だして猫の寝る夜の哀しさよちつぽけ胸に風が吹いたか 海月 111 2153
7118  酒あほり虎なる猫を軽く見て風に嘯く鼠の詩人 深海鮟鱇 111 2236
7119  木犀の上枝に笑う猫がいる所詮虎には木は上れんと ぎを 112 0047
7120  野良猫が用を足すべくわが庭のひたい如きを右往左往す  蘇生 112 0542
7121  蝋梅のひと花開き始めたりちいさきちさき庭なれど今朝  112 1157
7122  蝋梅を一枝入れた粋な人新年会のプレゼント交換 雛菊 112 2108
7123  ふきのとう今年の雪はすごかろう土蔵の一茶かげんはいかが 海月 112 2145
7124  奥信濃雪は五尺の栖にて一茶の春はどの位かや 真奈 112 2317
7125  今生の果ての血気を受け入れて一茶の魂雪へと還る ぎを 113 0051
7126  思へらく佐渡を遠見の良寛堂ふり積む雪に訪ふも無からん  蘇生 113 0541
7127  重荷負ふ者よお出でと主の腕されど塞がる雪国の道   文枝 113 0744
7128  帰省してゆぎおろししてほしいども子は子で生活あるはんでなあと父 雛菊 113 0859
7129  せつねえですて故郷言葉聞くときにはの湯屋の煙突ちちははと描くです 海月 113 1823
7130  あの頃の雪としばれが切なくていらぬよ雪は青空がいい  蘇生 113 1902
7131  春よ来いとにもかくにも東風(こち)よ吹け雪を蹴散らしみな海に追え 深海鮟鱇 113 2148
7132  福寿草蝋梅満作さきがけの春は黄金のペンタクルA ぎを 114 0203
7133  うろをもつ大桜木の枝々が黒味をまして春を兆せり  蘇生 114 0551
7134  冬欅梢の先々細やかに支える幹の裸形美し 真奈 114 1020
7135  巻きあがる電線青テント傾く裸形のおつさん般若心経 海月 114 1129
7136  交差する電線幾つあやなしてスペースアート宙 そら れん
7137  電線に凍雀並べば春が来て梅に花あり人に風あり 深海鮟鱇 114 2138
7138  光りみな昨日の雨に洗われて寒の草木が春めきてをり  蘇生 115 0936
7139  コ〜ンとな全山春よ苔光り脇芽出したる屋久杉の斧 海月 115 2134
7140  数日の寒には温き雨降りて日ごと伸びたり梅の枝先  蘇生 116 1208
7141  梅咲いて庭に鶴無く盗みしは春風なりと亭主のたまふ 深海鮟鱇 118 1326
7142  ざざざんと篠竹ゆする北風にねこ呆然とサイレン聞こゆ 海月 119 1131
7143  北風に揺るる枝にも芽がはらみ紅梅盛る日も遠からじ  蘇生 119 1607
7144  東京も明日は雪の町になる悩める人よ安けく眠れ ぎを 120 1414
7145  夢醒めてまこと世間は雪のなか布団に巣篭もる我も君も 深海鮟鱇 121 0759
7146  夜明けても止むことのなき雪道を真っ赤な傘がならび行くなり  蘇生 121 0958
7147  少納言よ香炉峰の雪いかにと尋ねし定子の声の優しき 弁慶 122 0723
7148  森森と香炉に雪の降る夜はまこと銀河が天より落つる 深海鮟鱇 122 0904
7149  香こもる寺苑のみちを歩みたり桜さかりのわかれぞ遠く  れん 122 1315
7150  白梅に先立つ紅のふくらみに香りたつ日を心待つなり  蘇生 122 2009
7151  残り雪肉球捺して猫のゆく紅と見しきみが泪や 海月 123 1537
7152  さざ波のひねもす如く降る雪に弓なる浜は白く染まりぬ  蘇生 123 1833
7153  メルヘンはもう歌へない冬の海六本木ヒルズ鰐の悲鳴が 真奈 124 1444
7154  苦学あり功立てむの思い善くも金では買へぬ徳ぞ哀しき 深海鮟鱇 124 2114
7155  心まで買うると言いし冒涜を咎め立てなき世上哀しき  蘇生 125 0556
7156  黄金の牡牛に群がる群集は地上の縮図モーゼはどこに ぎを 126 1050
7157  牛もまた輪廻転生の階踏まば何れ天にて菩薩とならむ 深海鮟鱇 127 0755
7158  階梯を昇りて月に届かんか継ぐのはなにか猫かも知れん 海月 127 1812
7159  明け暗れの星へ伸べたる冬の木が影絵の如く旧正の朝  蘇生 129 0609
7160  月あらぬ旧正に買ひ月餅を豊かな頬の君に送らむ 深海鮟鱇 129 1107
7161  明けいろのあかくそまりし明けくれの明くる明りに明けのあかぼし 蘇生 130 0527
7162  明野町ふと甦(かへ)りくる記憶あり幾十年の束の間なりき れん 130 2024
7163  行き違いすれ違いては別れゆく束の間佇むちまたよ今生 ぎを 130 2155
7164  今生の別れとなるや八衢の行き交ひ繁き人にまぎれて かわせみ 22 2040
7165  煙突に薄煙立つ夕焼空無言の列に紛れ切れない 海月 22 2128
7166  切なさの涙噛みしめ追いゆけば振り返らずに遠ざかる背よ 茉莉花 23 0930
7167  求むべき西の浄土に旅立たむこの世の花は雨に譲らむ 深海鮟鱇 23 2039
7168  掌に西方の蝶遊ばせて飛天の楽に笑まふ弱法師 真奈 25 0645
7169  なにげなく東に向けた飛蚊の目まばらに笑みし紅の梅が枝  蘇生 26 1758
7170  億万の雪片ふりつむ夜の道うしろを向いてもうしろはうしろ ぎを 27 0158
7171  そんな夜は志ん生なんざ聞きながら蒲団被ってひとり泣くんさ 海月 27 0746
7172  昨今は男泣きこそ減りにけり女に振られ猫が鳴きをり 深海鮟鱇 27 0805
7173  美しき五月を待とうたびら雪ねんねこ火燵の子猫のように ぎを 27 2115
7174  キリコキリコ順三郎のクレー夕焼だんだん子猫あいさつ 海月 27 2207
7175  寒の朝ふと思いたりのら猫に丈の雪ふる北では如何  蘇生 28 0559
7176  黒猫に雪降りゆかばブチとなりやがては白き野に消へゆかむ 深海鮟鱇 28 0809
7177  春泥に足をとられて新調の淡き上下がブチとなりぬる  蘇生 28 1851
7178  風寒く名のみの春に倦む人よ光の春に眼晴らせよ ぎを 210 0113
7179  薄氷を割りて水浴む雀子の尾羽根きららに春の光が かわせみ 210 0819
7180  問われればスギの花粉を閉じ込める名のみの春を今は所望す   蘇生 210 0830
7181  春なれば空也てふ僧歩みゆきすずめいろどき水は温いか 海月 210 2159
7182  さよならが近づいてきぬポインセチアの色黒ずみて早春の光 かげ たまこ
7183  花はくろ人に白髪の定めあり髑髏にあるは万寿の愁ひ 深海鮟鱇 211 0001
7184  人生は別離に足るや花ふふむ二月逃げるな三月去るな ぎを 212 0035
7185  春愁の季(とき)とはちかしも如月の雨の夜明けを鳴く猫の声 たまこ 212 0629
7186  季を超へさきもりびとの声聴こゆ妻()の恋しふて野芹摘んと 海月 212 1751
7187  過ぎし日に確かあったと懐かしく記憶を探るわれをわれ見る  蘇生 213 0627
7188  われを見るわれをばここに名付けなば純粋自我と呼ぶにしかずや 深海鮟鱇 213 1021
7189  考ふる葦となるべく如月の岸辺に葦は生ひそむるかな かわせみ 213 1857
7190  ふさなりの丸み手のうち鬼胡桃実も葉も剥がれて川岸に立つ ぎを 213 1944
7191  破れ舟の亀鳴きをりき汽水域渡らんかいね月も出たれば 海月 213 2125
7192  夜の喇叭右も左も月の色をみなの系の海が恋しい 真奈 213 2146
7193  たぶん海を湛へてをらむ寒の夜の窓に滲めるあの蒼い星 たまこ 214 0157
7194  トゥテクゥー夜の喇叭に応ふるや嫦娥(つき)のをみなはこよひ舞ひ舞ふ かわせみ 214 0956
7195  冴え返りゆるみ返って夜気さやか素手ともなれば手が手を慕う ぎを 215 0123
7196  いたみゐる吾のまえに君あらはれて素手となりにし荷づくりくれき れん 215 0821
7197  蟇の舞ひ美といふものの哀しいに吾かにもあらぬ兎と杵の 海月 215 0911
7198  老いやすき少年なれど志もちて舞ふらん蟇となりても 真奈 216 0540
7199  今更と思えどゴルフレッスンの褒めの言葉の嬉しきことを  蘇生 216 0717
7200  老耄の渚に微笑むこの母がピアノを教へて厳しかりにき たまこ 216 0726