桃李歌壇  目次

卒寿超え

連作和歌 百首歌集

 

7201  卒寿超え母はいつまで母なるや五目飯炊き我に勧める 茉莉花 216 1108
7202  あの母の破顔を乞うも能面に老い衰えし貌の悲しき  蘇生 217 0634
7203  小面に寒気の凍みる暁暗に我の知らざる悲哀を思ふ たまこ 217 0753
7204  ゴッホ描くをみなの乳房うかびくるデッサン一枚まさしく悲哀 れん 219 1108
7205  悲しみと哀しみなるを分けざれば花にも涙わが眼に真珠 深海鮟鱇 219 1231
7206  トゥテクタタ暁祈る十字の木くそを放りだせ悲しみを喰え 海月 219 1231
7207  悲しみの素数ばかりをアマデュウス魚の音符を掬ひとりては 真奈 219 2159
7208  魚からオタマジャクシに進化してカエル跳び込む酒池の楽の音 深海鮟鱇 219 2225
7209  水底に春の和音を奏づるや生れしばかりのオタマジャクシは かわせみ 219 2329
7210  土手にたつ桜けぶれる花芽どき耳耀はせて春風ぞ吹く ぎを 220 0026
7211  夕暮れを桜の梢に匂い立つ闇にもましてときの勢い くりおね 221 0659
7212  くれなゐの樹液ふつふつ吸ひあげて桜千本夜を眠らず かわせみ 221 1108
7213  夜の窓の結露を拭ひし指の痕に遠くの街のネオン煌めく たまこ 221 1134
7214  伝へ聞くミモザの蕾ふくるると指もてつつむや光の春を ぎを 221 1223
7215  長久手の愛地球博雨の日ぞミモザ咲きゐしはや去年のこと れん 221 1817
7216  花ミモザ手折りてくれし住職の二代目既に現世になし 文枝 222 0825
7217  ジーパンを着こなし春の街をゆく人ありわが家の和尚さんらし たまこ 222 1221
7218  来てみればジーパン穿ける閻王がウインクしたり黄泉不思議 深海鮟鱇 222 2038
7219  レイを首に浜辺に踊る土地の娘の揺らぐ肢体に南国の陽が  蘇生 223 0617
7220  紫が青に薄まり碧(みどり)あり風よそよげよ波よ歌へよ 深海鮟鱇 223 0800
7221  根府川の駅にカンナの咲く見れば相模の海にのり子偲ばん 真奈 223 1918
7222  自分の感受性くらい 自分で守れ ばかものよ/のり子が逝つた 海月 223 2100
7223  電話機の声びしびしと怒りおり呆然として師の訃報聞く 千種 223 2316
7224  われもまた燃えるゴミの身カラス鳴く朝にゴミ出し黄泉(よみ)に歌詠む 深海鮟鱇 224 0818
7225  小利口なカラスと今朝も知恵くらべ二羽の鴉がゴミを開陳  蘇生 224 0847
7226  わたくしが一番きれいだつたころ、鴉は七つの子を育ててた かわせみ 224 1547
7227  カラス鳴きテレビつければ花舞へり花様滑氷(かようかっぴょう)日の本に金 深海鮟鱇 224 2049
7228  コンパス的脚でくるくるジャンプ・ジャンプ荒川静香が金メダル獲る たまこ 224 2216
7229  諺に名は体をとはいうものの静香に二様あるを知りたり  蘇生 225 0648
7230  荒ぶれる川よと拍手どよめけり静かに香る花の水辺に 深海鮟鱇 225 0812
7231  沈丁花の香りが癒してくれるだらう見送るならば三月がいい たまこ 225 1008
7232  梅もまだ芳しからぬ春にをり沈香丁子のアロマを聞くか 深海鮟鱇 226 0907
7233  紅梅についで白きも春雨にいきいきとして枝をのべをり  蘇生 226 0932
7234  もう少し眠つてゐよう日曜の朝の雨の音のやさしさ たまこ 226 1250
7235  春眠の暁知らぬ際にゐて残夢に散りぬなが空なみだ 深海鮟鱇 226 1346
7236  馬酔木咲く春の岬の細き道見やれば海に伊豆の七島  弁慶 226 1620
7237  ポケットの中の野生や吾が子泣く外には春雨ふり続く日に ぎを 227 0102
7238  宵までの千筋の雨はすでにして野にも春なる今朝のぬくもり  蘇生 227 0533
7239  雨あがりボケの花芽もふやけたりふけゆく脳に紅白の彩 あや 深海鮟鱇
7240  去年の冬に貰ひし栞に描かれたる水仙にほう弥生はちかく たまこ 227 1142
7241  桃の枝邪気を祓ふと贖ひて向う三軒明日はひなの日 海月 32 2107
7242  総領の嫁してこの年ひとり言繰り言ならべ雛を飾る  33 0137
7243  冬眠より覚めし金魚の吐く泡のまぶしさこんな言葉がほしい たまこ 33 1016
7244  ぶくふくととってんかぁーとビオトープなにが哀しいなに云いたいねん 海月 33 1808
7245  すし飯に色重ねゆくいっぺんに花咲き揃ふ津軽の春よ 雛菊 33 1910
7246  苦手なる錦糸卵に挑戦すもはや昨日の私ではない たまこ 34 0956
7247  あの世から見れば昨日のわれがをり花咲く庭に二羽の鶏 深海鮟鱇 34 1428
7248  流れくむ二つの賞に花咲ける詩人清水のリリシズムの詩  蘇生 35 0549
7249  目を上げて言ってみやうかもう一度きみたちこそが与太者である 真奈 35 1117
7250  老ゐの身に春は来たれりいま一度見上ぐる空に飛ぶ宝船 深海鮟鱇 35 1659
7251  ありがたや歌の心に癒されて与太にも春はありがたきかな  蘇生 35 1844
7252  人工衛星(サテライト)春の星座を過ぎるころ地には桜の莟ふくらむ かわせみ 36 1107
7253  ふくらむは花のみならず鼻マスク伊達に息吹く偽花粉症 深海鮟鱇 37 2043
7254  四温にて日々に色濃きスギ花粉テイッシュの箱に手を伸ばす日々  蘇生 38 0538
7255  スギ花粉涙滴る街の中ホモサピエンス悲しからずや  弁慶 39 1516
7256  花粉には小さき妖精の棲みをるや引くな鼻毛を抜くな鼻の毛 深海鮟鱇 39 2017
7257  坪庭に一群馬酔木の花咲けり母のよぶ声内耳をよぎる  313 0056
7258  夜を通し雨戸打ちたる春疾風すでに色なき紅き梅が枝  蘇生 313 0619
7259  樹に札を「おかめざくら」と老夫婦丹精こめし花の愛らし 真奈 314 0645
7260  振り向かば同床異夢の歳月か偕老の花 同穴の墓 深海鮟鱇 314 2307
7261  ふらここの妹笑ふ夢さめた恙なしやねとうさんかあさん 海月 315 0813
7262  梅の花を通りすぎたる風さそう岸辺に見ゆる木立ざわめく  くりおね 316 0709
7263  風は吹き雨は打ちをる嵐聴き人なく揺れる森のぶらんこ 深海鮟鱇 316 1848
7264  数日の烈風止みて道ゆける人の気配や春の曙  蘇生 318 0536
7265  春浅く小指の火傷みづからに針さし抜けり水のにごりよ れん 319 0836
7266  禅林のあとに光琳しづみゆくゆたかにふかき春のゆふぐれ ぽぽな 320 0027
7267  春光にすでに果てたる白梅の名残りの蘂の淡き朱の色  蘇生 320 1516
7268  白酒に染まれば紅くなるひとを梅の散りゆく空に思はむ 深海鮟鱇 323 2103
7269  あたたかき雨があがりし朝の日に二三分咲きの花のゆかしさ  蘇生 326 0851
7270  もろともに想()ふ山桜その人のゆかしき遺稿取り出(いだ)し読む  丹仙 326 2108
7271  桜こそ世に遺しをく思ひなれ歌に添へなん一片の花弁 深海鮟鱇 326 2229
7272  ひとひらの花は散り落つ風かすか何処にふれし遠き記憶よ れん 327 0037
7273  風に立つ獅子にあらずは君がため千鳥が淵の夜桜見んか ぎを 327 1134
7274  待ちわびて嬉しきものは初の花しみじみなるは花の雲かな  蘇生 328 0837
7275  待ちわびし花の下にてつらね歌こよひは花も月もなつかし 真奈 330 0722
7276  満開に行き逢いたきは三春(みはる)なり梅桃さくら共に咲くとか 茉莉花 330 1149
7277  ああ今年津軽の桜に会いにゆく三十年経しこの歳月よ 雛菊 330 2012
7278  昨日には鳴子の雪を楽しみて今日は都に花を愛でんと  蘇生 41 0820
7279  薄曇りこさめのなかの仄あかり桜の花のほころびにけり れん 42 1331
7280  観音も修羅も夢むや花のした白曼陀羅に魂も漂ふ 真奈 43 1410
7281  花吹雪彼方の岸に呼ぶ声の君かと想うあかときの夢   43 2207
7282  花吹雪南風に乗り高々と勿来の関を越えにけるかも  弁慶 43 2234
7283  春の宵御舟の桜楚々と散り眉月ささめく去来者是人 ぎを 44 0155
7284  万桜のたなびく雲に紅一点 緋桃酔ひをり朱臉舞ひをり 深海鮟鱇 44 0721
7285  遠望の日々に色づく山稜は恥らい残す酔いの如くに  蘇生 44 0850
7286  酔ひ残る今朝はしめじめ花の雨ぬれ屋根ながめて君し偲はゆ ぎを 45 1003
7287  偲びしを天に帰して花は舞ふ狂女の裳裾ひるがえすごと  46 0032
7288  隅田川くだりし母はゆきたまふ花霞みはるか幾世のかなた れん 46 0815
7289  鴎江の長き堤に咲く花も音無く散りて春行かんとす  弁慶 46 2303
7290  満ちきたる潮の如く北にゆく花の便りに春は闌けたり  蘇生 47 0628
7291  ひたひたと満ちくる潮ぞ夜の闇まなぶたふかく甦(かえ)りくるもの  れん 47 1340
7292  花は減り緑肥えゆき春老いてわが髪の毛は日々に抜けゆく 深海鮟鱇 48 2234
7293  葉桜のちらほら午後の校庭に少年野球と父母の垣  文枝 49 1708
7294  忘らえぬ春とはなりぬ含羞のやはら花びら身にふる夜は ぎを 49 2133
7295  うす紅にまだ息づきし花の屑優しき夜を恋ふるがごとく 真奈 49 2245
7296  恋心はるかに遠き夜は明けり小鳥囀る空に爆音  文枝 411 0903
7297  一生涯俺は桜は歌はじと特攻憾む岡野弘彦 真奈 411 0954
7298  それぞれの芸の栄華を極めれど母性くすぐる岡本かの子  文枝 411 1408
7299  わかき日のかの子撩乱をもひたり吹田にみたる太陽の塔  れん 411 1716
7300  繚乱の野太き音が一転し和して幽けきメンネルコール  蘇生 411 1900