桃李歌壇  目次

盂蘭盆

連作和歌 百首歌集

 

7501  いつまでも世にあるべきやとのたまひし父の齢(よはひ)になりて盂蘭盆   丹仙 819 2055
7502  大空の絹ひとひらも動かさず父は逝きけり初夏の日に 茉莉花 819 2155
7503  夜の明けを太空蓮のひらききり散りゆくばかりのいのちにしあり れん 820 1245
7504  おほきみのへにこそ死なめかへりみることのみおほき一生(ひとよ)なりけむ かわせみ 820 1939
7505  おほきみの少年兵たりしが兄はいま死して尊き八十四年 真奈 822 0706
7506  戦死した息子の遺影に懺悔する祖母はお国のために死ねと言ったと 雛菊 822 1335
7507  悔いること何くれとなく人の世は然して誠は世を導けり  蘇生 822 1823
7508  天と地もゆきかふ歳も旅人と一人黙して歩む八月  丹仙 823 1226
7509  野辺行けば川原撫子咲にけり宮城野萩の咲く傍らに  弁慶 824 0037
7510  かたはらにもの言はぬ母いつの世も女は耐ゆるしかあれど生く  れん 824 0642
7511  有夫の婦首切りあらば真っ先に少子化対策今さら可笑し 真奈 825 1900
7512  この国の戦略なきは業なるや悪しき術なる少子対策  蘇生 826 0550
7513  地に足をつけたフツーの母たちに学べ小賢しき為政者どもよ 茉莉花 826 1155
7514  女子三十五歳定年制に抗議して裁判起こせしOLもゐて 真奈 827 0900
7515  同級生幾歳ぶりの再会の言葉はそろそろ産んでみないか ぽぽな 827 1413
7516  産む性を持って生まれしわれらおみな月に投げ上ぐ言葉持とうよ 茉莉花 827 1714
7517  人はみな翼の跡を背にもち海と大地は女性名詞よ 真奈 827 1845
7518  アマテラス大神以来この国は女性無くんば夜も明けぬ国  弁慶 829 1957
7519  八月の日の出は日々に南して磯の潮にも秋は見えたり  蘇生 830 0908
7520  没日見る弁天池の八月尽名残りの蓮の色のほのかに 真奈 91 1330
7521  去りてゆく夏の姿は日のなごり惜しむ名家の執事なりけり 丹仙 91 1937
7522  マイホーム追われし星よ地に降りよ水金火木土はた天海より 茉莉花 91 1942
7523  冥王はなんたる不明と冥界へままよ地球もいま幽明境 真奈 91 2307
7524  ありとしもなき星なれど冥王星とはにその名の消ゆるなかれとく かわせみ 93 1707
7525  わがありしことなどいづれ消えゆかむ塵ひとつだに更にあらなく れん 98 0915
7526  遙かなるところより来ていつかまた遙かに帰る心地して人みななどてかくも懐かし  丹仙 98 1833
7527  計らずもされど不思議な縁えて森羅の友の日々に嬉しき  蘇生 99 0747
7528  はからづもかの病院のDr.なり見えざる縁いのりにもにて  れん 910 1156
7529  吾亦紅ちぢみて垂るるぽつねんとサヨナラ言へぬいくぢなしにて ギオ 910 2151
7530  サ・ビ・シ・イと片仮名で書き星合の夜はおどけて手を伸べてみる 真奈 911 1427
7531  手をのべる手をひくこともままならぬきめに恋する男なりせば  蘇生 912 0603
7532  誰が招きし秋霖なるかそぼちゆく今昔男の恋むなしくて ギオ 913 0111
7533  互いあい 炎のたびに 思ほゆる 君がひとみの ブルーサファイヤ 914 1359
7534  ブルーサファイアの瞳もいつか濁りゆき霞む花野の老いのはなやぎ  かわせみ 916 1328
7535  わが身とて思ふに動かず心のみあくがれいづるを老いとや言はむ ギオ 917 0149
7536  わかこころ むかしのそこの はだいろを はじめてさらす わくわくのとき 917 0918
7537  堂々と雷門の雑踏にラインダンスの長き開脚   蘇生 918 0624
7538  毎年よ秋の彼岸の行別れまたあふ日まで Long Goodbye! ギオ 921 0115
7539  黙の刻朱に染まりぬ彼岸花うたの袂れのかなしさに耐へ 真奈 921 0954
7540  きこえしは ひがんばなかな ちのいとの あかがふるえて かたるいにしえ   921 1442
7541  お彼岸に花の首裁ちささげなば墓の底にて血を吸ふ髑髏 深海鮟鱇 921 2001
7542  一途なる情念にも似て彼岸花あれは花のみ愛せし頃か ギオ 922 0040
7543  彼岸花造形的に面白しおてんば娘の髪型に似て 雛菊 922 2041
7544  曼珠沙華義母に継母におかあちゃんみんなみんなが彼岸にならぶ  923 0050
7545  鮮やかな紅は母なり曼珠沙華白きは終の父の白髪  蘇生 923 0456
7546  曼珠沙華黄泉比良坂下り道今も目にあり青き海原  弁慶 923 1247
7547  半開のドアの向こうに今もある昔の、みたいな秋の淋しさ ギオ 924 0111
7548  どの秋も実りのあとは空ろなり来し方蓋しこの秋ほどは  蘇生 924 0510
7549  秋の灯に弛びし絃のアヴェマリアしみとほりゆく夜の優しく 真奈 925 0239
7550  ねえ、あなたと呼ばるる心地に見返れば金木犀の噎せ来る夜ぞ ギオ 926 0128
7551  最果ての地に冥王の星生(あ)れて静寂(しじま)のうちに積る木犀 丹仙 101 0604
7552  君知るや樹齢重ねて千二百年三島大社に木犀薫る  弁慶 102 0110
7553  おみくじを金木犀に結びたる健やかなれと希ひたりし日  れん 103 0015
7554  まけぎはの こころがさまに みちみちて とぶすべほどく ディープいとほし  103 0539
7555  ひたむきに走るがいのち敗れしもその眼かなしきディープインパクト 真奈 104 0740
7556  ぬばたまの夢魔が翔けるか白き馬 星ふる枯れ野に露は晶晶 深海鮟鱇 105 1019
7557  花水川岸に広がる唐土の原に咲きたる大和撫子  弁慶 105 1656
7558  仲秋の宵に雨音聞きたれば月の涙と思いけるかな 雛菊 107 0929
7559  泣きあかし 涙からさば すがすがし 朝あたらしく 枯れ葉はセピア  107 1213
7560  地に満つる悲しび夜ごしの大雨を涙とせしや今朝の秋晴れ ギオ 107 1441
7561  ようやくに午後の日溜り戻り来て雲間に白き宵の十六夜  蘇生 107 2011
7562  風吹いて雲はらはれて十六夜関東平野を照らす満月 雛菊 108 0844
7563  ふるさとの家はすどおり戻りきて月かうかうと十六夜の宙  れん 108 1925
7564  端正の月載せゐたる大欅隈なきこころ述志歌へと 真奈 108 2304
7565  十六夜の月昇りけり新宿の小滝橋通り真南の空  弁慶 109 0105
7566  立待の月に響かふ篳篥に女神もなびくや東儀の君よ ギオ 109 2307
7567  色の香に陰がさしゆく十六夜 天に月あり窓辺に孤影 深海鮟鱇 1010 1155
7568  沈香や天をもぬけて立ちのぼるお御堂ふかくに仄灯りする  れん 1010 2024
7569  のびらかに秋空に並む雲見上ぐ胸騒ぎせし頃なつかしく ギオ 1015 2302
7570  浮雲に茜の橋のかかる宵飛んでみるかと一陣の風 真奈 1016 1323
7571  うっとりと みとれるばかり 先きの月 かかる円にぞ 恋ねがうべし   1017 0112
7572  昼の月波静かなる浜名湖の姫街道の紅葉微かに  弁慶 1017 0926
7573  海原に遠き島影凛として闌けりて秋は澄み渡りけり  蘇生 1017 1531
7574  薄曇り陽ざしゆるゆる神無月アメージングはも澄みてしみくる  れん 1021 1002
7575  菊の秋 香りに酔って いたずらに 薄め買うわれ  八重の花びら  1022 0037
7576  ガーベラと菊の区別つかぬ眼に街ゆく秋の娘らも花 深海鮟鱇 1025 1404
7577  菊秋の北のドームが打ち揺れてテレビの前のわれも道産子  蘇生 1026 0558
7578  ある年の秋の揺れの甦りくる富士に白雪むねのくるしさ  れん 1026 0914
7579  秋冴えて人に飽きたるひとり身の見上ぐる空に富士の白雪 深海鮟鱇 1026 1013
7580  国道を走るアクセル緩めては富士の白雪友の横顔 文枝 1026 1724
7581  駿河路をひたはしりたる一日なり小夜のなかやま夕月に逢う  1027 1256
7582  古へは衣干すてふ松が枝にただ潮の香は三保に変らじ 深海鮟鱇 1027 1649
7583  南んなみに石花海(せのうみ)を見て西に月小夜の中山夕暮れの頃 弁慶 1027 2205
7584  小夜子さん去年の暮れにぞゆきたりし個展案内に詩がいつもあり  れん 1028 2148
7585  還暦に習い初めし友垣の個展を騒く芸術の秋  蘇生 1029 1234
7586  曳かれゆく犬を羨む秋もあり美術の森に絵を出る美人 深海鮟鱇 1030 1135
7587 秋の日や枕草子に書かれたる事任(ことのまま)の社の森静かなり 弁慶 112 1516
7588 Good-bye my love! 忘れはしない君の名をま幸くあれと秋のふた道 ギオ 113 0158
7589 ひたすらに生き来し道はなになるか履歴は重くいのちある器 れん 113 0733
7590 知りそむる風のいたみと空の黙とべら實ひとつ朱くはじけり 真奈 114 1055
7591 一世紀逞しく生き千の風今懐かしき豪傑笑ひ 文枝 115 1940
7592 いくさなき世に豪傑となりぬれば酒魔を降して酒一千鍾 深海鮟鱇 116 1752
7593 鏡割り差配は柄杓に胴間声香りめでたき桝酒を酌み 真奈 118 0551
7594 虫歯多きわれにしあれど沁み通る新酒の味の豊かなるかな 弁慶 1110 1842
7595 虫歯ある身の華やぎを過ぎていま夜毎わが身の入れ歯を洗らう 蘇生 1111 1826
7596 木枯しの吹き荒るる朝身のうちに虚あるごとき淋しき目覚め ギオ 1112 2214
7597  おぼろげてねぼけたあさはなほさらにいとほしかりしいのちのさまさ しん 1113 0327
7598 いくたびも死したきおもひなにゆえに朧となりし記憶いまさら れん 1113 0450
7599 歳ふれば死なむと思ふ恋もなし秋に偸まむ風やむ紅葉 深海鮟鱇 1113 0931
7600 登り来て峠の紅葉今盛り彼方に高き夕焼けの富士 弁慶 1113 1137