桃李歌壇  目次

生きつつなほも

連作和歌 百首歌集

 

7601  ぼんぼんと生きつつなほも理念のみ高くとらえし相克ふかし  れん 1113 1856
7602  子どもらが未来を捨てて命絶つなぜになぜにとうそ寒き朝  蘇生 1114 0814
7603  いのち絶つ子らの残せし訴へに傷まぬものか角なき鬼よ 深海鮟鱇 1114 1006
7604  学び舎のみ生きる世界にはあらじ死に急ぐなよ若き人たち  1114 1031
7605  いじめなり虐待なりしは無知なるか生育歴の足らざる思ふ  れん 1114 1536
7606  いじめられ図書室に一人読みながら時間を去なす事を覚えぬ たまこ 1115 1357
7607  ことのはの いたはるこころ かぎりなく うたひあふなら いのちいきいき   しん 1115 1658
7608  ことのはの散りゆくごとにシカトされ鹿と向きあう六十の秋 深海鮟鱇 1116 0937
7609  風に散る木の葉を見てをり朝からの私の言葉をもはや忘れて たまこ 1116 1154
7610  風吹けば空高く舞う欅の葉表参道冬真近なり  弁慶 1116 2018
7611  気づきたる表参道の花恵びる歳月街もわれも飛び越えて れん 1117 1136
7612  未舗装の土の触りの心地良き桜紅葉の段かずら道  蘇生 1118 0540
7613  奥入瀬の瀬音真近き宿に来て夕日に映える蔦紅葉見る  弁慶 1118 0845
7614  時雨時雨の十和田の旅のつかのまの晴れ間に小さき虹立ちしこと たまこ 1119 0050
7615  ヒメマスの塩焼き食べて思うかな和井内貞行なる人のこと  弁慶 1119 0936
7616  ぐんぐんと流れを逆に黒々と鮭は群れたり瀬に背立てつつ  蘇生 1119 1207
7617  鮭こそは末期に撒かむ清流に精虫百億銀河のごと 深海鮟鱇 1120 0947
7618  思い出は銀河にも似ていくつかの鋭く光る星のかなしさ たまこ 1121 0057
7619  いきゆくは難しと思ふ星くずのちひさきにならむ銀河の底に れん 1121 0859
7620  人の世をただに過ぎ来し航路なり波風起たず頭髪に銀河 深海鮟鱇 1121 1001
7621  強くならう銀の薄の原をただ一匹でゆく狐のやうに たまこ 1122 0111
7622  淋しさは自我の渇きか一人発つ「遥かな町へ」さまよふ父は ギオ 1122 1246
7623  目の前の父母が一緒のポートレート昔のままに今もそのまま  蘇生 1123 0655
7624  ねむりよりさめてきこゆは母のこえ生きなさいとぞはるかをこえて   れん 1123 0715
7625  ちちははの居ますが如く朝の膳しつらえ終えて手を合わす妻  弁慶 1123 0753
7626  西方のキャンバスいっぱいちちははは笑まふがごとく励ますごとく 真奈 1123 1947
7627  真つ直ぐに図書館に続く銀杏並木かの青春をくれし父母 たまこ 1123 2225
7628  銀杏散る真っ直ぐな道歩みつつ君と語らいし彼の日懐かし  弁慶 1124 0100
7629  銀杏葉の散りしくつづく空のしたビュフェ作品をあまたみし後  れん 1124 1611
7630  ビュッフェの描く黒き林の風の音サンタマアリア闇に消えゆく たまこ 1124 2331
7631  ビュッフェの絵の暗き男の三角の顔に良く似た哲学の師よ  弁慶 1125 0006
7632  この枠の せまき窓かな 横ほそめ たてよこ四角 筆がはしれば   1125 1406
7633  小さなる障子の枠の紙あけてインスタレーション風の跡とぞ  れん 1125 2309
7634  張り替えし白き障子の光りなか二羽の小鳥の影が去りゆく  蘇生 1126 0554
7635  色づきし木の葉で障子の破れめをふさぎし祖母の今日は命日 たまこ 1126 1209
7636  哀しみを木の葉ひとつで化けてみる技もなかりし雨ふる真夜は  れん 1127 0145
7637  隙間なく壁を覆いしかの蔦がまばらな紅を壁に散らしぬ  蘇生 1127 0632
7638  蔦紅葉古き社の庭の隅苔むす杉の上の枝まで  弁慶 1128 0052
7639  紅葉の向かいの山に木霊する媼が田圃に藁を打つ音 たまこ 1128 2322
7640  多摩川に紅葉流るる朝まだき砧の音の遠く微かに  弁慶 1129 2113
7641  庭先にハイビスカスの大輪が帰化した様に咲く師走かな  蘇生 121 0712
7642  過ぎし世に梅も帰化せり祖先らも渡り来たれりこのうまし国 深海鮟鱇 121 1155
7643  国境がある帰化もあるなり人はみな等しきものぞ人間なりし  れん 121 1634
7644  国境の長きトンネル抜け出でて白く積もりし綿雪を見る  弁慶 121 2258
7645  無人駅に電車を待てば雪虫が風の流れに遅れつつ飛ぶ たまこ 121 2357
7646  雪虫がいつしか湧きて雪がきた北の師走は厳しかりけり  蘇生 122 0619
7647  故里の峠に立ちて眺むれば南アルプスはや雪化粧  弁慶 122 1003
7648  人生の峠を過ぎてふり向けば雪に凍えるあの紅き唇 深海鮟鱇 123 2155
7649  つもりなく 長けりた年を 祝う日に 嫁入り道具 鮮冷蔵庫    しん 124 1152
7650  花嫁の手を取る老婆の歩に合わせ雪降る中を進む行列 弁慶 127 0053
7651  電飾の街に降る雪悲しみの器と人間を言ひし人はも たまこ 129 0251
7652  あけぼのの若葉に夏は万緑とめぐりて今朝の冬ざれの雨  蘇生 129 1619
7653  あけぼのの春は去り行き夏秋も過ぎ去り行きて今朝は木枯 弁慶 1210 1412
7654  ソルヴェイグの歌くちずさみ女なら待ってるはずと決めていないか 千種 1211 1754
7655  久女とか円地は男に恐れらるこの不器用こそが珠玉なるのに 真奈 1211 1922
7656  女流らに 流れるたまは おほしくて あはれ詩ふも 華やぐはなぜ  1212 0252
7657  思いては数え日の明日埃及へ旅立つわれは今宵華やぐ  蘇生 1212 1809
7658  はしやぎすぎていたかもしれず木枯らしが乾きすぎたるくちびるに凍む たまこ 1213 0105
7659  気負わずに日々の勤めを果たし終えて一人くだりし紀尾井坂かな 弁慶 1213 2239
7660  時雨きて傘持ちかへる女坂また愛国心の踏み絵ふむ世に 真奈 1214 2124
7661  戦争へ傾いてゆく危うさに両手をたれてみているばかり たまこ 1215 2229
7661  踏みにぢむ かくごを決めて 愛すつる うたにのみ有る このよ生くすべ   1215 2237
7662  非を認め謝ることはつらいこと「謝るくらいなら言うな」という君 茉莉花 1217 1024
7664  ちいさなる非すら認めづご免さい言えなき人と距離はわびしく れん 1217 1150
7665  西行の越えし足柄踏みしめて思えば時は八百年経し 弁慶 1217 2130
7666  薄紅のゆかりの女(ひと)の俤の旅にしありて永遠に澄みゆく 真奈 1218 2230
7667  一世なる歳晩まえの旅なりし澄むもすまぬも今を生きゐる  れん 1219 1124
7668  歳晩に詩筆は墨に染まれども硯池に落つるわが髪は白 深海鮟鱇 1219 1914
7669  雪に釣る蓑の翁の一幅の墨絵にそえし詩文江雪  弁慶 1219 2004
7670  朗読は岸田今日子の例ふれば背な撫でくれるゆるやかな声  千種 1222 2348
7671  悼むべし 二つの心 表裏にて 演ぜし今日子 かけがいのなく  1224 0125
7672  けふありし いのちたふとし まよひつつ よりそひてなほ 救はれてゐし  れん 1225 1911
7673  迷いつつ右往左往の人生も他人には言えぬ楽しみもあり  弁慶 1225 2307
7674  路地裏の猫のあいさつにゃあにゃあと何かいいこと伝えるらしく  千種 1227 1437
7675  モノクロのマフラー掛けて摺り足で猫科の目してをのこ等の行く 真奈 1228 0709
7676  猫抱いてマフラ−をしたチョビ髭の老人登る夏目坂かな  弁慶 1228 0905
7677  白亜紀のいのちのあとを辿りみるアンモナイトを胸にぞ押さふる れん 1231 2247
7678  一瞬のうちに永遠きり結ぶかの歌びとの白描の翳 丹仙 11 1746
7679  念願のナイルの月を仰ぎみてファラオのミイラ時空遥かに  蘇生 12 1806
7680  シュルル紀の海の蠍を初めてに見たる震へぞ涙あふれき  れん 12 2232
7681  ロッキーの山頂にある魚類化石カンブリヤ紀に栄えし生物  弁慶 12 2346
7682  化石てふ渾名の友の人の世の矛盾みつめし眸は澄みてゐし 真奈 14 0005
7683  明石なる楽生病院兵庫なりき恐竜化石みつかる元朝  れん 14 0843
7684  天地(あめつち)のナイルの流れ去年今年ファラオの謎にわれは悩めり  蘇生 14 1922
7685  エジプトの死後はジョイフル聖書にも似たる話あり卵贈り合ふ れん 15 1044
7686  グレゴリオ聖歌の調べ悲しくも人みな「死への道半ば」とかや ギオ 16 0013
7687  戦時下にグレゴリオ聖歌絶やさじとフランス人神父ミッションの日々 真奈 17 0554
7688  十四にて写譜せし秘曲ミセレーレ異国にあれど家舎を離れず  丹仙 18 1254
7689  モノクロのルオーの版画ふと浮ぶミゼレーレなる曲は知らずに  れん 18 1628
7690  ふと浮かぶ十八にしてなぜか世を去ったファラオのツタンカーメン  蘇生 18 1828
7691  アメンホテップ其の名を聞けば幼き日読みし「少年王者」なる本   弁慶 18 2157
7692  九条を世界遺産にといふ書あり戦争放棄が奇跡とは、さて ギオ 18 2252
7693  九条は珍品にして宝物普通の物に変えないでね  真奈 19 0521
7694  硫黄島散るぞ悲しきその手紙共に読むなり平成の子と  丹仙 19 2035
7695  戦争の疎開先にてこのわれを背負ひて逃げし叔父も子供にて  れん 19 2239
7696  唐黍のひと粒ひと粒噛みしめた疎開の日々のただ青い空 真奈 110 0658
7697  束の間に六十年は経ちにけり青き初空凧(いかのぼり)舞ふ 丹仙 112 2210
7698  空の青こころにとめて遊びたり柏谷の百穴ながれし歳月  れん 112 2324
7699  函南の柏谷の百穴懐かしく幼き頃を思い出ずる日  弁慶 114 0019
7700  人生の秋を生くるや独り夜は思はゆ彼の人何すらむかと ギオ 114 2159