桃李歌壇 かず作品集

前頁 次頁

透明な花瓶

艶をもつ曲面に目を向ければ
周囲のもの達は  大きく
内部の水は膨らみをもって
蒼くいのちの隅々にまでゆきとどく

外からの陽は斜めに深い光球をつくり
下からの揚力として花瓶の内部に充ち
絞り出された光は澄明にして安らかに
浮かぶ生のありかを 華やかせ

上の方では赤い花が遮ることに余念がなく
懸命な時を謳歌して わずかな永遠を盛んにするが
その少し開けたところから かすかにこぼれることを知るものは

ひとひらの花弁と 淡い光
かぎりなく かぎりあるものたちの
滲む 翳