桃李歌壇 

蘇生短歌集 1

平成12年/13年

短歌集2(平成14年)

764 爽涼の崎へだつとも小波に君をばゆかし思ふはやわが 9月10日 18時21分  
787 藁蓑の頭巾纏いて牧草を暗きサイロで黙々と踏む 9月19日 15時03分
791 雛壇の古き団地の秋風に響く槌音二世代普請   9月25日 14時18分
795 恥らいてとくべつな日の富士の山雲間に見ゆる初の白雪   9月28日 07時49分
797 江ノ電のレトロ車両の窓に寄る若き二人の瞳燃えけり 10月3日 05時23分
799 停電に悪夢の灯火管制のトラウマ払いゆとりもて待つ  10月3日 20時46分
807 空青き旗翩翻と駒沢に戦後終りし十月十日  10月9日 14時25分
810 欧州の古き街並とりどりのコインに思う旅のいろいろ  10月12日 09時09分
813 ひっそりと戸塚の宿の小碑文真っ赤なポルシェ風巻きてゆく  10月15日 08時18分
817 生垣の錆び色深き剪定の陰に深紅の帰り花見ゆ   10月17日 14時17分
821 花筏吹き重なりてただよへり愛はしさまに自在うばはる  10月18日 20時18分
825 さざめきを渚の潮に秋の朝誓いはなくもまたの出合いを  10月19日 07時08分
833 大群を上目に見やる五六羽の渡りいずこへ茜雲果つ    10月20日 22時41分
837 焼黍にふるさとを嗅ぎかぶりつく見やるテレビに初雪の報  10月21日 08時20分
844 北便りルビーの如き弾性体炊きたて飯に盛りてかきこむ  10月23日 05時20分
850 三十路きてすきま風しむ友ありぬ虚心の秋に心起てしか  10月25日 09時22分
853 現世のよろずことごと過客なる日々の吾こと輪廻万象  10月25日 20時13分
862 往昔の万事思へば吾今を心澄みたり秋のあけぼの  10月28日 05時37分
866 おなじ道おなじ時刻に「おはよう!」とウオーキングの清々しき人 10月29日 07時04分
868 残菊に雨を重ねし水茎のあまたの句より特選となる (ぽっぽさんおめでとう ) 10月29日 17時17分
870 白兎なる社の御籤大吉と顕わの磯をとび渡りゆく  10月30日 11時50分
873 書を閲つ不乱に過ぎて東雲の企業戦士の友の懐かし  10月31日 14時42分
877 幾年の名刺の束にたばかりて手にとる葉ごと思ひ廻らす  11月1日 05時16分
881 桜木の錆び深まりし段かずら朱き社殿を遥かに拝す  11月2日 04時21分
885 千年の巖の如き公孫樹黄葉に化して新春を待つ  11月2日 16時23分
891 歌よめば寂しさあふること多き君をばゆかし思ふはやわが  11月4日 08時40分
898 諍いて何かをいえば済むものを無言のままに箸をすすめる  11月5日 09時58分
901 老境に己の何を語りしか故なきことの何を語らむ  11月5日 19時02分
908 山城の跡なる谷(やつ)の山柿の朱の憐れや猛きもののふ 11月7日 13時31分
913 山肌に数多の皺の悍ましき灰降り続き島は荒れゆく  11月8日 04時48分
918 幾ばくか勁草見ゆるロカ岬いにしえ人の夢や遥かに   11月9日 10時24分
926 気遣ひて顔をつくりて時過ぎて一人真夜に深く息づく  11月11日 06時01分
928 酒を呑み高吟しばし別れゆく淋しがりやが集う友垣  11月11日 18時18分
931 ワイエスの荒野の家の連作に青き心のあふれるを知る 83歳のアメリカの画家 11月12日 13時47分
932 青年の心のままに躍りいて夕べ静かに時の過ぎしを  11月12日 19時02分
936 大円の真っ赤な今日の太陽にまた青年の如き心に  11月13日 08時00分
941 幼子の指に点りて黒き眼に線香花火映りて滅す  11月14日 04時24分
946 権力の畏れをしらぬ高声に衆の心は沈みゆくなり   11月14日 14時22分
952 白山の風に豊かな稲架の波衆に声なき葬送の列  11月15日 18時37分
957 魂のドンコザックのハーモニー初めて聴きしときの感動  11月17日 05時36分
961 うつろひて鎌倉山の緑錆ふ時うつ鐘のひくく響けり 11月18日 06時01分
965 新雪に裏大の字にうつぷして冷たき雪に呼気あたたかき  11月19日 04時24分
971 微かには同じ想い出何処にか老眼鏡で遠くをみやる  11月20日 06時06分
976 現しくも移し心も弁へぬ贖ふも知らぬ青き道心  11月21日 05時40分
978 何の色永田の屯を闊歩する裸の長の残るシャッポは   11月21日 11時11分
984 先見えぬ時代の処処のつむじ風カウントダウンの二十世紀は  11月22日 05時49分
990 半天に闇の残りし小径ゆくウオーキングの交わす言の葉   11月23日 10時09分
1002 老父母の昔語りのとつとつと吾懊悩の氷柱ゆるみて  11月26日 19時03分
1008 ベンツより小さき戦車椰子蔭に世紀を越える赤きキャタピラ  11月28日 05時54分
1013 残りたる二十世紀の暦には水を湛へし黒部峡谷  11月30日 05時04分
1018 肉月の偏もつ文字を羅列せり確かなるかや我肉体の  12月3日 05時46分
1021 うら若き僧の眼の一点にゆらぐともしび砂の曼荼羅  12月3日 21時14分
1027 大脳の何処かにあるは確かでも錆びし回路の情けなきこと  12月5日 06時00分
1031 壁崩る1989年とフランスの1789年の嵐を思う  12月6日 13時32分
1035 漆黒にゆらぐ篝火白拍子二人静の舞やとけゆく  12月7日 04時53分
1039 ボタ山に幼き夢の一もんめ酔へばかの地をかたる友あり  12月8日 05時32分
1048 混迷は天誅なるか昏迷の二十日を余す二十世紀は  12月10日 05時42分
1055 泡立草手向けむ花にあらねども淡き冬日の枯野に燃ゆる  12月11日 04時41分
1106 ぽろぽろと崩れさるもののみ見ゆる人智悲しき二十世紀は  12月20日 05時17分
1111 華やかなイルミネーション鏤めしかって海なる「青べか」の沖  12月21日 09時08分
1115 外套の若きドアマン寒風に若き二人の荷を捌きをり  12月22日 05時25分
1119 大網の手に余りては漁ならむ百尺竿頭一歩進まむ  12月23日 06時46分
1121 雪しまき逃れ逃れて山小屋にまんじりもなき光る朝明け  12月23日 16時49分
1124 ポンポンと言葉かさねしモンタージュ リズミカルなる修司駆けゆく  12月24日 05時23分
1127 朝浜の潮のあとの黒々と寄すさざ波の白きソナチネ  12月24日 15時12分
1129 イヴの華BBCポップのフィナーレ電話をとれば妹の入院 12月24日 19時29分
1133 安息の天の恵みと思ひ伏し笑み満面の清し迎春   12月25日 11時42分
1144 千年のうつりありしも万象の古今にうたふもののあはれは  12月27日 05時51分
1147 残る葉を嬲りて過ぐる木枯らしが小枝にそっと春を醸せり  12月27日 18時49分
1150 ゆっくりと透く寒空をけや木道淡き西日を北に向かいて  12月28日 04時43分
1156 ひとりゐてこころ許なく打つキィの着信メール無きを知りつつ  12月29日 09時48分
1158 世のことの不覚のながれ止めずなり何ぞ不易か行く年おもふ 12月30日 05時47分
1159 ならはしの世のことごとの離れなむも清げなるかな幤の門松  12月31日 05時34分
1161 古里も皇御軍(すめらみくさ)も遠火事に返歌などして思ふやがわが  12月31日 10時36分
1166 東雲の明けまく惜しみ耀ひて高みに鳶の初なきの声  1月2日 14時45分
1170 揺れうごく心の襞の眼差に何ぞ悩みを口に出さねど 1月4日 05時38分
1172 幾たびもおくのほそ道たどりきし今年の友はかの山寺に  1月4日 18時48分
1176 凍て果てし白き光りに昵みいしダイヤモンドダスト輝ける朝  1月6日 16時18分
1179 赤冨士の江ノ島橋に陣なせるシャッター音の波に響けり  1月7日 10時25分
1183 いく世へむ東に天地遥々のモンゴロイドの野ざらしを思ふ  1月8日 09時36分
1187 ウラルから南に下りマジャールは黒き瞳に星を数へつ  1月9日 05時32分
1193 アメンボの群がる如く波立てば冷たき海にサーファー若き   1月10日 06時46分
1200 おちこちの車列ぬひゆくオートバイ春着の街の若き急便 1月11日 05時25分
1202 湾岸のルート狭しと連なりてトラック繁く北に南に 1月11日 08時12分
1206 初空の十勝連山神さぶる厄の世の清まはるらむ  1月12日 08時12分
1211 水仙の青き剣先庭隅の憂きも惑ひも天に吹きだす 1月13日 04時53分
1228 大皿のブイヤベースの蟹の色青くかがやくコートダジュール 1月15日 12時07分
1233 分水の道に佇み降る雪の行方を見遣る遥かな海の  1月15日 19時35分
1239 参道を西に向かいて潮騒に伊豆大島を遥か望みて  1月16日 08時02分
1243 荒海の岬へだつとも風かよふ秘めし心の夢にのせなむ   1月16日 20時41分
1252 追ひかける夢に魘され盗汗の遠くなりけり夢多き頃  1月17日 16時13分
1255 凍てつきて音もはてなむ星の夜の赤き熟柿の舌に溶けゆく  1月17日 18時32分
1259 ほのぼのと寡黙の時の過ぎゆきて口に運んだ冷めたコーヒー  1月18日 06時23分
1270 遥かなる干潟の風に僧院の尖塔そびゆモンサンミッシェル 1月19日 14時23分
1274 夕映えの黄金豊かな冬磯に佇み吾はひとり愉しむ  1月20日 06時52分
1276 はらはらと万花こぼれる北の春石狩川は龍の如くに 1月20日 08時43分
1282 遥かなる思ひつめたる山稜に思ひのしかにいつぞ立ちなむ  1月20日 18時16分
1288 今とても同じからずや歳々のことごとすべて遠くなつかし  1月21日 05時23分
1309 訪れしサイパン島の夕映えの珊瑚の浦の美しきかな  1月25日 06時03分
1314 かすかなる雪解の音のトレモロに春待ちわびし幼き日々を 1月26日 15時09分
1318 ごうごうと吹雪荒れたる鎌倉のかの雀らのいずこ宿りし  1月27日 12時06分
1320 紅梅の雪残りたる枝々にかそけき春の色のともれり  1月28日 08時47分
1322 影冨士の厳かなりし浦に立つ雲か霞か朱に染まるを   1月28日 19時33分
1328 焼酎の湯割りを愛でて食毎に和む心の父の卒寿は  1月29日 13時24分
1331 夏祓きしみ微かに巫女を待つ廊の緑の涼しかりけり  1月30日 08時11分
1333 冴え冴えと波にただよう月光の胸に迫りてわれは祈らむ  1月30日 14時51分
1337 梵鐘の午前六時の渚にて鐘を見たしと遠回りする  1月31日 16時06分
1344 東雲のやうやう朱になずみきて山端をいずる一閃を待つ  2月1日 08時28分
1348 さりげなく虚心にあらむわがこころ惑うことなき日々をおくらむ  2月2日 14時11分
1355 ユトリロの肖像描くヴァラドンの油彩に母の思いあふれて  2月3日 15時33分
1357 遥々の唐の縁の陶片に和賀江の跡の春の大潮 2月4日 09時26分
1361 奢りきて二十世紀のわざわいの根源なりき浅き人智は  2月4日 18時16分
1370 空狭き小さき谷(やつ)の湧水の清き流れに時宗おもふ  26 0549
1377 幾重にも雪に埋もれしぼたの跡メロンハウスに往時をしのぶ  2月7日 11時41分
1382 夜更けまで霙打ちたる朝ぼらけいよよ紅さす窓の梅が枝  2月8日 08時12分
1384 小春日の渚に寄する小波の真白き潮のささやきを聞く  2月8日 09時39分
1388 冬枯れの小径たどりて眺むれば絵島かすみて錆びもとけ初む  2月9日 07時03分
1397 まろびゐてしどろにありし野仏の冬日のなかにしづみてゐたり  2月10日 12時48分
1399 とりどりのアロマに酔いしティスティング二月の夕べワインにあそぶ  2月10日 15時41分
1402 ユニクロのペアールックのきぬぎぬの時惜しむかに春磯に立つ  2月11日 11時02分
1407 いにしえの法王をりし城門の夾竹桃の盛んなるかな  2月12日 05時48分
1410 流離ひし草にしのぎし乞食の何をか得べし衆に無きこと  2月12日 19時34分
1416 子らの声朝な夕なの時ありし宅地の冬の静かに暮るる  2月13日 07時56分
1419 徘徊の黒き原潜小船打ち海の若人未だ帰らず  2月13日 20時00分
1422 お前がね生まれたときは小さなで産湯でねそうすやすや寝てね 2月14日 21時44分
1425 孫たちも藍の浴衣でおばあちゃん日永嬉しき健康ランド  2月15日 06時35分
1427 延々とレジに列なすカルフール三色の旗子らの瞳に  2月15日 10時18分
1437 めぐりきて惑ふ間となく長となり惑ひし日々の虚しくあらむ 2月16日 13時09分
1443 あはゆきのなべて消へゆくことの由ことはしばしの枝にむつまむ  2月17日 10時37分
1445 遥々の伏流清き柿田川冨士の白雪幾世隔てむ  2月17日 18時50分
1504 びょうびょうとそれと覚しき春疾風生きとし生きるものや目覚めむ 2月28日 10時36分
1509 明け方のひととき強き春の雨花粉のとばぬことのうれしき  3月1日 06時23分
1513 潮溜まり磯広々と春潮の小網をかざし子ら戯むれり  3月2日 06時03分
1516 さざ波の白く広がる朝浜ににまごうばかりに立春の雪  3月3日 05時37分
1518 しらじらの虚言の多き国長に衆の心は春を待つのみ  3月3日 18時40分
1520 吹く風の鳴りくぐもりし春雷の遠くにゆきて鳶の行き連る   3月4日 12時46分
1525 睡蓮のいまだ目覚めぬほとりにて猛きもののふ思ふはやわが 鶴岡八幡・源平池 3月5日 08時00分
1527 待ちわびし門の守宮の目覚めらむ出でよ出でよと仰ぎみる夜半  3月5日 14時03分
1529 はえば立て笑いて泣けば可愛いと欲しきものなど欲しきものなど  3月5日 19時50分
1532 貧にたへ懊悩しつつ貧にゐて佐藤佐太郎歌詠みつげり   3月6日 05時53分
1535 折々の心にふるる生業の息つきなるか同胞の歌  3月6日 10時34分
1538 濁流にわが竿さしつ現世の清き澪へと虚心にゆかむ  3月6日 13時54分
1542 春や春除隊の父のゲートルを汚せし泥に思うはあの春 増殖をよみて 3月7日 05時41分
1547 折々に孫や如何にと問う妻の心は吾子を思う言の葉  3月7日 19時14分
1551 処女雪に埋もれもがきし青春の痛みも今は美しきもの  3月8日 09時10分
1559 満るほど何かわびしき月の夜のもとなことなど思ふはやわが  3月9日 18時34分
1563 春暁の未だ静けき裸木の精を湛ふはただに嬉しき  3月10日 05時33分
1566 待ちわびて風邪と花粉に襲われむとはいえ春の日永にあれば  3月10日 16時03分
1571 明滅の絵島の灯り遠くみて鎌倉山に初音追ひきく  3月11日 05時47分
1573 なにもなきはてなき空と風にゐてしばし心の安らぎをえむ  3月11日 08時49分
1577 目の前の今は止まりし鞦韆に軽ろく手を添へぬくもりを追ふ  3月11日 14時24分
1578 ふららこと春の余白を詠みをりて互いのキィは同時に打たる 3月14日 17時40分
1583 春浅き小さな街の朝市にエネルギシュな笑いざわめく  3月12日 05時35分
1587 同胞とモントリオール議定書の思ひただしつ未来にかけむ  3月12日 13時26分
1593 あっかるくぶっきらぼーにひょうきんに振舞う青き疼く心根  3月13日 08時15分
1597 朝なさなとく生業を詠みつぎて日暮に明日を思ふやはわが  3月13日 20時11分
1601 現世のうつろひわたることごとの冨士にかたぶくあしたへの月  3月14日 15時59分
1604 をちこちの御符を纏ひし青年の街をたばしる速便単車  3月15日 08時22分
1610 この海の光りと風の戯むるをいにしへ人の残せし歌に  3月16日 05時46分
1621 なつかしき三浦大根輪に切りてザックザックと疾く頬張りぬ  3月17日 19時31分
1632 尋ねきて語りつがれし元禄の赤穂の志士の思ひやいかに  3月19日 07時47分
1637 神秘なる雌雄の契り至高なる生(あ)れし赤子の神秘なるかな  319 2022
1667 おぞましく朽ちし巨木に躍動す虫けらという尊き命    3月24日 20時15分
1670 をさな木の恥らふごとき初心なる青き蕾みにしばし心とどめむ  3月25日 09時06分
1673 凝らしても吾におぼろなむら雨をものの芽よろずしかと待ちける  3月25日 19時09分
1679 きはまれる悲しみ故に閉ざすらし固き思ひの睦るを待たん  3月26日 06時23分
1682 交はりてはじめて知るや吾が成せる日々ことごとの色も匂いも 3月26日 13時40分
1686 石仏の跡形もなき岩窟のいにしえ人の祈りはあらむ  3月27日 07時53分
1690 春の空のくぐもる光りうけをりて毛細管にめぐる血をおぼゆ  3月28日 10時48分
1696 虚しさの淵をいでばやおりおりの絵と人間の『絵のなかの散歩』  3月29日 09時06分
1699 雲閉じて今にも雨の来るらしき花に冷たき風も吹き初む  3月29日 20時40分
1703 友禅の賀茂の清みに紅色のよどむ岸辺に落花舞ひけり  3月30日 14時42分
1711 満開の花に小リスが群がりて枝から枝へ小鳥のやうに 3月31日 06時27分
1713 海なりのとほくきこへしあばらやの花めでくまむながき斗の酒  3月31日 16時31分
1717 渚にてさざ波白くよす砂にふる雪きへて春遠からじ  3月31日 21時07分
1721 築かれし渚の砂のマンションのまだそのままに波や寄せくる  4月1日 17時18分
1729 それぞれの迎へる春はとりどりの仕立て直しの衣まとひて  4月2日 20時26分
1731 新入の若き決意の面々と夢をともにし日々にすすまな  4月3日 06時51分
1735 廃材の残る更地にさくら散る生垣荒れて今は声なき  4月4日 06時45分
1742 北の野のまだ覚めるやらぬ雪の間のささやく風に散る花もなき  4月5日 14時19分
1748 うらうらとただよふごとく散る花に此岸にたくむ吾をわすれむ   4月6日 19時10分
1755 山峡にふる花びらの幽けしや沈金のごと岨のせせらぎ  4月7日 13時10分
1759 ゆかむとす旅のすがらの手合いなど思ふなどして予ねてたのしぶ  4月7日 19時14分
1763 あさの日に恥かしげなる春の山夕べに深き憂ひをたたふ  4月8日 06時31分
1767 花過ぎしだあれもいない鞦韆のふいになつかし風にゆれるを  4月8日 12時58分
1770 よせてまた返へす潮間の小波の潮の満てるは猛けるが如し  4月8日 19時17分
1774 ジェット機の影落つ春の山間にやや斜交いに煙たなびく  4月9日 07時52分
1777 夕空の朱に遊弋せし鳶の仰ぎし吾をいかに思ふや  4月9日 14時22分
1781 新芽なす谷のあはいのそこだけに色をまとひし山桜かな  4月10日 13時36分
1788 傷癒へてそなたの傷を思ふときそっとなぞるは壁のイニシャル 4月11日 19時52分
1792 故郷で「す・き・で・す・・さ・つ・ぽ・ろ」口ずさむ疼く傷など無くもナツメロ 4月12日 05時33分
1807 黄塵のセピアに暮れし北の空西の浄土に思ひはすなり  4月15日 18時48分
1814 鏑矢を番へて春を疾駆する凛々しき射手の風にさやけき  4月16日 13時41分
1819 生業に追はれ追はれし現世のおきそひ末は歌を詠まばや  4月17日 20時51分
1828 思ひては言ひたきことの多かりきそはなかなかに難きことなり  4月19日 08時16分
1830 ずっと前大きな洞にささやいた「ヒ・ミ・ツ」は春の芽吹きになりて  4月19日 19時39分
1834 西からの逆風吹けばその雨は分水嶺の東にゆかむ  4月20日 15時01分
1838 したたれる濁れる水を手の平に防空壕のうるわしき春  4月20日 23時34分
1844 稲村の蹈鞴に吹きし黒砂は際殊などの因果を知るや 4月22日 06時33分
1852 仏蘭西の古城の端の館には狩を証せし鹿の角など  4月23日 11時47分
1855 磨かれしロビーをかける幼子の手より離れし風船が浮く   4月24日 06時29分
1861 思ひても叶はぬことの多かりき夕焼け雲にそはと思へる  4月25日 18時43分
1864 江ノ島の西の高みに佇みて冨士の茜の没するを見ゆ  4月26日 09時39分
1869 錆びいろをまとひし山がたちまちに視界くまなき光る緑よ  4月27日 05時11分
1877 病室を出て盛んなる万緑に心弾みし幼き時を  4月28日 18時27分
1880 水金地火木土天海冥と朗誦しては得意顔の子  4月29日 05時03分
1882 音なくも血のつながりし子の故になにか届くも届かぬも良し  4月29日 19時07分
1891 花便りありてかの地を思ひたり受験準備の厳冬の日々  5月1日 04時42分
1899 おとといが峠だったの言の葉を信じて友は病克せり  5月3日 05時32分
1903 めのまへの青き芽吹きのあまたなるゆるりあゆみて語りかけばや  5月4日 09時11分
1907 ながむれば鳥わたりゆく京の空なほに見ゆれどみな筋違に  5月5日 05時43分
1910 いにしへのもののふの道たどりては孫とかたりし昔々を  5月6日 09時09分
1915 いにしへはおほ寺なりし山門の影を出づれば己が月影  5月7日 05時15分
1920 ひだり手に成田空港見下ろせば玩具のような機々犇めきて  5月8日 04時50分
1925 うつし世の聳ゆるものの朧たりめぐりくるらし春をかぞへむ 5月9日 07時40分
1928 ゆく春のアンテナわたる朝なさな鳴くうぐいすの哀しくもあり  5月10日 05時22分
1936 春風に淡紅色のアンランジュ月に香りて熟しゆくなり  5月11日 11時31分
1943 立錐にひしめく星に無限をば思ひ明かせし青春ありき  5月13日 04時55分
1971 むらさきの衣の裾をひくように花鉄線はそよ風の中    5月18日 14時36分
1974 ひっそりと葉かげに白き柚子の花しかと香りて秋を凌げり 5月19日 18時14分
1985 いぬねこを好きになれぬはトラウマか玩具ごときも吾を避けゆく  5月23日 07時41分
1994 暮れかたの梅雨をきざせし急坂を何買ふと無くコンビニへゆく   5月25日 15時52分
1998 高みより梧桐の淡き花の雲ここは異国ぞ北京郊外  5月26日 16時08分
2001 勁草に船影ぞなきロカ岬地果つところと吾も思ひき  5月27日 04時11分
2016 新ジャガの煮っころがしを皮ぐるみ口にほふれば生きてる実感  5月31日 05時07分
2029 かすかなる路傍の風にどくだみの夕陽にゆれし白き十字は   6月2日 17時51分
2041 たそがれに残りて白く輝けるなほまぼろしかくちなしの花  6月5日 19時23分
2048 朝なさな露を纏ひて紫陽花は色あざやかに日々に満ちゆく  6月7日 04時42分
2061 やさしさが思ひがけなきトラウマにそは橋叩くことのはじまり  6月9日 18時31分
2087 目礼を重ねし四季の朝なさな路地ゆくひとの名は知らねども  6月18日 07時35分
2103 一対の角を具えし鬼出でて能楽堂にしわぶきも消ゆ 6月22日 13時48分
2117 モバイルのアンテナ渡り鶯は朝のお勤めわがもの顔に  6月26日 06時40分
2125 梅雨雲が眼下に見ゆる機窓から遥かに湧きし夏雲も見ゆ  6月29日 09時28分
2131 眼下には陸と海との二色が見え隠れしつ襟裳へ向かう 6月30日 13時14分
2139 点ひとつただよふごとき蛍火が真闇の宙にやがて止りぬ 昨夜の蛍狩 7月1日 05時02分
2166 朝なさなカルシウム剤嚥下せる妻癒さまく骨粗鬆症  7月6日 07時47分
2171 東雲のはるか夏海を凝視せる若き男は身じろぎもせず  7月7日 07時56分
2175 夏海の水禍の子らの痛ましき高波巻ける遠き台風 7月8日 08時21分
2180 時流れ今の子らはという吾も虹をかけんと駆けし時あり  7月8日 20時49分
2184 腰越の浜みる露地の小仏に弔ふ花のたれか手むけむ  7月9日 18時54分
2196 いつの間に小さくなりし父母が目を見開きて吾を送りぬ  7月14日 11時08分
2202 構造を改革せむと口々にその言の葉の今は虚しく   7月17日 09時24分
2209 糾へる縄の如しとすべからく思ひて沿はぬ日々を見遣りぬ  7月19日 05時14分
2215 暑気残る夜の浜辺で若者は眠るを忘れ時を盛りぬ  7月22日 16時47分
2236 果てまでも埋め尽せる向日葵は焦がれし如く黒々として 7月30日 11時39分
2248 午前四時波のまにまに限りなく蒼くまたたく夜光虫群  8月3日 18時24分
2252 患ひし目にはかたしき青空の忘れ難きは終戦の日の  8月6日 04時47分
2269 3掛ける7変速の自転車を押して坂ゆく歯車見つつ  8月11日 17時28分
2271 とりどりの夏着のままに自転車で地の老人が釣りに集まる  8月13日 04時35分
2285 大の字の三画の尾ののびやかに真闇を焦がす京の送り火  8月18日 04時18分
2293 外堤に高波くだけ鳴動しそそり立ちたる潮の大壁 8月22日 05時25分
2301 ねがはくは心静かにおもむきて枯るるがままに黄泉路たどらむ 8月25日 16時20分
2305 凌霄のこぼれる朝に露ありて散り敷く門に暫し吾あり  8月28日 04時34分
2308 茶髪子も禿頭なりしいつの日か地黒き髪を懐かしむらむ  8月29日 07時04分
2317 山峡の今は静けき巨大ダムロマンをかけし男たちの碑 9月3日 04時25分
2327 早暁の霧払われし丘陵の遥かシャトウに葡萄連なる 9月7日 13時41分
2332 重陽のいはれ尋ねし孫たちはスリーナインは銀河鉄道の夜と  9月9日 16時51分
2337 匂ひたつ醸しところの息おもふ月を祭りし御酒捧げゐて  9月11日 07時38分
2348 逆縁かブラウン管に音もなく崩れゆくなり摩天楼二つ 9月14日 18時41分
2354 濡れ衣もいつしか渇くそのときに賽はいずれにふられしことか 9月16日 18時55分
2358 いつの間にか撤収されし海の家いま砂浜は自然のままに 9月17日 04時37分
2368 妻ととる夕餉にふっと違いては酒肴のうまき味は戻らじ 9月21日 03時59分
2380 初雪に威を正したる不二の嶺紅の入日にほんのりとして 9月25日 05時03分
2399 有り明けの雲むらさきに茜さすまだきにうすき十六夜の月 10月3日 15時43分
2404 朝露に浜砂しかと湿りゐて秋深まるを裸足の吾に 10月5日 06時10分
2413 磯釣りの腕伏す日々の長かりき友陶然の石鯛ゲット  10月8日 17時58分
2416 牛乳をコップに呷る朝なさな骨粗鬆症避けむと妻は 10月10日 05時54分
2424 澄みわたるパティオの空に二人してバルーンに託す夫婦の誓い 10月13日 19時33分
2429 回廊を鹿の髑髏でうめ尽す誉れ高かる貴族の館  10月17日 05時18分
2438 両親に祖父母二組七五三スキップする子のシックスポケット 10月22日 07時59分
2446 秋浜の誰が丹精の砂の家壁の小窓に夢がただよう  10月24日 15時44分
2450 遥々のとどろく音に欹てて久しきことの秋雷と知る  10月27日 09時22分
2456 久しきやかな三文字の詠人の明るき歌に弾む心を 10月30日 14時19分
2468 シャンツエの如く途切れし新設路バーゲンの旗反対の旗 11月3日 10時45分
2470 嬉々として羽織袴の小公子本殿を背にガッツポーズを 11月4日 06時22分
2490 枯葉ふるごとく落ちゆく爆弾は枯葉も見えぬアフガンの地に  11月10日 06時22分
2492 物差しで引きたるごとき国境は二十世紀の恥の遺跡か  11月10日 09時10分
2498 釣磯へ絵島の橋をゆくわれに冨士を仰げと有明の月 11月11日 16時40分
2508 戦乱にはわが身の明日の実存をただそれだけを欲し求める 11月12日 19時46分
2515 背まろく小さくなりし母の手が日に照らされて白く大きく 11月13日 07時41分
2547 絵ノ島の明けもてゆける冷ゆ磯にあまたの星を驚きつみる 11月19日 04時48分
2552 凪わたり磯の根見ゆる冬潮に銀鱗鈍き小魚の群れ 11月19日 19時15分
2562 透きとおる十一月の夕まぐれほのかに富士は赤く聳える 11月22日 05時03分
2567 さはやかに老ひゆく道をめぐらせばわが歳月は夢にすくなし 11月23日 13時15分
2569 長き夜に卯波の小間のオフの会かねて親しき様に交わる   11月23日 18時12分
2574 群れをりて鳴くやくぐもる夕鴉悲しきことの弔いなるか 11月24日 05時21分
2582 うるわしき高き声域夢はるか今バリトンで第九を歌う  11月25日 05時59分
2589 戦乱は過酷なれども思い出にわが人生は豊かなりけり 11月25日 19時09分
2594 朝なさな行き交う人で騒がしき駅をわが家と寝るホームレス 11月27日 05時01分
2597 ベルリンは瑕疵ぬぐひてや東独の往事の猛き若者は今  11月28日 05時09分
2603 旧臘の名簿の友のありし日を偲びつ過ぎしひと年をしる  11月29日 05時24分
2607 極月のとく来たりては不意なりし余日を満たすよき術もがな  12月2日 09時48分
2615 十歳は頭巾かぶって空仰ぎグラマンめがけ口でダッダッダッと  12月4日 20時46分
2619 香ばしき夕べの凪を尋ねきて焚きし葉の香のとりどりなるを  12月5日 09時29分
2622 在りしもの失せたるけふのあはれなるあしたに萌へむ惜しきもの   12月6日 08時23分
2632 口髭のじっと見つめる漱石に親しみつつも今日は忌日と  12月9日 19時12分
2639 豪雪に千歳空港閉ざされて二日も待つがみんな平穏 12月12日 10時53分
2641 立ちんぼを暫し嘲る雪女郎“冬・JR・快適”の車内広告  12月13日 09時53分
2643 季を問わず濃き茄子色の親潮は北の魚を抱く母なり  12月13日 19時59分
2650 ホッチャレの白く流るる澪筋をシャケ黒々と遡りゆくなり  12月16日 06時42分
2656 寒風に実柚子の日ごと色なして湯に香りたつ叙情を待てり 12月19日 18時25分
2659 寒雲の矢切の渡し寂しかり集ひし夏の賑はひし日を 12月20日 05時19分
2662 遥かなるDNAに詩ありぬ我今ありて何処へゆくや 12月21日 05時16分
2666 窓越しに錆びゆく木々の連なるを薄日の空にわれは楽しむ 12月22日 11時17分
2672 美しき言葉は過去の仮定形未然に深き悩み醸せり  12月24日 18時56分
2675 年の夜へ七夜ばかりをたひらにとこの年の瀬はことに祈らむ 12月25日 07時49分
2689 おほとしのともに卒寿の父母のすこやかなるを夢に見ばやと  12月30日 11時20分
2693 大年の過ぎたるほどの青天を凪の浜辺でひとり楽しむ  12月31日 08時16分