――何もかもが、あっという間に過ぎていくのね… 彼女は遠い雲を見ていた、西の地平に寄り添うように真っ白な雲が輝いている。 ――何だか、悲しいわ… 僕は、また探るように呟く彼女の言葉を聞き流していた。彼女がどんな言葉を 自分に求めているのか、わかっていたからだ。答えない私を確かめるように、彼 女はこくっと小さく喉を鳴らした。 ――あなたは過ぎてしまったものが知りたいって言ったわ。過ぎてしまうこと が悲しくないの? 私だって… 私だって、あなたから離れていこうとしているのに、そう言いたいに違いなか った。それはしかたのないことだった、愛はいつだって究極に遠ざかってゆく。 言いかけてやめた言葉を取り扱いかねるように黙っている彼女の横で、僕は一 本残ったキャメルに火をつける。白い煙が、風に誘われるように流れる。 ――歌っていい? 細く細くたなびいてゆく煙を見つめながら、かすれた声で彼女は聞いた。僕は そんな彼女がかわいそうでならなかった。 ――よせよ、こんな時に歌ったりするな。 彼女は本当に悲しい顔をした。西の地平には、さっきの雲が次第に光を失って、 うなだれていくのが見えた。キャメルは、ことさらにまずかった。 それでいいとやっぱり君に言えなくて光の消える速力を想(も)う |