十月の夜の窓辺で、彼女はじっと僕が煙草を吸うのを見ていた。 ――どうしてキャメルなの? 何気なく聞いたような言葉だったが、それは確かな響きをもっていて、僕の胸 を驚かせた。 ――ねえ、 自分がふと口にした言葉が案外に力をもっていたことに気付かされて、彼女は もっと強い口調で僕に迫った。 ――別に。特に理由なんてないさ。 ――嘘… それは秘密だった、君に言えない秘密。でも言えないからといって、嘘をつい たのは後味が悪かった。彼女に「嘘」と言われた時、僕は、彼女に対してではな く、自分に嘘をついた僕が責められたような気がした。 ――本当は、理由がある、でも…言えない。 急に表情をこわばらせた僕を見て、彼女は思わず目を見開いた。そして、しば らく僕の指の先でキャメルが白い灰になっていくのを見ていた。 ――いいわ、でも… ――でも? ――私がそれに気付いたということを忘れないで。 ――… ――そして、私があなたを憎んでいるということも… 彼女の嘘は、いつも下手だった。 燃えてゆくキャメルの灰にいくつもの嘘と秘密が見え隠れする夜 |