桃李歌壇 

素蘭短歌集 (平成12年)

平成13年 平成14年

888

千年の文待ちたれど君の見し花は幻虚空さまよふ  

11月3日 15時16分

896

我が咎と知りし時より幾夜経て君の言葉をここに聞くとは 

11月4日 23時11分

902

異空間君と我との来し方は行く末とても仮想現実 

11月5日 20時13分

912

水喰らふ針葉樹林痛ましく祖父亡きあとの山は荒れゆく  

11月8日 00時02分

920

散りそめし花に誘はれ見る夢は淡雪のごとはかなに消ゆる 

11月9日 19時28分

929

別れ雪白線流す手をかさね「理想」といふ名の荒野見つめる 

11月11日 21時50分

934

少年の心宿せし君なれば銀河鉄道天空をゆけ 

11月12日 22時34分

940

暗闇を切り裂く命見つめてる線香花火の燃え尽きるまで 

11月13日 23時49分

947

権力の継承謀る人々の驕り生みだす民の無自覚 

11月14日 19時41分

949

瀬を早み流れ流れて明日香川変わりゆく世のせせらぎ聞こゆ 

11月14日 23時53分

953

君送る君の愛でたるこの庭の紫式部いとど悲しき 

11月15日 19時53分

956

グリザベラ ミストフェリーズ タントミール ジェリクルキャッツが舞台に跳ねる 

11月16日 23時25分

959

枯葉舞ふ街角衿をかき合はせ家路を急ぐ人々の群 

11月17日 19時24分

962

教会の鐘の音遠く聞きながら見つめ合ひたるあの日に帰る 

11月18日 14時07分

964

新雪にシュプールゆるく描きつつ滑り終へたる朝のすがしさ 

11月18日 22時39分

967

我が内の鬼と戯る花の午後纏へる綺羅をひとつ脱ぎ捨て 

11月19日 12時30分

970

想ひ出の糸をくるくるたぐり寄せ織りたる布は淡き水色 

11月20日 00時50分

973

セージ パセリ ローズマリーを籠に摘む『スカボロー・フェア』を口ずさみつつ

11月20日 19時13分

979

選挙へと心早くも走るらし「励ます会」の招集かかる 

11月21日 18時47分

982

やりきれぬ現実穴をうがちたし時代閉塞啄木の世も 

11月22日 00時37分

987

ヒマラヤの峰をはるばる越えてゆく鶴のひとむれ奇跡見るごと 

11月22日 19時27分

989

冬ざれの心を癒す歌もがな言の葉ひとつ闇に放てど 

11月23日 01時11分

991

語らへど心通わぬ日の果ては言葉の無力噛みしめてゐる  

11月24日 00時42分

994

パソコンに向かって互ひに愚痴こぼすメールで飛びかふ交換日記 

11月25日 00時37分

998

などかくも君はこだはるうつそみの君の心の花にあらぬを 

11月26日 12時53分

998

などかくも君はこだわるうつそみの君の心の花にあらぬを 

11月26日 12時50分

1003

この道はわれの選びし道なれば迷ひとまどひされど歩めり 

11月26日 22時17分

1006

君恋し君は遙けき神の国小笠原なる海に消えたる 

11月27日 18時33分

1010

天空に奏でられたるオーロラの幻想曲にしばし佇む 

11月29日 00時38分

1012

古きこと思ひ出させるはつ冬の雨に打たれて今日は帰らう 

11月30日 00時22分

1016

空襲の爪痕幹に宿しままあまた実こぼす公孫樹ひともと 

12月1日 18時49分

1019

美辞麗句尽くせど心空疎なる文字の羅列と広報誌読む 

12月3日 11時06分

1022

ガラス戸のむかふに見ゆる日常を歌に詠みつぐ子規偲びつつ 

12月3日 21時50分

1026

抽出の奥から転がり出るやうに忘れたきこと甦りくる

12月5日 01時03分

1030

世紀末のパリにあふるるデカダンス ランボーの詩に憧れしころ

12月6日 00時15分

1033

天地の寄り添ふところ切々ととユーカラ謡ふイヨマンテの夜

12月6日 23時43分

1036

過ぎし日をうつつの夢に追ふごとくあえかに降れる吉野白雪

12月7日 14時29分

1038

八重葎茂れる里となりてなほダムとなりゆく村を恋ふ人

12月7日 23時32分

1040

ポケモンの名前すらすら挙ぐれども絶えて聞かざる童歌なり

12月8日 19時47分

1044

イカロスの翼をもちて翔けゆけり美(は)しき神ゆゑ焦がるる空に

12月9日 13時26分

1046

地図帳に見る世界事情火薬庫の国境国名ころころ変わる

12月9日 22時00分

1049

蛮声に奇声嬌声唱和して世紀末なるカオスの世界

12月10日 14時36分

1053

秋の野は薄・刈萱あるものを泡立草の黄色目につく

12月11日 00時31分

1059

かの地にて求めし香を焚きひとり記憶の海にしばし漂ふ

12月11日 17時54分

1063

小石蹴り蹴りつつ帰る夕まぐれ幼心に秘めしことあり

12月12日 00時27分

1069

春色のパシュミナふわり肩にかけ街に駈けゆく若さともしき

12月13日 00時50分

1072

白式の翁が舞へる能舞台たうたうたらりと鎮まりてゆく

12月13日 19時42分

1076

降る雪と見紛ふばかりに乱れ飛ぶ蜉蝣のごと命果つるか

12月14日 18時54分

1079

煌煌と天狼星は輝きて昴・オリオン星の饗宴

12月16日 01時14分

1081

草原に蒼きシリウス煌めきて騎馬民族の末裔照らす

12月16日 09時43分

1084

暴かれて褐色砂岩の墓を出づミイラマスクの美(は)しき少年

12月17日 00時34分

1090

暮れなずむ街を彩る電飾に欅並木の痛ましくもあり

12月18日 00時33分

1093

出す当ても無きまま手紙書き散らす夢朧なる春の余白に

12月18日 19時06分

1102

樅の木を求めて森に入りし日をふと懐かしむ父の記憶と 

12月19日 19時26分

1107

凍て菊のひと群残る冬の庭滅びゆくもの思ふ黄昏 

12月20日 19時22分

1114

「アヴェ・マリヤ」闇にながるる聖夜には雪恋ふ心われに戻り来  

12月22日 00時44分

1118

白龍の漁(すなど)りすらむいにしへを花降る午後の夢に追ひたし 

12月23日 01時46分

1123

恋唄に天気予報を読み込みし 寺山修司在りし日偲ぶ 

12月24日 00時57分

1126

夕暮れの丘にたたずみ聞く風はイーハトーヴに響くセロの音 

12月24日 14時15分

1128

ミサ曲を奏でるチェロに瞑目し聖夜旅立つ人を悼まむ 

12月24日 15時14分

1136

激動の世紀といへど人の世の変はらぬものをゆかしく思ふ 

12月26日 00時23分

1140

ヒマラヤの峰よりたどる蓮の国 転生児童逃れゆきたり 

12月26日 19時07分

1143

かの日にはおとぎ話のやうだつた 『2001年宇宙への旅』 

12月27日 00時22分

1149

裸木となりて欅の美しき樹形眺むる冬ざれの街 

12月28日 00時40分

1155

日常に離(あ)るる心を癒さむと真夜にひとり言葉を紡ぐ  

12月29日 01時05分