素蘭短歌集(平成14年)

平成12年 平成13年

連番 和歌 投稿日時
2697 玉の緒の絶ゆることなき言の葉のにぎははしけれあらたまの年   1月2日 00時07分
2701 まみるるはなにゆゑさくるすべもなきくれなゐの海わたくしをつつむ   1月3日 00時24分
2704 若冲の翼そびらに生ほすがに太鼓打ちてむ鼓動はやまず   1月4日 00時51分
2706 伊吹山荒ぶる神は白き猪となりて猛りぬ雪降りやまぬ   1月5日 00時46分
2710 いまだ見ぬ神を思へり群青の宙に皓なす鶴の渡りに   1月6日 00時36分
2712 隈取りのシスあらはるる宇宙戦黒沢映画の栄華しのばゆ   1月7日 23時59分
2716 南洋に怪獣あらはれやすしとふ猛獣ならば身ぬちにゐるが   1月9日 01時03分
2719 託言おほき身を赦さざる赦文鬼界ヶ島に僧都果てにき   1月10日 00時35分
2721 ミカエルの城のめぐりのあやにしき砂地に行きてたれかは帰らぬ   1月11日 01時35分
2723 砂糖菓子のこはるる刹那はらほろと零るる夢をたれか見ざりき   1月11日 23時14分
2726 〈喜びも悲しみも幾歳月〉をふりほだしとはきづなならむか   1月12日 23時20分
2729 ふるさとは旧る里にして経る里か思へば幾地めぐり来ぬらむ   1月14日 22時22分
2734 ポンペイのかの一日を思へ繁栄のつひえるときは瞬時にやあらぬ   1月16日 01時03分
2736 森ふかき国のまほらに愁ひつつかくれんぼの鬼うたとたはむる   1月17日 00時54分
2739 倦怠のなかですべてが始まると夕陽見つらむひとのありしか   1月18日 00時58分
2741 とほきよりまよひ来にけるひとひらの雪くちづけて水に還さむ   1月19日 00時13分
2746 いくたびも雪の深さを尋ねける立つことかたきひとの習ひに   1月20日 23時26分
2750 二十億光年めぐる法則としてニュートンの林檎落つるや   1月22日 19時37分
2754 日脚のぶ電車に語りまどろみて寄り添ふ老いを安けくも見つ   1月26日 01時10分
2756 あかねさす紫草の生ふといふ武蔵野あはに雪や降りける   1月27日 00時39分
2760 みちのくの七つ森とやしらじらと雪月ありぬ汽車は旋りぬ   1月28日 00時46分
2762 くらき玻璃にしづもれるものひとりみて自由軌道をかける汽車はも   1月29日 00時46分
2765 きさらぎの望月の花たが願ふけふ望月のすみすみてゆく   1月30日 01時09分
2768 おのが夢たたみて眠る冬の蝶翅ふるはするはつかなる音   1月31日 00時52分
2771 ゆくりなく悲しきこころ知りしとき添ひにき歌を忘れやはする   2月1日 00時24分
2773 哀しみはたとへば樹液ねつとりとまとはりついて透きとほるもの   2月1日 18時56分
2775 とりどりの象を択りて雲流れまばゆきまでのきさらぎの空   2月3日 00時55分
2778 伝説は濃きくれなゐのかたちして崑崙黒とふ椿はありぬ   2月4日 18時38分
2781 タトゥインとふ砂の惑星辺境ははぐれものゆゑオアシスならむ   2月5日 01時29分
2784 なにげなしまろくなりける空の色重きコートを脱ぎにけるかも   2月6日 00時23分
2787 セピア色水色薔薇色思ひ出をたとふる色はさまざまなれど   2月7日 00時04分
2791 海石榴市(つばいち)の八十の衢のかしましく水さすものぞ歌垣あはれ  2月7日 23時14分
2793 たらちねとたらちめたらちをたらればの小言おほしき昔しのばゆ   2月10日 01時16分
2796 果てもなき空の青鈍過飽和を告ぐるや春の霙降りける   2月11日 13時37分
2798 クラインの壺のごとかる日常のえうなきものとたはむれしころ   2月13日 01時05分
2801 きさらぎの書棚ゆいづる百鬼園狂ほしきまでの回想読みぬ   2月14日 00時02分
2805 クムランの洞窟ふかく死海文書あり永遠の黙示あらぬや   2月15日 01時28分
2807 さまよへる湖へヘディンの漕ぎゆきし一艘の舟偲ばるるかな   2月16日 01時42分
2810 魔王ーそのアリアやさしく歌ふゆゑ奪はるるもの少年と呼ぶ   2月17日 01時05分
2812 形神は蒼きかげりの玻璃に似てくだかれやすき少年の日々   2月19日 01時15分
2814 春の夜のたふときあはれ求めなば宵あけぼのの中といふらむ   2月20日 00時59分
2816 鶯の初音聞きてむ一雨の降るごと春のめざめにければ   2月21日 01時14分
2819 白魚の白き一寸かなしびてわがまなうらにみどりご泳ぐ   2月22日 01時05分
2822 ギリシアの哲学以前文字ありき饒舌なるものΣと呼びき   2月22日 22時50分
2825 物見高きひと集まりぬめづらかな鳥の渡れるあつかひ草に   2月24日 01時19分
2827 容るる水なき土器のひとつある冬ざれにける庭の一隅   2月24日 20時37分
2831 道の辺の雑草芽ぐみつつあらむ犬ふぐり咲く春は来にけり   2月26日 00時30分
2835 数ならぬ身とふ法師のなかなかに名にこだはりてあはれきさらぎ   2月27日 01時46分
2838 くくもりて睦月如月白蓮は剖るるまでの夢にこもれり   2月28日 00時45分
2843 鳥曇・霞・陽炎・春の闇 朧なることうるはしからむ   3月1日 01時12分
3313 鎌倉は美男におはすみほとけのきみに菊酒今宵酌ままし   9月9日 23時38分
3338 ふけぬらむ空にぞ月はかかれどもさゆるばかりに見がてにあるぞ  9月21日 23時35分
3351 長月の夜は有明を待ちながらはかなき秋ををしむべらなり   9月24日 19時54分
3357 鴇色はカラーチャートのなかにあるたれも知らないあしたのやうに  9月27日 00時39分
3360 いはれある磐余の池に鳴く鴨は今日渡れるや秋闌けぬらむ   9月28日 00時46分
3365 露の世は露の宿りに露の身を露の間おきて露ぞかわかぬ   9月30日 00時36分
3369 秋草はゆるる絃なれひたぶるに鉦打ち鳴らす虫とあはむに   10月3日 01時14分
3375 声なくも夕空さはにいろどへるあきつあかねは胸につぐべし   10月6日 01時10分
3379 きちかうはきちとかうとのかさねにてくれなゐあゐににほふ紫   10月8日 01時02分
3383 髪梳くや菟原処女がししくしろ黄泉に待たむと今宵逢はむと   10月11日 00時38分
3388 獅子庵に二見台あり獅子老の遺墨にめをと岩あるゆゑん   10月15日 01時19分
3391 よろづ世に語り継ぐべき名も持たず滅びしものの芒野ありや   10月17日 01時11分
3394 一家の火影に萩のなまめきて一夜の夢のやすらけくこそ   10月20日 00時23分
3399 虚像のみとらふ鏡よ等距離にふたりのわれがわれをまもりつ   10月22日 21時37分
3404 金の鳥銀の小鳥に一葉のにほひたちぬる秋闌けにけり   10月26日 00時38分
3407 人はいさわれは籠らむ近江道の鳥籠(とこ)の山にぞわれは籠らむ  10月27日 00時39分
3418 秋なれば木の実艸のみひろはむよそらに木立のいまは何色   10月30日 10時30分
3421 働くこと休めるときに手を見たるひとりのわれにかへらむときに   11月1日 01時22分
3426 こがねづく田の面(も)の穂波ほのぼのと霧たつ朝の風は知らゆな  11月2日 01時33分
3431 芒野に澪のありとや西風(にし)吹かばそよその路をわたりかゆかむ  11月3日 22時52分
3439 夕占(ゆふうら)に下駄を投げてし秋天の雲ちりぢりに明日どうなる 11月5日 22時52分
3444 穢れより生(あ)るるものあり白妙の天花あこやのまきてかなしも  11月6日 22時38分
3450 帰りなむ籬に花のしをるれば侘び寂び昔しのばむものを   11月7日 23時56分
3455 土にふらば土に還らむ雨や葉のごとく都会に人はふらむか   11月9日 15時36分
3461 歳時記をさいさいめくりめぐるまに夢に逢ひたる人と逢ひたる   11月11日 00時02分
3465 桜さくら桜もみぢて散りぬべし無腸の夢のめぐれるところ   11月12日 00時18分
3470 戸隠の鬼女ともならむ夕紅葉からくれなゐとはかなしきこころ   11月13日 01時17分
3474 名画座をおもへば追憶・旅愁とふわがのすたるぢあに邦題ゆかし   11月14日 01時05分
3480 枳殻の垣をくぐらむいにしへに塩竈ありぬしほくむために   11月15日 00時07分
3486 散ればこそめでたかるらめ水無瀬川桜もみぢて下ゆ流るる   11月16日 23時32分
3490 紐育・倫敦・巴里を銀幕に見しころとほくあくがれとほく   11月18日 01時11分
3497 うつせみのひとなるゆゑにこころ和(な)ぐ山ゆき野ゆきあずさは発ちぬ   11月19日 00時46分
3500 神無月降りてきさうな空だから降りみ降らずみ冬ざれにける   11月20日 01時21分
3504 枕辺にすゑたる鶴の旅だたねひかりながるる見晴の空に   11月21日 01時20分
3508 薔薇をつむかなしき手と手あらはれぬ現世忘れゆく二十五時   11月22日 00時39分
3511 闇鍋かお好み焼きか知らねども蓼食ふ虫のかくこそありけれ   11月23日 23時26分
3515 縦のもの横にするがに時折は些細に視点変ゆる大切   11月24日 20時11分
3520 美しき薔薇に棘ありさりながら美しからぬわれに棘あり   11月25日 23時36分
3523 はてしなき議論の後の一碗のココアほろほろ苦く甘かり   11月26日 23時39分
3531 言ふは易く行ひがたき性なれど無為自然とふ道のほのぼの   11月28日 00時59分
3534 きみならでたれにか見せむ初冬の空にいもせの虹かかりしを   11月29日 00時57分
3540 夢はいつも帰りゆきなむ追分に凍みこほりたるのちのおもひに   11月30日 00時43分
3543 からまつの林を過ぎてからまつの韻(ひびき)幽けしかそけきゆふべ   11月30日 15時28分
3548 クリスマス商機迎へるティファニーに群れる若者何故に若者   12月1日 01時59分
3551 公園デビューなる項目のあらはれて肥大化する育児マニュアル   12月2日 00時28分
3556 つはぶきの黄はひかりいろ石の間にだんまりだまりひともしをりぬ   12月3日 00時34分
3564 文と文のあはひに生るるみづからに笛吹きやれば目覚めしわれは   12月4日 00時30分
3578 気多の海堺の海の遠鳴りに耳をすまさむわれも海賊   12月5日 00時14分
3590 耳すこしとほくなりたるたらちねの血筋なるかな超個人主義   12月6日 00時24分
3597 怪文書作成講座見るやうな東海学園〈共生〉思想   12月6日 16時53分
3611 西国の満願寺へとあまたひと運びし鉄路錆びにし鉄路   12月8日 15時09分
3622 類は友となりたる子らに思ほえず同窓の母三人(みたり)まみえり 12月10日 00時22分
3635 風花をたまづさにかへおくらばや冬ざれにけるきみの街へと   12月11日 00時44分
3649 星はスバル六連星(むつらぼし)にて浪漫の燭かかげたる明星その後  12月12日 00時36分
3664 贅沢は素敵と返す落首ありかかる洒脱をほのぼの思ゆ   12月13日 01時13分
3701 遙か釧路へ流離ののちの歌なればただ一握の砂のごとしも   12月14日 01時55分
3715 極まりの月はなかばに満ちゆかむ月に焦がるるこころ知らゆな   12月15日 01時42分
3723 雪ふらば見つつ偲はな逢はざりし雲に隠るる生駒偲はな   12月15日 15時17分
3732 半世紀歌ひつがるる紅白の女王にとりのひばり在りし日   12月16日 00時32分
3749 縄張りを広く持たねば生きられぬ猛禽タカ目絶滅危惧種   12月17日 01時27分
3760 バルチック艦隊通過予想図に対馬はとほき神風の海   12月18日 01時09分
3767 瓜実の銀杏返しのをんなゐて漱石の恋今にせつなし   12月19日 01時12分
3773 六地蔵一の地蔵はしづもれる大き公孫樹の傘借るやうに   12月20日 01時55分
3782 親業といふ言葉あり業ならばなる程子育て苦痛なるべし   12月21日 01時54分
3785 出がけに必ず腹痛ありて友我を万年登校拒否児といひぬ   12月22日 00時55分
3789 星ひとつ樹上に飾りをへながらベツレヘムとは遠き国原   12月23日 00時53分
3796 燐寸より手燭にうつす火(ほ)の色のうちにこもれるあをよりあかし 12月24日 01時39分