ひとしおのことほぎをまづ人の子の我れにしあれば君の先想う 十年の年月の中に埋没す吾が歌人の魂(たま)も心も 老いぬれば魂も心もなかりけり歩まぬ道を歩むと思いて せわしきと吾が胸ぬちに言い聞かせ何にいそぐか知らず道来つ わが魂の心の隅にひた燃えてじっと自分を見つめるごとし たまさかに君の未来を祈り居てつと若き日に呼吸する知る 若人は嗤い去るべし老い人を蹴り捨てにして歩み出よ今 寂しみを手のうちにして握り居ん旅立つ人の心忘れず 形なぞ何もなき身と知れよかしあるはかすかにともる裡(うち)の灯 やよ記憶したまえ今を三月の風の匂いと人の祈りを 梅の花咲きて散りゆく沈丁花匂いくゆりぬときはうつくし * * 我れなぞと思う心に嗤われて去りがてにゆく君を押しもとどめず 二十年(はたとせ)の風と光と。胸ぬちに口触りているかなしき心 |