桃李歌壇  

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2. さざめき

胸に迫る文なりされど必ずや去りゆく人の文はかなしき

つと臥せて涙落とすと云えるわが宇宙はじけてぽつんとひとり

身のうちの水分すべて出だせしと君は、はからずせつなかりしも

若き心君のために贈らんとひねもす白き歌集作れり

今日もまた雨の降る日になりにけり悲しき歌を朝から歌う

空暗く泣けるがごとし抽斗(ひきだし)の奥より君の手紙出だしつ

自転車で坂道下る霧雨の吾が心まで刺しいるいたし

菜の花に埋もれていたし胸あつく香れるままにしばし祈らん

雨に濡れ瓦光りぬされば夜は赤きワインを慈しみなん

一日の終わりにワイン慈しむ仕事の電話あれど歌うたう

手にとりて赤きワインのその赤を胸つまるまで見つめていたり

一夜明けて雨なき朝になりにけり祈りの歌を今日も歌わん

雪のごと花散りしきぬたちどまり寂し心に問いかけてみる

中空を花びらの一つ舞いゆきて歌人なれば追いかけている

曇り日は何を思うて居たるらんさびしき背(せな)を忘れかねつも

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