白らかに霞みわたりて山も街もわが魂のごとしづんでいたり 草も木も五月の光染み込みてあおあお繁る吾れは泣きなむ 生きていることの証(あかし)が欲しくなりひそかに胸に手をあててみる さびしさに下唇をぎゅっと噛むおのれの一歩あまり小さくて 今更に見まじきものを見る上はわが身の行く手思い知れかし 「悲しみはいつもいつでもすぐにやってくるから」ひねもす口づさみたり 知らぬ町歩くよろこび人々の営みの中禊(みそ)がれてゆく 道行けば町に鐘鳴る美しき心抱きて歩かんと思う 川風に吹かれておれば身のうちのすべて流れて消えゆくごとし ことさらに食べながら行く無作法をあえてしたるが嬉しかりけり 恥づかしと思う心もなかりけり町のやさしさ染み居てあれば 人の居ぬ駅のホームで歌うたうふいのアカシヤかなしかりけり いつまでも口ずさみ居てもろともに鳥も歌えば人をし思う いづくより人の声する幻想のおのが実感渦巻きていぬ |