桃李歌壇

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11. 抵抗

今日よりは強く生きんと思い決め敢えて厳しく仕事入れたり

おのれ一人生きてあるらんおのれ一人老いてゆくらん寂しくなりぬ

ことさらに坂道下るずるずると堕ちてゆく身を感じたければ

何となく胸のふたがる思いにて明るき道をほとほとと行く

心弱く生きたりしかな雨降る日風の吹く日も花の散る日も

わが横を車過ぎゆく幾台も幾台も早や追い抜けよかし

心あらば共に旅せん行く雲の心地よさげに浮いてあるらん

半分は自棄(やけ)に出でたる意志なれど心決めなば楽にもならん

何もかも厭なことみんな振り捨てて…できもせぬこと思う可嗤(おか)しさ

雨降れば心も雨に、晴れたれば心も晴るる、そんな単純

ふわふわと浮ついている魂のおのれいずこにまことのありや

わが胸の落ち居る先のわかぬまま家路を辿る心弱さよ


 朝、目を覚ました時、夢か現実か、しばらく考える、毎日のことだ。自分の心
を重苦しくしているものが何かわかっているような、本当はわかっていないよう
な、でも、確実に今日も胸の中に巣くっている。のろのろと起き出して仕事にで
かける用意をする。今日も付き合っていかなければならないのだ。毎日急な坂を
自転車で上っては下り、勤務先へ向かう。ぶつぶつ呟きながらペダルをこぐ私を
人は怪訝に思うだろう、そうだ、自分も怪訝に思っているのだ。生きていくこと
に、こんな大事なことに、自分はなぜ無頓着でいられたのか… 一度しかない人
生の一番尊い時期を、どうしてぞんざいに扱ってしまったのだろう… ぶつぶつ
呟きながら行く私の横を若い人たちがバイクや車に乗って、どんどん通り過ぎて
いく。私は、今の私は… 遠い空を見つめながら、私はまた問いかける。

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