いつかしら傷ついている心なり曇れる空の下に憩いて 何もかもうっちゃってすぐ走り出し風の匂いをきいてゆきたし 雨はやみぬ光こもれる雲ぬちに我れの心もしづまりていぬ 遠山に低く雲垂る細々と風吹きゆけり君のおもかげ つれづれに君に語りし真夜中の空気の匂い確かめてみる 何も何も思わずに済む世にゆきてひとつのことを信じていたし そっと自分の大切なもの確かめる風が流れて心騒ぐ日 ざわざわと心の騒ぐ時、神は皮肉にも私をもう一度繁多の現実にひきずり戻し た。勇気を奮い起こして、また歩き始めたが、十年という時の長さをすぐさま思 い知らされる。昔とは違う、身を束縛するものは当たり前のように次から次へと 襲いかかり、青い志を踏みつけようとする、だから苦しくなってもがく。 情熱は? そんなものは嘘臭い。そう呟いた時、十年自分の支えとなってきた ものが、いともたやすく崩れ落ちる。そして、その瓦礫の中から傷ついた歌びと の魂が甦る。ひとりこれから私はどうしよう。 懊悩の日々送りても草は茂り春は過ぎゆく生き出でんかも また今日も心のうちに問いかける弱きおのれの芯のありかを 光満つる五月の朝は決断と勇気なきもの死に絶えよかし 生気なき実習生の授業なり山白らかにかすみたる見る 金曜の夜街に出であやしくも燈火の海に胸痛むおぼゆ くらき道歩く、はじめの一歩見て遠くかすめる最初の一歩を したたかに酔いて自転車こぎたれば寂しみもなお悲しみもなお |