日もすがら畑に出でて土触るる罪の意識にさいなまれつつ 何ゆえの重き心ぞ、はやすでに知ってるくせに、ひとり呟く 身のうちに悪魔のごとき潜みいて我れに囁く知れる怖し 茄子の葉に露の光れる朝には人の心を思うていたし ひりひりと心痛める想いなれば畑の中に立ちつくしたり 茄子の小果(み)を然るべく指に折り取りつ親の身のため夢育てんがため いのちあるものを育てているという感覚がなかったのか、十年庭で野菜を作り ながら、こんな気持になったことはなかった。何が自分をこんなにさびしくして いるのか、小指の先ぐらいの小さい茄子の実をもいだ時、自分の胸に痛みが走っ た。親株を大きく育てるために、絶対しなければならないことだ。 いのちある実をもいだからなどという偽善では決してない。ただ、自分のした ことがさびしいことだという実感が漠然とあって、いつまでもこだわらずにいら れなかったのである。 ひとり道歩きたくなり便箋と香をもとめて街にあくがる さびしくて止まらず歩く、リュックより香の匂いのすこぶるかなし 何一つつかみ得ぬまま死んで行く身なりと思う我れは必ず さびしくてさびしくてさびしくてただ香の匂いにうづもりている 君は夢を追うていたれよわが魂はいづくにありやわかぬ身なれど そっと名を呟いてみる心なり夜の響きのこもる列車で 街の灯の流れる窓に頬つけて呟いているおのれがひとり |